エリは、病室のドアを開けて、
「お母さん。具合——」
と言ったきり、目をパチクリさせている。
母が、普通のスーツ姿で、紙袋に荷物を詰めているのだ。
「あら、エリ。今日は早いのね」
「うん……。どうしたの?」
「退院するのよ」
エリは、
「本当? ——やった!」
と、飛び上った。
「下の患者さんがびっくりするわよ」
と、秀子が苦笑する。
山上が入って来た。
「何だ、エリ、来たのか。——おい、タクシーが来てる」
「荷物、持つわ」
と、エリが両手に紙袋を下げた。
「じゃ、行こうか」
と、山上が言うと、
「あ、そうそう、エリ」
と、秀子が言った。
「うん?」
「この間、調べてもらったでしょ。あんたはやっぱり、私とお父さんの子よ」
エリは、ちょっとの間、父と母を眺めていたが、
「そんなこと分ってるわよ!」
と言って、「学校の成績を見りゃ、一《いち》目《もく》瞭《りよう》然《ぜん》! さ、帰ろう、お母さん!」
勢いよく病室を出たエリが、どんどん先へ行ってしまったのは、頬《ほお》を伝い落ちる一粒の涙を、両親に見られたくなかったからかもしれない。