私には覗《のぞ》き趣味はないから、他人のセックスの現場を見るのは、初めてだった。
「あ、あの──すみません」
柏木幸子は、スカートだけははいていたので、あわてて裾《すそ》をおろし、むき出しの上半身に、ブラウスを当てて隠した。
愉快だったのは志村の方で、パンツがどこへ行ったのかと、あわてて捜し回る様子は、何とも吹き出したくなる光景だった。
「──どうぞごゆっくり」
と私は言った。「コートをしまって来るから」
寝室へ行って、コートをハンガーにかけ、居間に戻ってみると、二人とも何とか服を着て、神妙に坐《すわ》り込んでいる。
私は、ソファに腰をかけて、二人を眺めた。
柏木幸子の方は、バツが悪そうに目を伏せているが、志村は、ちょっと、仏《ぶつ》頂《ちよう》面《づら》で、視線をそらしていた。
「どうやって入ったの」
と私は言った。
「あの……」
と柏木幸子がためらいがちに、
「志村君が……」
と言った。
志村は肩をそびやかして、
「鍵を開けるぐらい、簡単さ」
「勝手に入るなんて、無茶ね」
と私は言った。「どこかで待っているぐらいのことはできなかったの?」
「追われてんだ。そんな呑《のん》気《き》なことやってられないよ」
志村は、前のときとは打って変って、ぞんざいな口調だった。「河谷さんは何かあったら助けてくれると言ってたんだ」
私はちょっとムッとしたが、ここで喧《けん》嘩《か》しても仕方ないと思い直した。
「柏木さん」
「はい」
「あなた、会社のお金を持ち逃げして来たんでしょう?」
「それを──」
柏木幸子は青ざめた。
「今日、会社へ行ったのよ。大騒ぎだったわ」
柏木幸子は顔を伏せた。
「構うもんか!」
と、志村が笑いながら、「あの金の半分は社長のポケットマネーなんだぜ。なあ?」
「ええ……」
柏木幸子は、低い声で言った。「偶然、話を立ち聞きしてしまって……。社長と、専務の二人が、会社のお金を流用しようと……」
それで千田は、届け出ることをためらっていたのだ。
「でも、だからって、そのお金を盗んでいいということにはならないでしょう」
「すみません」
「どうするつもり? お金はどこなの?」
「あの鞄に──」
と指さした部屋の隅に、手さげのバッグが置いてある。
「そういうお金なら、返してやれば相手は黙って忘れるかもしれないわ」
「そうはいかないよ」
と志村が言った。
「どうして?」
「僕たちの逃走資金だからね」
私はため息をついた。
「いつまで逃げられると思ってるの? 一生逃げ回るつもり?──あなたは、覚えのない罪で追われてると言うけど、それなら、逃げずに無実を立証しなさい。何の努力もしないで、ただ自然に解決されるのを待ってるつもり?」
「口で言うほど簡単じゃないよ」
「それに、このお金を使えば、今度こそ、本当に罪を犯すのよ」
「返したっていいよ。その代り、金を出してくれるかい?」
私は驚いて志村を見つめた。
「私が?」
「河谷さんなら出してくれたよ」
「主人だって、そこまではしなかったでしょうよ」
「今までだって、何度も寄付してもらってんだ。それに、困ったときは来いって言われてたし」
私は柏木幸子を見た。
「あなたはどうするの?」
「あの……」
と言ったきり、続かない。
「彼女は僕と一緒さ」
と、志村は気軽に言った。「なあ、そうだろ?」
柏木幸子は答えなかった。──たぶん、もう前から志村と肉体関係があって、本人は、いつかけじめをつけたいと思いつつ、ずるずると続いて来たのだろう。
そういう、遊びとも本気ともつかない、中途半端な関係は、却《かえ》って断ち切ることが難しいものなのだ。
「──これからどうするつもり?」
と私は訊《き》いた。
柏木幸子は、志村の方を見る。引きずられている感じだ。おそらく、金を持ち逃げして来たことを、彼女は悔んでいる。
だから、どうしていいか分らず、志村の言うままになっているのだ。
「ともかく今夜はここに泊めてもらうよ」
と、志村は、当り前といった調子で、「しばらく置いてもらえるかと思って来たんだけどな」
「冗談じゃないわ」
と私は言った。
「じゃ、仕方ない」
と、志村は肩をすくめた。「ともかく今夜はここに置いてくれよ」
私はためらったが、柏木幸子のことを考えると、夜中に追い出すわけにもいかなかった。
「じゃ、いいわ。その代り明日は出て行ってよ」
と私は言った。「私は警察から目をつけられているのよ。ここにいれば、却って危ないわ」
志村は黙っていた。そしてタバコを取り出すと火を点《つ》ける。私はちょっと間を置いて、言った。
「ここで寝てね。毛布ぐらいなら貸してあげるから」
「すみません」
と柏木幸子が頭を下げた。
居間を出て歩きかけると、
「フン、日和《ひより》見《み》だな」
という志村の声が聞こえて来た。
「でも──やっぱり無理よ」
と柏木幸子が言っている。
「何とかなるさ」
──私は二階へ上った。
ああいう、甘えた反体制の「闘士」というのは、我慢がならない。夫がたとえ生きていたとしても、手助けなどしないに違いない。
ましてや、女に会社の金を持ち逃げさせて平気でいるというのは、夫なら許しはしないことだ。
「まあいいや」
と寝室へ入って、私は呟《つぶや》いた。 「今夜一晩のことだもの……」
明日は朝早くから叩《たた》き起こしてやろう、と決めた。
私は、半分眠って、半分目が覚めているような状態で、何度も寝返りを打っていた。
色々なことがありすぎた。──杉崎が殺されたり、夫のことを千田から聞かされ、あげくは、逃亡中の二人が家へ侵入していたり……。
とても、すぐに眠りに入るというわけにはいかない。
何時頃だろう? 枕もとの時計に目をやると、今時はやらない夜光時計の青白い文字と針が見えた。二時半に近い。
少し眠らなきゃ、と無理に目をつぶる。──やっと、うとうとし始めたとき、何かが足に触れるのを感じて、目を開いた。
足がひんやりする。毛布をめくっているのだ。足を、ふくらはぎから腿《もも》の方へと探って来る手があった。
私はベッドに起き上った。
「何してるの?」
薄暗がりだが、志村一郎が立っているのが分った。
いきなり、志村が私の上に飛びかかって来る。
「おとなしくしろよ!──なあ──」
「何するのよ! 気狂い!」
──その後のことはもう何が何だかよく分らない。激しくもみ合い、ベッドから床に転がり落ち、私のネグリジェを裂く音、志村の荒々しい息づかい、正に、西部劇顔負けの大乱闘だった。
志村のような、軟弱な男に負ける私ではない。スリッパを手にしてひっぱたいたり、手にかみついたり、あれこれと反撃して、やっと志村の体を押しのけて立ち上ると、傍の電気スタンドを手に取った。
「こいつ!」
志村の方も怒ったような声を立てて向って来る。こうなればこっちも本気だ。
力一杯、スタンドを振り回した。ガラスの砕ける音がして、志村が呻《うめ》いた。
部屋の明りがついた。
柏木幸子が、呆《ぼう》然《ぜん》として、突っ立っている。
──志村が顔を押えて、よろけた。額が切れて、血が流れている。
私の方も、明りが点いてみると、凄い格好だった。ネグリジェはほとんど下まで引き裂かれて、胸はむき出し、乳房に少し傷があったが、痛みは感じなかった。
「志村さん……」
「畜生! やりやがったな?」
志村が吐き捨てるように言ったが、とても向って来る元気はないようだ。
「当り前でしょう。──何のつもりよ、一体? 力ずくでものにすれば言うことを聞くとでも思ったの? 三流映画の見すぎじゃないの?」
柏木幸子は、何だか少しボヤッとした様子で、志村の方へかがみ込むと、
「血が出てるわ」
と言った。
「台所の棚の上に救急箱があるわ」
「分りました」
志村は、柏木幸子に支えられるようにして、出て行った。
私は息を弾ませていた。まだ、スタンドを手に握って立っているのに気が付いて、あわててナイトテーブルの上に置いた。
ガラスの破片が散っているだろう。──用心しながら、ともかく、ドアを閉め、裸になって、どこかけがをしていないか、鏡に映してみた。
胸の傷の他は、少しあざになっているくらいだ。──私は服を着て、階下へ降りて行った。
掃除機を持って、階段を上りかけると、居間の方から、
「いてっ! そっとやれよ!」
と、志村の悲鳴が聞こえて来る。
情ない闘士だわ、と私は苦笑した。
寝室のガラスの破片を掃除機で吸い取って、降りて来ると、居間から柏木幸子が出て来た。
「どうも……すみません」
と頭を下げる。
「あなたが謝る必要ないわ」
「ええ……」
二階へ上ると、柏木幸子もついて来た。寝室に入って、私はベッドに腰をかけた。
「──これからどうするの?」
柏木幸子は、目を伏せたまま、
「朝になる前に、出て行きます」
と言った。
「それはいいけど……。ずっとあの男と逃げ回るつもり?」
私は首を振って、「やめた方がいいわよ。あの男は結局あなたに養われているのに慣れて、何もしなくなるわ」
「その内……きっと容疑も晴れて……」
「でも、あなたの罪は消えないわ。やっぱり警察へ行った方がいいわよ。もしいやなら、私が千田社長にお金を返してあげる」
柏木幸子はためらっていたが、
「ありがたいんですけど……やっぱりあの人と一緒に行きます」
「ご家族もあるんでしょう? 主人のせいであなたがあの男と関り合ったのかと思うと、私も責任を感じるのよ」
「そんな……。私の責任です、何もかも」
私はため息をついた。
「あなたも子供じゃないんだし、したいようにするといいわ。ただ、ろくなことにはならないと思うだけよ」
柏木幸子は、黙って頭を下げると、寝室から出て行った。
私は、しばらく動かなかった。
玄関のドアが開いて、閉まる音がした。
裏の方へ立って行き、カーテンを開けると、まだ暗い道を、二人が歩いて行く姿が、家の間に見え隠れしている。
あれだけ言ったのだから、もうこちらの責任ではない。人それぞれ、生き方を選ぶ権利があるのだから。
それにしても……。
私は、夫の写真に見入った。まさか、あなたも、志村があんな男だと思っていて、あれこれ手を貸していたわけじゃないんでしょう。
「可哀《かわい》いそうな人」
と、私は呟いた。
結局、あの志村という男にとって、夫は、ただの金づるに過ぎなかったのだろう。昔ながらの、正義感を持っていた夫は、志村を助けてやることで、自分の良心を鎮めていたのかもしれない。
それに甘え、利用することばかり考えている志村が、それだけに一層腹立たしかった……。
遠からず捕まるだろうが、その方がまだ救いがあるかもしれない。──私は、鍵をかけようと、下へ降りて行った……。
翌日──というか、その日の午後、目が覚めたのは、もう二時を回っていた。
すっかり体がだるくなってしまって、ベッドから出るのもおっくうである。
このまま眠っていようか、と考えていると、下で電話が鳴っているのが聞こえて来た。
しばらく放っておいたが、しつこく鳴り続けるので、渋々ベッドから出る。
受話器を取ると、
「あ、奥さん、田代ですが」
と、セールスマン風の当りの柔らかい声が聞こえて来る。
「あら、どうも」
私は、向うが言い出すまで、じっと黙っていた。
「あの……いかがでしょうか?」
と、田代がおずおずと言い出す。
「え?」
と、わざととぼけて、「ああ、お金のことですね」
「そうなんです。こっちも、せっつかれていまして……」
「夫の会社の方も、色々手続きが大変なようで。もう少し待って下さい」
「はあ。いつ頃になるか──」
「あ、誰か来たわ。ちょっと、お客なので、失礼します」
問答無用で受話器を置く。本当に玄関のチャイムが鳴っていたのだ。
「はい」
とインタホンで訊くと、
「こんにちは」
と、子供の声がした。
「あら、亜里ちゃん? 待っててね」
私は、ネグリジェのままだった。もちろん、ゆうべの裂かれたやつじゃないけれど、それでも、少々出て行くのはためらわれるほど、透き通っている。
あわてて寝室へ戻り、ガウンをはおって戻って来た。
「ごめんなさい、今開けるわね」
と、ドアを開けて、目を丸くした。
子供たち──十人以上もの子供が、玄関先を埋めている!
「こんにちは」
と先頭の亜里が言った。
今日は、布でできたお人形を抱きしめている。──山田知子が子供たちの向うに顔を出して、
「すみません、どうしても来るって聞かなくって」
と頭をかく。
「いいえ、いいのよ。でも──大変だったでしょう! さあ、みんな入って」
ワーッと、凄い勢いで、子供たちが、上陸して来た。
「ご迷惑だと思ったんですけど」
と、知子は頭をかいている。
「こういう不意のお客なら歓迎よ」
と、私は言った。「ともかく着替えて来るから」
普段着にエプロンをして戻って来ると、居間と、狭い庭は早くも遊園地と化している。
「さあ、大変だ。──ねえ、私、ちょっと酒屋さんに行って、ジュースとか、買って来るわ。後お願いね」
「ええ。いいんですか?」
「おやつは何がいいかしら。──ホットケーキでも焼こうか? 何人分かしら?」
私は、買物袋を手に、家を飛び出した。
ホットケーキの粉や、卵、ミルク、ジュースなどを買い込んでいると、
「河谷さん」
と声をかけられた。
落合刑事である。
「買い出しですか」
「ええ。いよいよ逃亡しようかと思って」
と私は言って、「あ、そうだわ。すみませんけど、このジュースの箱を運んでいただけません?」
「いいですよ」
「すみません、いつも何だか使ってばかりいるみたいで」
「警官は公僕ですからね」
と言って、落合は笑った。「──お、こりゃ結構重いな」
「大丈夫ですか?」
「これくらい平気ですよ」
「じゃ、すみません、ミカンも買いますので……」
結局、重いものは全部、落合刑事に持ってもらって、家へ戻った。途中、
「何のご用でしたの?」
と私は訊いた。
「杉崎殺しの件で──」
「何か分りまして?」
「隣の老人が見た女は、杉崎の愛人ではなかったようです。その女にはアリバイがありましてね。それに、もう杉崎とはとっくに切れていたようです。女の方が振っていたらしいですな」
「そうですか。じゃ、他に女がいたというわけですね」
「どうも、振り出しに戻るという感じです。あなたのおっしゃった、アリバイを立証してくれる人に会いたいと思いましてね。一応は確かめませんと」
「それならちょうどいいわ」
と私は言った。「今、うちに来ていますの」
「そりゃ都合がいい。──ところで、何かのパーティですか?」
「ええ、まあそんなもんです。よろしかったら、ホットケーキをご一緒にいかがですか?」
「懐かしいな」
と落合は微笑《ほほえ》んで、 「外でも、ちょっと注文し辛《づら》いですしね。ごちそうになりましょうか」
「どうぞ。でも──ちょっと落ち着かないかもしれませんけど……」
「やれやれ……」
落合刑事が額の汗を拭《ぬぐ》った。
「すみません、どうも」
と私は、汚れた皿を運んで来ると、流しに重ねた。
「いや、任せて下さい、僕が洗います」
と、落合刑事、腕まくりして、頑張っている。
「さすがに男の方は力があるわ。こんなにきれいになって──」
と、知子が洗い終った皿を拭《ふ》きながら言った。
「どうも、乗せられてるみたいだな」
落合は笑った。
「でも、お上手ですね、本当に」
「一人暮しが長いものですから。──それに汚れた皿とか、そういうものがたまっていると苛《いら》々《いら》してだめなんですよ」
「まあ、じゃ、まだお独り?」
「そうです。なかなか暇がなくて……」
すっかり和《なご》やかなムードで、とても刑事と殺人容疑者の対話とは思えない。
一息ついて、居間へ戻ると、子供たちはお昼寝の時間とばかり、一人残らずソファや床のカーペットで寝入っている。
「あらあら。風邪《かぜ》引いちゃうわ。──知子さん、手伝って。毛布を持って来るから」
ありったけの毛布や、夏用の薄いかけ布団を運んで来て、子供たちにかけてやる。
亜里は、隅の方の椅《い》子《す》に、ちょっと窮屈そうに寝ていた。
「これじゃ首が痛くなりそうね。上のベッドに運びましょうか」
「目を覚ますと──」
「そっとやるわ」
私は、亜里を用心しながら抱き上げた。思ったよりは軽い。亜里は人形をしっかりと抱きしめていた。
「そのお人形、ご主人のプレゼントなんですよ」
と、知子が言った。
「あら、そう?──もう少し大きいのにすれば良かったのに」
「いいえ。子供にはそれくらいのがちょうどいいんですわ」
そうかもしれない。高いから、安いから、というのは、大人の価値観である。
子供には子供なりの価値観があるのだ。
私は寝室へと亜里を運んで行き、ベッドにそっと横たえた。さすがに、しばらくかかえていると重くなって来る。少し、手がしびれていた。
でも、そのしびれは、不快なものではなかった。
私は、ベッドの端に腰をかけて、しばらく、亜里の、少し口を開いたあどけない寝顔を眺めていた。──子供が欲しい、と痛切に思ったことはなかったが、今、初めて、胸のちょっとした痛みと共に、その思いが私を捉《とら》えた。
でも、もう手遅れだ。夫は死んでしまった。
ドアが開いて、落合刑事が顔を出した。
「失礼──」
「しっ! 子供が起きるじゃありませんか」
と私はつい言ってしまってから、ちょっと舌を出した。「ごめんなさい。つい……」
「いや、今の顔は怖かったなあ」
と、落合は笑って言った。「いや、そろそろ失礼しようと思いましてね」
「あら。でも──」
「話は、今、山田さんからうかがいました。それにとてもあなたがご主人を殺したとは思えませんよ」
「すみません、散々手伝わせて」
私は玄関まで落合を送りに出た。
「では、また何か分ったら、ご連絡します」
と落合は玄関のドアに手をかけた。
「あの──」
「何か?」
志村のことを話そうか、と思った。早く見付かった方が、柏木幸子のためだ。しかし、思い直した。
「夫が殺されたことと、杉崎が殺されたことと、関係があると思っておられるんですね?」
と私は訊いた。
「そう見ています。──ただ、ご主人の場合、なぜ殺されたのか、その理由がつかめないので困るのですよ。何か思い付かれたら、いつでも電話して下さい」
「分りました」
落合は玄関のドアを開けた。知子が駆けて来ると、
「刑事さん、お電話です」
と言った。
「ああ、どうも」
落合がもう一度上り込む。
居間の電話に出ると、落合は短いあいづちの他は何も言わずに、向うの話を聞いていたが、やがて肯くと、
「よし、じゃ、すぐ手配してくれ」
と言って、電話を切った。
「何かありまして?」
「例の志村一郎です。友人の家に現われたそうで」
「捕まったんですか?」
「今、その近くに網を張っています。どうやら女と一緒のようですね」
と言って、落合は、そそくさと帰って行った。