「どう?」
と、聡子が訊く。
「大丈夫。食い入るようにスクリーンを見てるわよ、みんな」
啓子が、控室へ入って来て、言った。
「そう……」
完成した映画「殺意のプリズム」のプレミアである。
ロードショー館の事務室には、松原、峰川を始め、主なキャストが揃《そろ》っている。もちろん、君永や真弓はいないけれども。
普通なら、舞台挨拶の後で、映画が上映されるのだが、今日は逆だ。観客の反応を、峰川が知りたがったのである。
「あと五、六分で終りだな」
と、松原が言った。「こんな気持になったのは、久しぶりだよ」
峰川が、ふと立ち上ると、
「どんな結果になるかは分らないが、ここでみなさんにお礼を申し上げときたい」
と、口を開いた。「もう一生、こんな映画はとれないかもしれない。満足ですよ」
「そんな、監督」
と、聡子が言った。「また、とって下さらないと、私、引退しちゃいますよ」
「こりゃ大変だ」
と、松原が笑った。「いや、峰川さん。——まだこれからだよ。我々のような者が、聡子君たち、若い世代を盛り立てて行こう。それが我々の仕事だ」
「全くですな」
峰川が肯いた。
「——お願いします」
と、宣伝部の人間が顔を出した。「もうすぐ終りですので、舞台の袖《そで》に」
全員が立ち上り、事務室を出て、閑散としたロビーを抜けて行く。
舞台の袖に入ると、スクリーンの音が聞こえて来た。ラストシーンだ。
聡子は、そっと啓子に、
「私、あんな声してるの?」
と訊いた。
「そうよ」
「へえ」
聡子は面白そうに、「結構いい声ね」
「——お姉ちゃん」
恵一が顔を出した。
「何だ、見てないの?」
「もう終りだろ。結構面白かったよ」
峰川が、楽しそうに、
「こりゃ、自信がついた」
と、笑った。
「僕の出番が少ないよ」
と、剣崎が文句を言った。
「人気次第よ」
啓子に言われて、剣崎は、
「そりゃ分ってるけどね」
と、肩をすくめた。「聡子君とラブシーンができりゃ、ワンカットしか出なくても満足だ!」
「——しっ、終りよ」
と、啓子が言った。
エンドタイトルが出る。
拍手が起った。——たちまちそれが広がって行く。
「やった」
と、剣崎が肯いて、「試写で拍手が来るのは珍しいんだ」
「やったんだ」
松原が、聡子の肩に手をかけた。「おめでとう」
「ありがとうございます」
聡子は素直に言った。
館内が明るくなる。——合図が出て、
「さ、舞台へ出て」
と、啓子が言った。「松原さんから」
「いや、我らのスターが先頭さ」
松原が、聡子を押しやる。
聡子も逆らわなかった。
一つ深呼吸をすると、舞台の中央に向って歩き出す。
まぶしいスポットライトが、今、聡子を捉《とら》えて、そのドレスを虹《にじ》色《いろ》にきらめかせると、観客の歓呼と拍手が、それをたちまち押し包んで、さらに大きく盛り上ったのだった……。