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花嫁に捧げる子守歌02

时间: 2018-07-31    进入日语论坛
核心提示:2 実像と虚像「じゃあね」「バイバイ」 大学の校門を出て、左右に別れて行く、二人の女子学生。 一人は、メガネをかけて、少
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 2 実像と虚像
 
「じゃあね」
「バイバイ」
 大学の校門を出て、左右に別れて行く、二人の女子学生。
 一人は、メガネをかけて、少々太目の体をのんびりと運んでいる。こちらは差し当り物語と関係ないので、「バイバイ」ということにして、さて、もう一人の女子学生。
 小柄《こがら》で、セーラー服を着れば、まだ高一ぐらいで通用しそうだ。しかし、服装の方は至って地味で、三十代の主婦、という感じ。そのアンバランスが、却《かえ》ってこの娘《むすめ》を目立たせている。
 足早に歩いて行くのも、別に急ぎの用があるというわけではなく、それがこの娘の自然なテンポなのだろう。そう思わせる、きびきびした印象が、この娘にはあった。
 と——娘は、突然、誰かが[#「誰かが」に傍点]、自分と並《なら》んで歩いているのに気付いた。足が短いので、必死でチョコチョコと動かしてついて来る。
「まあ、何してるの?」
 娘は微笑《ほほえ》んで、足取りを緩《ゆる》めた。「お前、どこから来たの?」
 もちろん、本気で訊《き》いたのではない。もしこのダックスフントが返事をしたら、それこそ大変である。
「クゥーン」
 と、その犬が、少々|甘《あま》ったれたような声を出す。
「可愛《かわい》いわね、お前」
 娘が足を止め、かかえ込むと、待ってましたとばかりにペロペロとその手をなめるので、
「——いや! くすぐったいよ!」
 娘がキャッキャッと笑い声を上げる。
「失礼」
 と、言ったのは、もちろんダックスフントではなかった。
「え?」
 娘は振《ふ》り向いた。どうやら同じ大学の先輩《せんぱい》らしい女性……。
「中原秀美《なかはらひでみ》さん?」
 と、その女性が訊《き》く。
「ええ……」
 少し不安そうに、娘は立ち上る。「あなたは——」
「私、塚川亜由美」
「大学の……」
「ええ、二年ほど先輩《せんぱい》」
 と、亜由美は肯《うなず》いた。「その犬、私の犬なの」
「まあ、そうですか!」
 と、中原秀美は笑顔になって、「名前、何てついてるんですか?」
「ドン・ファンよ」
「ドン・ファン?」
 と、中原秀美は目を丸くして、「へえ。犬にしちゃ、変った名前ですね。でも、そう言われてみると、二枚目だわ」
「ワン」
 珍《めずら》しく、ドン・ファンが犬らしい(?)声を出した。
「で——私に何かご用ですか?」
 と、秀美は訊《き》いた。
「ちょっとお話したいんだけど。——お急ぎ?」
「いいえ。じゃあ……」
「そこの〈ララバイ〉なんて、どう?」
 ケーキがおいしいので、ここの女子大生の間では人気のある店だった。
「ええ、いいですわ。私、あそこのレモンパイが大好き」
「そう。私、キリッシュが好きなの」
 二人は、笑顔を見交わして、歩き出した。
 ——店は、同じ大学の女子学生たちで、にぎわっている。しかし、ドン・ファンは入るわけにいかず、店の表で留守番(?)ということになり、不服そうだった。
 ドン・ファンにしてみれば、自分が人間と同等であるという自負心[#「自負心」に傍点]があるだろうから、これは全く不当な差別なのである。
「あなたにとっては、ちょっと不愉快《ふゆかい》な話かもしれないの」
 と、亜由美は、アイスティーを飲みながら言った。
「——というと?」
「私、須田裕子の友だちなの」
「須田……?」
 秀美は、戸惑《とまど》った顔になった。
「知らない?」
「ええ。——大学の方ですか」
「そう。私と同期の二十一|歳《さい》。大学院にいる、大内和男さんの恋人よ」
 秀美の顔が、サッとこわばった。——固く口を閉じて、不信感を露《あら》わにした目で、亜由美を見つめる。
「——あなた、中原秀美じゃなくて、本当は茂原秀美というんでしょ?」
 秀美は、亜由美に横顔を見せて、
「分ってるのなら、訊かなくたっていいじゃありませんか」
 と言った。
「なぜ、中原って名前にしたの?」
「あなたの知ったことじゃないわ」
 と、はねつける。
「それがそういうわけにもいかないのよ」
「あなたも、週刊誌に記事を売り込《こ》みたいの? それとも、大学生っていうのがそもそもでたらめなの?」
「あなたを騙《だま》すつもりなら、こんなことを正直に話さないわよ。そうでしょ?」
 亜由美は穏《おだ》やかに言った。
 食ってかかっていた秀美は、肩《かた》すかしを食った様子で、
「でも——私の本当の名前を、どうして——」
「調べてくれた人がいるの。でも、それがマスコミに洩《も》れる心配は全くないわ」
「信じろって言うの?——冗談じゃないわ。散々、マスコミに騙《だま》され続けて来たのよ」
 秀美は、自分の声が、つい大きくなっているのに気付いて、ハッとしたように周囲を見回した。
「大丈夫《だいじようぶ》よ。みんな自分たちの話に夢中《むちゆう》だから」
 亜由美はのんびりと言って、「ケーキ、食べない?」
 と、付け加えた。
 二人とも、飲みものしか注文していなかったのだ。
 秀美は、亜由美をしばらくにらんでいたが、やがて、フッと肩《かた》の力を抜《ぬ》いた。
「——分ったわ。あなたはどうやら本当のことを言ってるみたい」
「認めてくれて嬉《うれ》しいわ。じゃ、ケーキを頼《たの》みましょ。レモンパイ、なくなりそうだったわよ」
 ——ケーキを食べ始めて、やっと二人の会話は順調になったようだ。
「ええ、あの写真は見ました」
 と、秀美が肯《うなず》いた。「でも、別にどうってことなかったわ。だって、姉が死んだのは、七年も前のことだもの。私は十二歳。小学生だったの」
「大内さんのことは憶《おぼ》えてる?」
「ええ。何だか野暮《やぼ》ったくて、でも、いい人だったわ」
「今、大内さんが大学にいるのは知っていたの?」
「ええ。当人、隠《かく》してるつもりかもしれないけど、噂《うわさ》にはなってるんですよ」
「あら、私、知らなかったわ」
 亜由美は少々傷ついた。
「友だちに凄《すご》い情報通がいるんです」
「あなたが中原と名乗ってるのは……」
「両親が心配したんです。——あの騒《さわ》ぎがあって、私はちょうど中学へ入るときだったでしょう。変に好奇の目で見られちゃ可哀《かわい》そうだって。それで、親戚《しんせき》の養子にしてもらって、姓《せい》を変えたんです」
「そうだったの」
「今ぐらいの年齢になれば、どうってことないけど、やっぱり中学生のころって、傷つきやすいですからね」
「分るわ」
 亜由美は、肯いて、「実はね——」
 と、大内の、研究室の机に、〈恋人に天罰《てんばつ》が下る〉という脅迫状《きようはくじよう》が入っていたことを話してやると、
「そんなことがあったんですか」
 と、秀美は目を丸くした。
「それで、私としても、裕子の身が心配でね。ある人に頼《たの》んで、亡くなった茂原聖美さんと関係のあった人のことを調べてもらったの」
 ある人、とは、もちろん殿永|刑事《けいじ》のことである。
「それで私を……。じゃ、私がその脅迫状を書いたと思ったんですか?」
「いえ——まあ、でも、そんなところかしらね」
 と、亜由美は正直に言った。
 秀美は、さして怒《おこ》った様子もなく、
「私、今は自分のことで手一杯《ていつぱい》です。七年も前に死んだ人のために、そんなことまでやれませんわ」
 と言った。
 淡々《たんたん》とした口調は、嘘《うそ》とも思えなかった。しかし、もちろん、これが巧《たく》みな演技だということもあり得るのだ。
「そう、安心したわ、そう聞いて。——気を悪くしたかもしれないけど」
「いいえ、そんなことありません」
 と、秀美は首を振《ふ》った。「でも、いやなことをする人がいるんですね」
「ともかく、誰《だれ》かがやったには違《ちが》いないのよ。大学の中のことをある程度知っている人がね。——誰か、心当りはない?」
「私に、ですか」
「亡くなった聖美さんのことを知っている人で、この大学にいる人。誰かいない?」
「さあ……」
 秀美は、少し考えて、「思い当りませんけど」
 と答えた。
「そう……。じゃ、他を当ってみるしかないわね」
 と、亜由美は言った。「ごめんなさい、妙《みよう》なことで時間を取らせて」
「いいえ」
 と、秀美は微笑《ほほえ》んだ。「何か思い出したら、ご連絡しますわ」
「そうしてもらえる?」
 亜由美は、電話番号をメモして、秀美に渡した。
「じゃ——」
 秀美は、立ち上ろうとして、ふと店の入口の方を見た。「——あら、木村君」
 亜由美が振り向くと、ちょっと細身の、背の高い若者が店に入って来たところだった。「あ、秀美」
 と、その若者は、面食らった様子で、「今日はクラブじゃなかったのか」
「中止になったのよ。木村君こそ、なあに、こんな店に、珍《めずら》しいじゃない」
「うん……。俺《おれ》、ここのケーキ、好きなんだよ」
 木村、というその若者、少々照れくさそうに言った。——坊っちゃん育ちらしく、少し甘《あま》ったれたしゃべり方。
「いつも、私がケーキ食べると、『よくそんなもの食えるな』とか言うくせに!」
 と、秀美は言った。「じゃ、食べれば? 私、じっと見ててあげる」
「おい、勘弁《かんべん》しろよ」
 と、若者は苦笑いした。
「じゃ、私、お先に」
 亜由美は伝票を取って、立ち上った。「——いいのよ、これは。私の用事なんだから、私、払《はら》うわ」
 レジで支払いをしながら、亜由美はチラッと秀美の方を見た。木村という若者と楽しげにしゃべっている。
 木村……。木村か。
 そうだ。見たことがあると思ったら……。
 仏文を教えている木村助教授の息子《むすこ》だ。一度、一緒《いつしよ》のところを見かけたことがある。
 あの子のボーイフレンドだったのか。
「どうも」
 と、おつりをもらって、それを財布《さいふ》に入れる。
 店を出た亜由美は、ふてくされて(本当にそんな顔つき[#「顔つき」に傍点]になるのだ)寝《ね》そべっているドン・ファンに、
「ごめんね。後でシュークリームをあげるから、そう怒《おこ》らないでよ」
 フン、てな感じで、ドン・ファンはソッポを向いた。
「ほら、すねてないで! 行くわよ」
 と、歩き出しながら、亜由美はガラス越しに、店の中を見た。
 秀美と木村が互《たが》いに身を乗り出しながら、しゃべっている。そして——亜由美は、店のもっと奥《おく》の方の席で、一人座っている女の子に目を止めた。
 同じ大学生だろうか?——印象からは、そう思えない。
 年齢《ねんれい》はたぶん十七、八だろうが、服装や、持ち物が、どこか大人《おとな》びている。
 そしてその女の子は、じっと、秀美と木村の方を見つめていたのだ。その視線は、いかにも暗い情熱を感じさせ、冷たい輝きの奥に、憎《にく》しみの火を垣間《かいま》見せていた。
 そうか。——秀美は気付かなかったが、木村という若者、本当は、あの奥の席の女の子と待ち合せていたのだ。
 ところが、思いがけず、秀美がそこに来ていた……。
 木村は、あの女の子の方を、無視《むし》してしまっているのだ。
 亜由美は腹が立った。中へ戻《もど》って、言ってやろうかと思ったが、しかし、それこそ、「大きなお世話」かもしれない。
 そう思い直すと、亜由美は、
「さ、行くわよ」
 と、ドン・ファンを促《うなが》して、歩き出したのだった……。
 
「あら、亜由美、知らなかったの?」
 神田聡子《かんださとこ》にそう言われて、亜由美は大ショックであった。
「じゃ聡子——知ってたの、大内さんのこと?」
 と、つい念を押《お》す。
「もちろんよ。誰《だれ》だって知ってるわ。今ごろそんなこと言ってるの、亜由美ぐらいじゃない?」
 亜由美は絶句した。
 聡子は、高校時代からの親友だが、亜由美に比べればずっとおとなしい性格で、もちろん、野次馬根性《やじうまこんじよう》もないではないが、亜由美には遥《はる》かに及《およ》ばないのである。
 それが——亜由美の知らなかったことを聡子が当然のように知っている、となると、亜由美としては立場がないのだった。
 学生食堂での昼食に、ラーメンを食べていた亜由美は、それ以上食べられなかった。——なぜなら、もうきれいに食べてしまっていたからである……。
 聡子が、少し間を置いてから、
「フフ、本気にして!」
 と、笑い出した。
「聡子! 私のことを——」
 頭に来た亜由美が顔を真赤にする。
「亜由美がいつも言ってることを、私が言ってみただけじゃない」
 と、聡子は澄《す》まして言った。
 亜由美も、グッと詰《つま》って、
「そりゃまあ——そうかな」
「でも、私が知ってたのは事実よ。他の人はともかくね」
「聡子、誰《だれ》から聞いたの?」
「本人[#「本人」に傍点]」
「——誰ですって?」
「本人よ。大内さん」
「聡子どうして——大内さんのこと、知ってるの?」
「誘《さそ》われたこと、あるんだもの」
 ——また、亜由美はショックを受けた。
「大内さんに? いつのことよ、それ」
「去年かな。クリスマスのパーティだったわ」
「一緒だったじゃない、私も」
「それじゃないわ。だって、色んなグループでやるでしょ、毎日のように。——そのときに大内さんが来てたのよ」
 唐突《とうとつ》ながら、聡子はカレーライスを食べていた。「で、パーティの後、飲み直そう、って言われて」
「へえ。で、どうしたの?」
 聡子は肩《かた》をすくめた。
「あんな男、お断りよ」
 亜由美は面食らった。
「どうして?」
「訊《き》きもしないのに、自分からしゃべったのよ、あの『愛と涙の日々』の高校生が僕だなんて」
「大内さんが自分から?」
「そう。私、腹が立ったわ。同情を引いて女の子を引っかけようなんて、最低だわ!」
 こりゃ大分イメージが違《ちが》うじゃないの。
 亜由美は少々|焦《あせ》った。裕子は心底、大内が誠実な男だと信じているのに。
「じゃ、聡子が振《ふ》ったわけね」
「まあね。私にも選ぶ権利はあるもの」
 いつになく威勢《いせい》がいい。「でも、私だって良識ってものを持ち合せてるからね。それは他人には話さなかったわ。亜由美にもね」
「私ぐらいには話してくれても良かったじゃないの」
 と、亜由美は恨《うら》めしそうに言った。
「ともかく、あの人は、悲劇のヒーローを気取りたがってるのよ。あんな写真が出て、また注目されて満足してんじゃない、きっと」
 これじゃ、一八〇度、発想を転換《てんかん》しなくちゃならない。
 亜由美は、ため息をついた。
「それにしても、今ごろ、あんな古い話を掘《ほ》り返すなんて、物好きな人もいるもんね」
 と、聡子は言って、「——亜由美、コーヒー飲む? 持って来ようか」
「お願い。——参ったなあ」
 と、後の方は独り言。
 そう言えば、聡子の言うように、あの写真を撮《と》ったカメラマンは、一体なぜ大内を尾《つ》け回していたんだろう?
 自分で考えついたのか、それとも、編集部の依頼《いらい》だったのか。
 これは当ってみる必要があるのかもしれない、と亜由美は思った。
「——亜由美」
 と、コーヒーの紙コップを手に、聡子がやって来ると、「何だか、誰か騒《さわ》いでたわよ」
「ライオンでも出たの?」
「どうしてライオンが大学に出るの?」
「いいのよ。何だって?」
「誰だかが刺《さ》された、って」
「刺された? 蚊《か》か蜂《はち》に?」
「それぐらいで大騒ぎしないんじゃない? 刃物《はもの》で女の子が刺されたんだって」
 救急車のサイレンが、聞こえて来た。——亜由美は、
「行ってみよう」
 と、聡子を誘《さそ》って、早くも歩き出していた。
「ちょっと!——亜由美! このコーヒーどうするのよ!」
 紙コップを両手に、聡子はあわてて駆《か》け出した。
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