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禁じられた過去09

时间: 2018-08-19    进入日语论坛
核心提示:8 愛 人「いやです」 と、女は言った。「お帰りになって」 顔を合せるなり、いきなりそう言われたのは初めてのことだ。 山
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8 愛 人
 
 
「いやです」
 
 と、女は言った。「お帰りになって」
 
 顔を合せるなり、いきなりそう言われたのは初めてのことだ。
 
 山上は、少し面食らって、
 
「いやと言われても——。何の話か分ってるんですか」
 
「もちろんです」
 
 女は、まるで永年の敵に出くわしたかのような目つきで山上を見ていた。「絶対に私、別れません! 帰って!」
 
 ——女の名は大友久仁子。
 
 二十七歳という年齢は、その少し疲れた表情から察せられない。三十は過ぎているように見える。
 
 山上は、少し意外な気がしていた。
 
 重役の愛人、というイメージからはほど遠い。地味な、ごく当り前にエプロンをして台所に立つのが似合っている感じの女である。
 
 大友久仁子は、玄関の上り口にじっと身じろぎもせずに立って、
 
「お帰り下さい」
 
 と、くり返した。「いくら言われてもむだです」
 
「——待って下さい」
 
 山上は、ワンクッション置くように、微《ほほ》笑《え》んで見せたが、女の方は全く表情を変えなかった。
 
「どうも誤解があるような気がするんですがね」
 
 山上は、マンション——といっても、かなり古いもので、大分ガタが来ていそうだ——の、大友久仁子の部屋をすぐに見付けた。
 
 倉林美沙に頼まれた用事を果しに、やって来たのである。——美沙の恋人、三神の上司に当る、永田という重役の愛人が、この大友久仁子なのだ。
 
「誤解?」
 
 と、女はいぶかしげに、「あなた、何の用で来たの?」
 
「話し合いにです」
 
 と、山上は言って、相手が何か言い返しかけると、急いで続けた。「しかし、あなたに、永田さんと別れろと言いに来たわけじゃありません。本当です」
 
 大友久仁子は、半信半疑の様子で——というより、ほとんどまるきり山上を信じていない様子でしばらく迷っていたが、ドアの外の廊下を、足音が通って行くと、あんまり玄関でもめているのは良くないと思い直したらしい。
 
「上って下さい」
 
 と、投げつけるような口調で言うと、スリッパをポンと山上の前に置いた。
 
「——今、永田さんの会社が大変なことになっているのは、ご存《ぞん》知《じ》ですね」
 
 と、山上は単刀直入に切り出した。
 
「ええ」
 
 と、大友久仁子は素気なく言って、「でも、そんなこと、私とは関係ありません」
 
「そうはいかないでしょう。——永田さんの立場が危うくなれば、あなたも当然——」
 
「私はあの人を愛してるんです」
 
 と、久仁子は遮った。「あの人がどうなろうと……。お金が入って来なくなったら、自分で働きます。あの人を食べさせてだっていけます」
 
 どう見ても本気だ。
 
 山上は、大友久仁子が、いわゆる「愛人」とは少し違うな、と思い始めていた。
 
「金の切れ目が縁の切れ目」とはよく言うが、実際、こういう男と女の仲は、それで終ることが多い。
 
 しかし、この女の場合はそうではないようだ。部屋の中の様子一つにしても、どこにもぜいたくをしている気配は感じられない。
 
 いや、それだけなら、永田という男から充分な金をもらっていない、ともとれるが、大友久仁子は本心から永田を愛している様子である。
 
「——あなたが誰《だれ》に頼まれてここへ来たのかは知りません」
 
 と、久仁子は少し穏やかな口調になって言った。「でも、故郷から一人で出て来て、誰にも頼れず、病気で倒れていたとき、救ってくれたのが、永田さんです。——私の体はまだ元の通り健康になったわけじゃないし、ご覧の通り、年齢より老けて見えるでしょ? 私がいくつか、ご存知?」
 
「知っています」
 
「そんな私を、永田さんはもう二年以上もここに置いて、面倒をみてくれているんです。その永田さんのことを、諦《あきら》めろと言われても——」
 
「いや、そうじゃないのです」
 
 と、山上は首を振った。「私はあなたに、永田さんと別れろと言いに来たわけじゃない。会社が横領事件で揺れているのは、知ってますね」
 
「はい。でも、永田さんのしたことじゃありません」
 
「その逆の証拠もありますよ。ともかく、永田さんは、あなたに、証拠になる帳簿類を託している。それを出していただきたいんです。隠しておいてくれと頼まれたんでしょうが、それは無理ですよ。いずれ、警察が捜査令状を取ってやってくる。そうなれば、『帰って下さい』ではすまなくなる」
 
 久仁子の目からは、山上への敵意のようなものが消え、代って戸惑いの表情が浮んだ。
 
「何のことですか。その『帳簿』とかって——」
 
「ここに永田さんが預けて行ったはずですがね」
 
 自信たっぷりに、山上は言った。
 
 正直なところ、ここにあるというのは、美沙の話でしかないが、何もかも分っているという態度で、相手を呑《の》んでしまうしかない。
 
「私……知りません」
 
 と、久仁子は首を振った。「確かに——何か包みはあります。でも、中が何なのか、私にも分りません」
 
「おそらくそれでしょう」
 
 と、山上はすかさず言った。「出して下さい。ここへ。その方が結局、永田さんを救うことになる」
 
 これは出まかせだが、こうしてまくし立てなくては、向うは頑《かたく》なになるだけだろう。
 
「そんな……」
 
 と、久仁子は動揺している。
 
「永田さんは、一人で責任をかぶって、有罪になるかもしれない。彼を刑務所へ行かせたいんですか」
 
「そんなこと——」
 
「じゃ、その包みを出して下さい。あなたに悪いようにはしません」
 
 よくあるセリフだ。——悪いようにはしません、か。どうとでも解釈できるのが、いいところである。
 
 これで、女がどう出て来るか。——山上は息を殺して待った。しかし、結果はいささか肩すかしであった。
 
「何かお飲みになりますか」
 
 と、立ち上ったのである。「私ったら、お茶もさし上げないで」
 
 山上はそっと息をつくと、
 
「いただきます」
 
 と、言った。
 
「何がよろしいかしら?」
 
「もし……選べるようでしたら、コーヒーを」
 
「もちろんですわ」
 
 久仁子は、少し気が楽になった様子であった。どうしてなのか、山上には分らなかったが。
 
 小さなダイニングキッチンから、やがてコーヒーの匂《にお》いが漂って来る。
 
「お待たせして」
 
 と、久仁子は、コーヒーカップを盆にのせて戻って来た。
 
 カップも、いかにもその辺のスーパーで売っているような品で、それが却《かえ》って似つかわしい。——山上はむしろ、好感を持ったのである。
 
「あなたのお顔、どこかで拝見したことがありますわ」
 
 と、久仁子が言った。「TVか何かにお出になったことが?」
 
 人違いです、と言いたかったが、久仁子の問いかけは、純粋に好奇心から来るもののようで、嘘《うそ》はつきにくかった。
 
「——コンサルタントをしてますのでね。その関係で何度かTVにも出ました」
 
 と、認めた。「タレントというわけじゃありませんよ」
 
「ええ、それは……。そんな感じじゃありませんもの。どっちかというと、学校の先生みたい」
 
「そうですかね」
 
 と、山上は苦笑した。「——おいしいコーヒーだ」
 
「恐れ入ります。ずいぶん練習しました。あの人がコーヒーにはうるさいので」
 
「永田さんですか」
 
「そうです」
 
 山上は、少し疲れた、この平凡な女を改めて見直した。——興味がわいて来た。
 
 もちろん、女としてどうこういうわけではない。しかし、永田という男が、どうして大友久仁子を「愛人」にしたのか、何となく不思議でもあり、同時に分るような気もしていた。
 
「失礼ですが」
 
 と、山上は言った。「永田さんとは、どういうきっかけで?」
 
 大友久仁子は、少し間を置いて、言った。
 
「私が、あの会社のビルの清掃をやっていたんです」
 
「清掃というと——掃除ですか」
 
「ええ。あちこちのビルを、終業時間の後に掃除して回るんです。あのときも……。あの会社へ行き、床にワックスをかけていました。もう九時近かったでしょうか」
 
「それが仕事だったんですね」
 
「パートみたいなものですけど、他に正規につける所もなくて……。その晩は、ほとんどの人がもう帰った後で、会社の中は空っぽでした。私は、いつももう一人の若い人と組んで、ワックスがけをやるんですけど、その日は、その組んでいる人が休んでしまって——子供さんが病気ってことで、仕方なかったんですけどね」
 
「すると、一人で働いていた」
 
「そうです。ところが、力をこめて床を拭《ふ》いている内に、ツルツルになっているでしょ? 自分で転んじゃったんです」
 
 久仁子は笑った。——笑顔は、山上もハッとするほどやさしく、無邪気だ。
 
「したたか腰を打って……。立てませんでした。痛いけど、自分でもおかしくて——。床に座り込んだままでいたら……。エレベーターから、あの人が降りて来たんです」
 
「永田さんが」
 
「ええ。私の方へ、『どうしたの?』と声をかけて来て、『転んで腰を打って』と言うと、『横になった方がいい。応接室のソファへ行ったら』と、言って下さって」
 
「なるほど」
 
「で、私を立たせてくれようとして、手を貸して支えてくれた、までは良かったんですけど」
 
 と、再び久仁子はクスクス笑って、「あの人も一緒にツルッと足を滑らして、二人とも転んでしまったんです」
 
「おやおや」
 
「で、二人とも、お尻《しり》を打って、痛いやらおかしいやら……。永田さんは出張から帰られたところで、私はその日、あのビルが最後の仕事だったんです。で——待っててくれ、と言われて、夕食を、と誘われました」
 
「それで……」
 
「でも、そのときは食事をごちそうしていただいただけです。——私の境遇に同情してくれて、名刺をくれました。何か困ったことがあったら力になるよ、と言ってくれて」
 
「いい人ですね」
 
「ええ。本当に。——ちっとも魅力的でも何でもない私にやさしくしてくれて」
 
 と、久仁子は言った。「いただいた名刺はとっておきました。でも使う気はなかったんです。ただ——あの人のことを忘れないように、と……。でも、その二か月ほど後、私、一人住いのアパートで寝込んでしまいました。ひどい熱が続いて、何も食べる物もなくなってしまい……。このままじゃ死んでしまう、と思いました。そのとき、あの名刺を思い出して、何とか外へ出て、公衆電話であの人の会社へかけたんです。——あの人は飛んで来てくれて……。そのまま車に乗せられ、入院しました。肺炎になっていて、放っておいたら危かったと言われました」
 
「そんなことがあったんですか」
 
「あの人は結局入院の費用から、全部面倒をみてくれて。——退院してみると、このマンションを借りていてくれたんです。ゆっくり休みなさい、と言ってくれました」
 
「珍しい人だ」
 
「本当です。——確かに……」
 
 と、言いかけて、ためらい、「あの人と寝ることはあります。でも、それはここで私が元気になった、何か月も後のことで、私の方から、進んで抱いてもらったんです。——あの人の『愛人』と言われればその通りですけど、でも、私の中では違います。誰にも恥じないと思っています」
 
 いつの間にか、久仁子の目は真直ぐに山上を見ている。力のある目だった。
 
「分って下さい」
 
 と、久仁子が頭を下げた。「あの人が預けて行ったものです。あの人の許しがない限り、お渡しすることはできないんです。あなたはいい方だと思いますけど、でも——」
 
 そう言って、途切れる。
 
 久仁子は顔を伏せていた。山上は、その様子を見ていて、今日は負けだ、と思った。
 
 手間はかかっても、永田の方から攻めるしかない、と判断した。
 
「分りました」
 
 と、山上は立ち上り、「今日は引き上げます。——ごちそうさま」
 
「いいえ……」
 
 久仁子は玄関まで出て来て、見送ってくれた。
 
 ——山上は、外へ出て、古ぼけたマンションを見上げると、停《と》めておいた車の方へと歩いて行った。
 
 結局、倉林美沙の頼みは果せなかったわけだが……。
 
 しかし、不思議に山上の胸は爽《さわ》やかだったのである。
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