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透き通った花嫁07

时间: 2018-07-31    进入日语论坛
核心提示:6 第二の女「亜由美ったら! 危うく死ぬとこだったじゃないの。もっと命を大切にしなくちゃ!」 厳しい口調でお説教されてい
(单词翻译:双击或拖选)
 6 第二の女
 
「亜由美ったら! 危うく死ぬとこだったじゃないの。もっと命を大切にしなくちゃ!」
 厳しい口調でお説教されている亜由美であったが、本当なら、いくらでも言い返せたのである。
 私がここへ来たのは、誰のためだと思ってんのよ! 命を大切に、ですって? 自殺しそこなって、私の頭にこぶこしらえたのは、どこの誰なのよ!
 ──でも、口には出せなかった。
 相手はおとなしい幸枝だったから、別に何を言ってやっても構やしなかったのだが、ともかく、口がきけなかったのだ。
 全身から血の気がひいてしまった、という感じで、ペタンと地面に座り込んでいる。
 目の前、ほんの二、三メートルの所に、重い鉄材が数本、転がっている。もし、幸枝が駆けて来て亜由美を突きとばし、自分も一緒に転がっていなかったとしたら……。
 今ごろ確実に亜由美は儚《はかな》くあの世行きだったに違いない。
 ドン・ファンは? もちろん無事で、しかし、主人に忠実なせいか(?)やはりペタンと腰を抜かして、座り込んでいるのだった。
「──でも、危かったね」
 と、幸枝が言うと、亜由美の全身からどっと汗がふき出した。
「立てる?」
「何とか……」
 亜由美は、よろけながら立ち上がった。膝《ひざ》がガクガク震えている。
「一体誰がやったのかしらね」
 と、幸枝は上を見上げた。
 とっくに逃げているだろう。何しろ、二人とも(いや、一匹も含めて )、たっぷり五、六分は座り込んで動けなかったのだから。その間に、犯人は悠《ゆう》々《ゆう》と逃げられたはずである。
「──少なくともね」
 と、亜由美はやっと普通の口調になって、 「幸枝が犯人じゃないってことだけは、分ったわ」
「亜由美ったら……。冗談言ってるの?」
「せめて冗談でも言わなきゃ……。馬鹿らしくて、やってらんないわよ」
 亜由美はハンカチをとり出して、汗を拭った。
「幸枝、どこにいたの?」
「ちょうど、亜由美があの金網の所から入ってくのが見えたの。で、追いかけて来て……。でも、良かった、追って来て」
 と、幸枝はしみじみとした調子で、 「亜由美って、とても可愛いわよね?」
 そう訊《き》かれても、亜由美とて、即座に「うん」と答えるには少々度胸がいる。
「そう……。まあ、そういう人もいるわね」
 と、いつになく控え目な表現に止《とど》まったのだった。
「でも、いくら可愛くても、あんな物の下敷きになって死んだら、きっとお葬式出すときに困るものね」
 何を考えてるんだろ、この子は?
 亜由美は、自分も相当に変っていると思っていたが、やはり上には上がある、ということを発見したのだった。もっとも、死にかけた割には、大した発見ではないような気もしたが……。
「──ともかく、雨宮って人がいそうな所へ行きましょうよ」
 と、亜由美は言った。 「危うく忘れるとこだった」
「そうね、そう遠くないのよ」
「じゃ……。ドン・ファン、何してんのよ」
 ドン・ファンは、腰を抜かしたついでに(?)そのまま昼寝の体勢に入っていた。亜由美ににらまれて、渋々起き上がると、脇を向いてとぼける。
「全くもう! しっかりしてよ」
 と、亜由美はブツクサ言いながら、幸枝と一緒に歩き出したのだった……。
 
「──じゃ、幸枝、病院を出てから、どこにいたの?」
 と、道へ出て、やっと足どりもしっかりして来た亜由美が訊いた。
「友だちの所。──ほら、最近よくあるでしょ。女子学生会館っていう、女子大生専用のマンション」
「ああ。月に何十万円とかふんだくるんですってね」
「そう言っちゃ気の毒よ」
 と、幸枝は笑って、 「安全料っていうのかな。セキュリティもしっかりしてるし、食堂から、プールまであって。──で、外部の人間の出入りは凄く厳しくチェックされるでしょ。だから、隠れてるには絶好なの」
「なるほどね……」
 およそ、そんなマンションと縁のない亜由美としては、羨《うらや》ましそうな顔は意地でもできない。「そこの友だちに?」
「そう。2DKあるの、一人でいるのに。だから、ゆっくり休めて」
「へえ」
「ただ困ることもあるの。──友だちが彼氏を連れて来ちゃって。私、居場所がなくて困っちゃったわ」
「だって、男は入れないんでしょう?」
「その彼氏、女の子の格好して入って来たのよ」
 ──今の大学生ってのは、何て暇なんだ!
 亜由美は自分のことは棚に上げて嘆いたのだった……。
「──あのビルだわ」
 と、幸枝が言った。
「もう人がいないんじゃないの?」
「でなきゃ隠れてられないわ」
「そりゃそうね」
 幸枝にこんなこと教えられるようじゃ、おしまいだ。──亜由美は、内心ひそかに絶望し、探偵業は、これを限りに廃業しようと思った……。
「どうしてこんなビルにいるって分るの?」
「来たことがあるの。通りかかっただけだけどね。──雨宮さん、このビルでバイトしてたことがあるんですって、学生時代」
「なるほどね」
「で、冗談でね、 『身を隠すにゃ、もってこいの場所だね』って……。そう話したのを思い出して」
「ここにいる、って?──でも、分んないじゃない。そんなの、本人だって忘れてるかもしれない」
「うん……。でもね。感じるの。愛する人が近くにいるって、直感的に」
「へえ……」
 亜由美としては、まだそれほどのめり込んでの恋愛の経験はない。幸枝の言葉に、 「へえ」と言うぐらいしかできないのである。
「ともかく入ってみましょ」
 と、亜由美はその古びたビルの中へと足を踏み入れる。 「人がいるって様子じゃないけどね」
「上の階かもしれないわ」
 幸枝が階段をさっさと上がって行こうとする。
「ちょっと! 幸枝、待ちなさい。危いわよ」
「何が?」
「だって……もしかして、その雨宮ってのが本当の人殺しだったとしたら……」
「だったら、死ぬだけよ」
 と、幸枝はあっさり言って、上がって行く。
 亜由美は、 「恋は人を強くする」という実例を見せられた気分だった……。
 まさか、幸枝一人を行かせるわけにもいかず、ドン・ファンを促して、階段を上がり始める。──後で殿永さんが知ったら、嘆くだろうな、と思いつつ。
 二階へ上がり、そこにも人の気配がないので、三階へ上がろうとした三人は、ドサッという物音で足を止めた。
「誰かいる!」
 幸枝の目が輝いた。 「──雨宮さん!」
「幸枝! 一人で行っちゃ危いよ」
 亜由美は、階段を駆け上がって行く幸枝を、あわてて追って行った。もちろんドン・ファンも──短い足をフルに動かして──亜由美の後を追う。
「幸枝ったら──わっ!」
 亜由美は、危うく幸枝に追突しそうになった。
「危いじゃないの! 急に止らないで──」
 亜由美の目にも見えた。
 倒れている女。──血に染まって、もう一目で息が絶えていると分る女。
「この人……」
 と、亜由美は言った。 「楠木リカさんだわ!」
「この人が……」
 幸枝は、青ざめていたが、失神するでもなく、楠木リカの方へ近寄った。
「幸枝。触っちゃいけないわ。警察を呼ばないと」
「うん……。でも、せめて目を閉じさせてあげたい」
 亜由美は、ちょっと息をついた。
「そうね……」
 幸枝は、手を伸して、楠木リカの瞼《まぶた》を、静かに閉じてやった……。
 
「全く困ったもんだ」
 と、殿永は首を振って、 「いいですか、塚川さん。私はね、あなたの死体にこうして布をかけたりなんてことだけはしたくないんです」
「ごめんなさい」
 と、亜由美もしおらしく謝っている。
「しかも、何です? 命を狙われた?」
「まあ……。たぶん。鉄材が私を恨んで落っこちて来たのかもしれません」
「鉄に恨まれる覚えでも?」
「このところ、セラミックの包丁ばっかり使ってるんで、ステンレスの包丁が、振られた腹いせに……」
 こんなときに、よく冗談が言えると、我ながら感心してしまう。
 殿永は苦笑いして、
「あなたにゃかないませんな!」
 と、息をついた。 「それと、牧口さん! もう姿をくらまして、人に心配かけないように」
「はあ……」
 幸枝はいつも通りおとなしい。
「でも、殿永さん」
 と、亜由美は言った。 「やったのは、雨宮真一だと?」
「何とも言えませんよ。しかし──見て下さい」
 楠木リカの倒れていた場所に、黒い血だまりが広がっている。殿永は、そこを慎重によけて、歩いて行くと、何やら拾って、戻って来た。
「何かしら?──カミソリ?」
「替刃です」
 と、殿永は肯《うなず》いた。「当然、これを使う本体そのものもあったはずですね」
「落ちてたんですか?」
「この辺り、下の埃《ほこり》が大分乱れてるでしょう。たぶん、楠木リカは、大きな袋か何かをさげていたと思われます。それが落ちて、倒れた拍子に中から、これが飛び出した」
「袋は犯人が拾って行ったんですね」
「これを見落としたんでしょう。──察するところ、楠木リカは、雨宮に頼まれてここへ必要な品物を届けに来たんじゃありませんかね」
「たぶん、そうですね。でも──」
「そうなると、雨宮が楠木リカを殺したとは考えにくい。雨宮にとっては、信用できる人間だったということですから」
「殺す理由がないですものね」
「いや、それは分りませんよ。二人の間がどういう関係だったのか、誰も知らないんですから。ただ、もし雨宮が犯人なら、もっと楠木リカを利用したと思います」
「待って下さい」
 と、急に幸枝が話を遮った。 「そんな……。雨宮さんを犯人と決めつけないで下さい」
「もちろんです」
 殿永はなだめるように微《ほほ》笑《え》んで、「しかし、あなたはともかくお宅へ帰って下さい。送りますよ、パトカーで。いいですね」
「──はい」
 少し不服げではあったが、幸枝は肯いたのだった……。
 
「──疲れた!」
 ドサッと亜由美はベッドにひっくり返った。
「亜由美ったら、本当にこりないね」
 と、聡子が笑った。
 亜由美が帰ると、ちょうど聡子が遊びに来ていたのである。
「笑わば笑え。──もしかしたら、死体で戻ったかもしれなかったんだからね」
「──そのときは前もって知らせてね」
 と、ドアが開いて、母の清美が入って来た。 「はい、お茶とお菓子」
「あ、すみません」
「お母さん。娘が危うく殺されかけたのよ。もうちょっと喜んだら?」
 と、亜由美が言った。
「殺されかけて、喜ぶの?」
「違うわよ。助かって喜ぶの!」
「ああ、それなら分るわ。──今夜のおかずに、シューマイを足したげるからね」
 母が出て行くと、
「どこまで本気か分んないよ」
 と、亜由美は苦笑した。 「──お菓子、食べよ」
「うん……。おいしい。──でもさ、亜由美、これからどうなっちゃうの?」
「知らないわよ」
 と、首を振って、 「まあ、幸枝にゃ可哀そうだけど、犯人は雨宮ね、きっと」
「どうして?」
「だって犯人でなきゃ、どうして逃げ回ってるわけ?」
「そうか……。でも、私、犯人もだけど、例の『お化け』にも興味あるな」
「お化け?──ああ、雨宮の部屋を掃除したりしてたって女のことね」
「雨宮が殺人犯かどうかはともかく、そういう女は存在したらしいじゃないの」
「そうね……」
 亜由美も、目の前の殺人事件に気をとられて、忘れかけていた。
 もちろん、あれが全部雨宮の作り話という可能性もないではない。しかし、殺された楠木リカは、雨宮の持って来た紙袋の中に、どう見ても女性が用意した弁当箱を見付けている。
 あれがすべて雨宮の話通りだったとしたらどうなるだろう?
 山本有里、楠木リカ……。あんなことをしそうな女は二人とも殺された。これは偶然だろうか?
 それとも他に、雨宮を想っている女がいたのか……。
「──まさか」
 と、亜由美が呟《つぶや》いた。
「え?」
「そんなこと、ないよね」
「何が?」
「雨宮の部屋で、お掃除したり、朝ご飯作ってたりしたのが──池畑厚子だってこと……」
「池畑って──あの、下の部屋の?」
「そう。同じアパートだし、雨宮のことも知ってたし」
「でも、あのお母さん、ずっと仕事に出てるんでしょ。それなら、無理じゃない」
「そうか。──そうだよね」
 と、亜由美は肯いた。
「クゥーン……」
「あら、ドン・ファン、何を鳴いてるの? 亜由美が冷たいの? 私が代りに可愛がってあげる。──ちょっと! くすぐったい!」
 聡子が、キャッキャと声を上げる。
 ドン・ファンが聡子の膝《ひざ》頭《がしら》をペロペロなめているのである。
「変なこと言うと、すぐその気になるんだから、やめてよ」
 と、亜由美が言った。
 すぐその気に……。すぐ……。
 亜由美は、眉《まゆ》を寄せて考え込んだ。
「まさか……。でも……もしかして……」
 と、一人で呟いている。
「亜由美。大丈夫?」
 聡子が不安そうに、 「殺されかけたショックでどうかしちゃったんじゃないの?」
「どうかしてるのはもともとよ」
「そりゃ分ってるけど……」
「出かけて来る。──聡子、来る?」
 と、亜由美は立ち上がった。
「どこに行くの? また危い目に遭いに?」
「もしかしたらね」
「物好きねえ、本当に!」
 と、聡子は首を振って、 「私も行くわよ」
「ワン」
 と、ドン・ファンは笑った(?)のだった……。
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