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透き通った花嫁01

时间: 2018-07-31    进入日语论坛
核心提示:プロローグ 塚川亜由美は、苛《いら》々《いら》しながら、人を待っていた。 珍しいことである。約束をうっかり忘れてすっぽか
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 プロローグ
 
 塚川亜由美は、苛《いら》々《いら》しながら、人を待っていた。
 珍しいことである。約束をうっかり忘れてすっぽかしたり、待ち合せの時間になってから家を飛び出したりというのは、亜由美の側であることが多い。しかし、今日に限っては、亜由美はもう十分も待たされているのだった。
「亜由美、何してんの?」
 と、やって来たのは、同じ文学部に通う親友の神田聡子。
「聡子か」
「悪かったわね、私で」
「そうじゃないの。幸《ゆき》枝《え》を待ってるところだから」
「幸枝って──牧口幸枝?」
「そう。何だか私に相談があるっていうから待ってるのに、ちっとも来ないのよね」
 と、亜由美は口を尖《とが》らしている。
 ま、口を尖らしてもふくれても、美人は可愛い、と亜由美は信じている。
 ところで、この二人がここで会ったのは、偶然とはいえ、決して珍しいことではない。何といっても、ここは二人の通う大学の学生食堂なのだから。
「午後の講義、あったっけ?」
 と、聡子が亜由美の隣に腰をおろす。
「ないよ。この前、休講って言ってたじゃない」
「じゃ、待っててもいいじゃないの」
「いやよ。せっかく早く帰れると思ってたのに」
「何か用があるわけ?」
「用がなきゃ、家にいちゃいけないの?」
 ──二人は決して漫才をやっているのではない。ただ、仲がいいので、いつもこんな調子になってしまうのである。
「十五分も過ぎた」
 と、亜由美が腕時計を見て、言った。
「三十分くらいまでは勘弁してやんなさいよ」
 聡子が苦笑して、 「あの子が亜由美に相談したいなんて、よほどのことよ」
「どういう意味、それ?」
 ちょうど午後の講義の始まる時間で、学生食堂にいた学生たちがゾロゾロと出て行き、急に静かになる。
「あーあ、静かになるとホッとするわね」
 と、亜由美は、お世辞にもおいしいとは言いかねる(安いから仕方ないけど)コーヒーを飲みながら、言った。
「本当。頭痛くなっちゃうよね、あんまりやかましくて」
 こういうことを言う当人に限って、人並み以上にやかましいのである……。
「でも、何だろね、幸枝が相談ごとって」
 と、聡子はコーラを飲んでいる。
「おこづかい貸してくれとか、ノート写させてとかでないのは確かだね」
「私たちとは違うわよ、幸枝は」
 と、聡子は笑った。
 ──牧口幸枝は、この二人に比べれば至っておとなしい。いや、亜由美に比べると、たいていの子は「おとなしい」範囲に入ってしまうだろうが、幸枝の場合は、一般の水準から言っても、とてもおとなしいのである。
 可愛い顔立ちなのだが、地味好み。亜由美がからかって、
「幸枝おばさん」
 なんて呼ぶくらい地味ななりをしていることが多い。
 成績はオールAに近い優秀さで、その点、亜由美も聡子も、ちょくちょくお世話になっており、そのせいで、亜由美も帰るに帰れないというわけだった。
「でもさ」
 と、聡子が言った。
「最近、恋人できたらしいって噂《うわさ》だよ」
「へえ! 相手は?」
「知らない。風のたより、ってやつで、当人に確かめたわけじゃないから」
「ふーん。幸枝の恋人じゃ、きっとコンピューターの技術者とかさ、でなきゃ税務署の役人とか。ともかく、きっとえらくお堅い所の男ね」
「分んないよ。あんたの所のドン・ファンみたいなプレイボーイにコロッと引っかかってんのかもしれない」
「ドン・ファン好みだね、幸枝って。一度、会わせてやろう」
 と、亜由美は面白がっている。
 ドン・ファンといえば、もちろん伝説のプレイボーイであるが、亜由美の家に居座っているドン・ファンは、ダックスフント──つまり犬の名なのである。もっとも、そういう名がついているのはだてじゃなくて……。
 いや──説明は後回しにしよう。何か騒ぎが持ち上がった様子。
「──何かしら?」
「騒がしいね」
 二人して顔を見合せる。好奇心にかけてはお互い負けていない二人である。早速学食を飛び出したのは、言うまでもない。
「──ね、どうしたの?」
 と、外へ出て、手近な男子学生を捕まえて訊《き》く。
「あ、何だ。友だちだろ! 大変だぜ」
「何の話よ?」
 と、亜由美は言った。
「ほら、講堂の天《てつ》辺《ぺん》の鐘の鳴る所あるだろ。あそこから飛び下りるって」
「飛び下りる?──TVの番組か何かなの?」
「まさか! あんな所から飛び下りて助かるわけないだろ。自殺だよ、自殺!」
「誰が自殺?」
「牧口だよ、知ってんだろ」
「幸枝? 牧口幸枝?」
 亜由美は仰天した。聡子が肯《うなず》いて、
「来ないわけだ、いくら待っても」
「感心してないで! ね、もう飛び下りちゃったの?」
「いや、まだじゃないかな。俺もこれから行くとこなんだよ」
 と言うなり、その男子学生は駆け出して行ってしまった。
 ──亜由美たちは、まだ少々呆《あつ》気《け》にとられていたが、
「どうする?」
「行かなきゃ!」
 と、どっちがどう言ったのか、ともかく二人同時に駆け出していたのである。
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