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黒い壁21

时间: 2018-07-30    进入日语论坛
核心提示:21 幽 霊 パタッ。 冷たい滴が首筋に落ちて来て、美奈は、「キャッ!」 と悲鳴を上げた。「黙れ!」 オットーが怒鳴る。 
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 21 幽 霊
 
 パタッ。
 
 冷たい滴が首筋に落ちて来て、美奈は、
 
「キャッ!」
 
 と悲鳴を上げた。
 
「黙れ!」
 
 オットーが怒鳴る。
 
 美奈は、じっとオットーと向い合ってトンネルの中に立っていた。
 
「——どうなってるんだ」
 
 オットーは、トンネルの中をゆっくりと見回した。
 
「憶《おぼ》えてるんでしょ」
 
 と、美奈は言った。「このトンネルで何があったのか」
 
 オットーは、美奈をじっと見つめて、
 
「お前がやったのか?」
 
「私が? 私が知ってるわけないじゃない。私の生れる前のことよ」
 
「それなら、どうしてここにいるんだ」
 
「分らないわ」
 
 と、美奈は言った。「ただ、前にも一度、ここへ迷い込んだの」
 
「迷い込んだ?」
 
「ええ」
 
「このトンネルは……。だが、こんな馬鹿な!」
 
「私、見たわ、あなたを」
 
 オットーがギクリとして、
 
「俺を?」
 
「ええ。もっと若くて、軍服を着て」
 
「——それから」
 
「マルティンと二人で、どこかの国の人たちを案内して来たわ。通訳をしている日本人がいて」
 
 オットーは、やっとこれが何かのトリックではないと納得したようだった。
 
「過去へ迷い込んだのか? 俺たちは、どうなるんだ」
 
「分らないわ。——これがいつのトンネルなのか、知らないもの」
 
「お前は前にも来たと言ったな。どうやって戻った?」
 
「真暗になって、気絶したの。目が覚めたら、戻ってたのよ」
 
 オットーは拳銃を上着の下へしまうと、
 
「奥へ行こう」
 
 と言った。
 
「どうして?」
 
「外へ出る口がある。——ここがどの辺か分らないが」
 
「でも、外へ出ても、いつの時代か分らないじゃない」
 
「ああ……。しかし、こんな所に突っ立っているよりましだ」
 
「でも——」
 
「黙って!」
 
 オットーが小声で、「聞こえるか」
 
 と言った。
 
 トンネルの、塗り込められたような静寂の奥から、少しずつ、ざわめくような物音が聞こえて来た。
 
「人の声だわ」
 
「近付いてくる」
 
 オットーは背後を振り向き、「あっちから来るな。先へ行こう」
 
 美奈は、逆らわずにオットーについてトンネルを歩き出した。
 
 追われるように、二人の足どりは、少しずつ速くなる。それでも、背後の声が近付く方が速いようだった。
 
「急げ」
 
「そんなこと——」
 
「急ぐんだ!」
 
 足下で泥がはねた。美奈は思い切り転んで、泥だらけになったが、立ち上って、すぐに歩きだした。
 
「もうすぐだ」
 
 オットーが言った。
 
 トンネルが明るくなった。
 
 あの行き止りに来た。美奈は息を弾ませていた。
 
「——出口って?」
 
「待て」
 
 オットーが足を運んだのは、あのぬいぐるみの落ちていた隅だった。
 
「これを開けると、出口がある」
 
「マンホールなのに?」
 
「下へ降りる途中、横穴があって、そこから地上へ出る穴へ通じてるんだ」
 
 オットーはマンホールのふたを引張ったが、それは固く閉じて、動かなかった。
 
「——畜生! どうして開かないんだ!」
 
 オットーの顔は汗で光っていた。
 
「来るよ」
 
 と、美奈が言った。
 
 人の声が、すぐ近くまで来ていた。
 
 オットーは必死でマンホールのふたを引張っていた。それはかすかにきしみながら、少しずつ持ち上り始めていた。
 
「前のときは、誰も私のいることに気付かなかったわ」
 
 と、美奈は言った。「今もきっと——」
 
「あれはおかしい」
 
 と、オットーが言った。
 
「おかしいって」
 
「このトンネルの中じゃ、みんなしゃべったりしない。黙々と歩いているはずだ。——おい、お前も引張れ!」
 
 美奈も仕方なくオットーと一緒にふたを引張った。徐々にではあるが、ふたが開く。異様な匂いが鼻をついた。
 
 ふたが完全に開き切らない内に、その人たちがやって来た。
 
 美奈は、自分が悪い夢を見ているような気がした。——そこへやって来たのは、「過去の人たち」ではなかった。
 
「——あれは何だ!」
 
 と、オットーが真青になって、震えている。
 
 老人がいた。女が、子供がいた。何十人いるんだろう?
 
 しかし——誰一人として、「生きて」いなかった。
 
 老人の白い顔は半分銃で吹っ飛んでいた。赤ん坊を抱いた女は血だらけで、胸のど真中に銃弾の貫通した穴が黒々と口を開けている。
 
 そして、小さな男の子も、こめかみに銃口を押し当てて撃ったのだろう、血がどす黒く固まっていた。
 
 誰もが白い顔に笑みを浮かべていて、ワイシャツやブラウスを血で染めていた。
 
 この世のものではない。——美奈はあまりに凄《せい》惨《さん》な光景に、恐怖すら感じられずに立ちすくんでいた。
 
 見えないんだ。向うからは私のことが見えないんだ。——美奈は自分にそう言い聞かせた。
 
 しかし——その人たちが急に話をやめた。
 
 それは、どう見てもオットーと美奈の二人に気付いたせいだったのだ。
 
 人々は、しばらく黙って二人の方を探るように見ていたが……。
 
「オットー!」
 
 と、一人が言って、みんな一斉に、
 
「オットー!」
 
「オットー!」
 
 と、口々に叫び始めた。
 
 その声には怒りがこめられていた。
 
「見えてるんだわ」
 
 と、美奈は言った。「こっちへ来る」
 
 オットーは、開きかけたマンホールのふたを、全身の力で引張った。ふたがパッと開いて、オットーが弾みで尻もちをついた。
 
「オットー!」
 
 死者たちが、激しい怒りの声を上げながらやって来る。
 
「来るな! 畜生!」
 
 オットーが立ち上り、拳銃を抜いて、彼らに向けて撃った。
 
「死んでるんだよ、もう! むだだよ」
 
 と、美奈は叫んだ。
 
「中へ入れ!——急げ!」
 
 オットーにせかされて、美奈はマンホールの中へ入って行った。目の回るような匂い。——真直ぐの穴を下りて行くための、細いはしごがある。美奈はそれを下り始めた。
 
「早く行け!」
 
 オットーが美奈の頭上へ下りて来る。美奈はあわてて急ごうとして、足を踏み外してしまった。
 
 悲鳴を上げる。しかし、美奈の叫び声は、もうマンホールまでやって来ていた死者たちの怒りの声に、かき消されてしまった。
 
 オットーがどんどん降りて来る。そして、手を踏まれそうになった美奈は、思わずはしごから手を離してしまっていた。
 
 声を上げる間もなく、暗いたて穴を、美奈は落ちて行った。
 
 
 
 ガラガラと音がして、
 
「美奈ちゃん!」
 
 ハッと顔を上げると、利根がエレベーターの前に立っていた。
 
「利根さん!」
 
「立てるか?」
 
 利根に支えられて、美奈は立ち上ると、エレベーターを出た。カールの入院している病院だ。——戻って来た!
 
 利根は美奈を廊下の隅へ連れて行くと、泥のついた美奈の服を見て、
 
「また行ったんだね」
 
 と訊《き》く。
 
「オットーが、カールを殺しに来たの」
 
 と、美奈はその後に起ったことを、利根に話して聞かせた。
 
「じゃ——その『死んだ人間たち』がオットーを襲おうとしたのか」
 
「私のことも、 はっきり分ってたわ。 オットーがどうしたのか分らないけど……。 カールは大丈夫?」
 
「うん、大丈夫だ。カールからオットーと君のことを聞いて、心配で捜してた」
 
「あの人たち……。幽霊だとしても、ふしぎじゃないわね」
 
 と、美奈は言った。「もし捕まってたら、オットーは……」
 
「仕方ない。我々にはどうすることもできないよ」
 
 と、利根は言った。
 
「でも……こんなことがいつまで続くの?」
 
「分らないよ。あのトンネルで殺された人たちの魂が慰められるまでは——罪が償われるまでは、無理かもしれない」
 
 美奈にも、彼らの怒りと恨みはよく分った。もちろん美奈は何も係《かかわ》りのないことだが——。
 
 そのとき、病院の廊下をやって来たのは、金髪の外国人で、利根はそれを見て、
 
「マルティンだ」
 
 と言った。
 
 その声を聞きつけたらしい。マルティンが利根と美奈の方へとやって来る。
 
「マルティンさんね」
 
 と、美奈は言った。「私、弓原栄江の娘です」
 
「ああ、美奈ちゃんだね」
 
「ここへはなぜ?」
 
 と訊かれて、マルティンはちょっとためらった。
 
「オットーに呼ばれたんでしょ」
 
 美奈の言葉に、マルティンは目をみはった。
 
「どうしてそれを——」
 
「オットーはね、今、〈トンネル〉の中にいるわ」
 
「何だって?」
 
「まあ、今ここで話をしても分らないだろう」
 
 と、利根は言った。「ともかく、僕も、この美奈ちゃんも、ある事情から、昔、東ドイツのトンネルの中で起ったことを知っている、とだけ言っておこう」
 
 マルティンが一瞬真青になった。
 
「マルティンさん」
 
 と、美奈が言った。「あのトンネルの中で、あなたも罪のない人たちを騙《だま》して、殺したんですか」
 
 マルティンは答えなかった。ただ固い表情で、美奈を見ている。
 
「もしそうなら」
 
 と、美奈は続けて言った。「母とは付合わないで。母はあなたのことを愛してるかもしれないけど、でも、過去のことは知らないわ。もし知ったら、きっと苦しむと思うの。母のことを好きなら、黙って別れて下さい」
 
 マルティンが、しばらくしてから口を開きかけたときだった。
 
 廊下に悲鳴が響き渡った。
 
 看護婦が、廊下に座り込んで、立てずにいる。利根たちも駆けつけた。
 
「どうしました?」
 
「エレベーター……」
 
 と、看護婦はガタガタ震えながら目の前のエレベーターを指さす。
 
「エレベーターがどうしたんです?」
 
 と、利根が訊くと、
 
「エレベーターの中……」
 
「中?」
 
 利根はボタンを押した。
 
 エレベーターの扉が開く。——覗《のぞ》いた美奈が、声も上げられず、よろけた。
 
 マルティンは中を覗き見ると、唖《あ》然《ぜん》とした。
 
 そこには——バラバラにされたオットーがいた。
 
 頭が床をゆっくりと転り、両腕、両足、胴体が、どれも凄《すご》い力でねじ切られたように、ちぎれて打ち捨てられていた。
 
「オットー……」
 
 と、マルティンが言った。
 
「復讐だわ」
 
 と言って、美奈は大きく息をつくと、利根の手を思わず握りしめていた……。
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