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静かなる良人14

时间: 2018-08-19    进入日语论坛
核心提示:13 清 算「いらっしゃいませ」 駅の切符売場みたいに、小さく窓の開いたフロント。──私は近寄って、「待ち合せです」 と言
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 13 清 算
 
「いらっしゃいませ」
 駅の切符売場みたいに、小さく窓の開いたフロント。──私は近寄って、
「待ち合せです」
 と言った。
「お部屋は?」
「分ってますから」
 と、歩き出す。
 この手のラブホテルは、私もよく利用したから、勝手は分っている。
 三〇一号室。──階段を上って、すぐ目の前だった。
 ドアを叩《たた》いて、しばらく待っていると、
「はい……」
 と、か細い声がした。
「私、河谷よ」
 ドアが開いた。柏木幸子が、
「どうもすみません」
 と、囁《ささや》くように言った。
 まるで、別人のように、青ざめて、頬《ほお》が落ちている。
「大丈夫?」
「ええ……」
 私は中に入った。──ありふれた、この手のホテルらしい部屋である。
「あまり眠っていないんじゃない?」
 と私は訊いた。
「ええ、ほとんど……。ちょっとした物音でびくっとして、飛び起きたりして」
 幸子は、椅《い》子《す》にぐったりと坐ると、安心したせいか、声も上げずに泣き出した。
 私は、しばらくそのまま放っておいた。人間、泣き過ぎて死ぬということはない。
 むしろ、涙がストレスの解消になることもあるのだ。──三十分近くも泣いていただろうか。
「気が休まりましたわ」
 と、言って、幸子は微笑《ほほえ》んだ。
「良かったわ。──ねえ、彼はどうしたの?」
「彼ですか」
 幸子は、ちょっと目を伏せて、
「行っちゃいました」
 と言った。
「そう」
「私、お金を、ほとんどそのまま持ってるんです」
「会社へ返す?」
「そのつもりです」
「もう警察は知ってるわよ」
「構いません。何もかも、すっきりしたいんです」
「それがいいわ」
 幸子は、涙を拭って、
「ご迷惑かけてすみません」
 と言った。
「いいのよ。──どうする? 警察へ行くのなら、ついて行ってあげるわ」
「お願いします。ただ……」
「なあに?」
「少し眠りたいんです。警察に行けば、あれこれあるでしょう?」
「いいわよ。じゃ、朝になったら、ついて行ってあげる」
「ここにいてもらえますか?」
「ええ、いいわよ」
「嬉《うれ》しいわ……」
 と、幸子が言った。「眠れるんですもの」
「せっかく大きなベッドがあるんだもの、そこで寝たら?」
「そうですね」
「どんなに寝相が悪くても、落っこちないわよ」
 幸子は、ちょっと笑って、ベッドの上に横になった。
「起こして下さいね……」
「ええ。心配しないで」
「奥さんもおやすみにならないと」
「いいのよ。私は適当にやるから」
「すみません……」
「眠ってちょうだい。──ゆっくりね」
 私が見ている内に、幸子は寝入ってしまった。よほど疲れ切っていたのだろう。
 あの男から解放されて、ホッとしているのに違いない。──恋だって一種の拘束には違いないのだから。
 私は一向に眠る気にはなれなかった。
 今日は色々なことがあり過ぎて、少々混乱している。──家をあけることができて、正直、ホッとしていた。
 あの、木戸と一緒では気詰りでならない。こうしている方が、気楽というものである。
 鞄《かばん》が目に入った。テーブルの上に置いて開いてみると、札束が、無造作に詰め込んである。
 ちょっと、妙だな、と思った。あの、志村が、よくお金をそっくり置いて行ったものだ。少しぐらいはくすねて行ったのだろうか?
 数えてみる気もしないので、そのまま、鞄を閉じ、元の通り、床に置いた。まだ朝までは大分時間がある。
 奥にバスルームのドアがあった。──水がドアの下から流れ出して、絨《じゆう》毯《たん》にしみ込んでいる。
「出しっ放しじゃないのかしら」
 私は歩いて行って、バスルームのドアを開けた。
 今日の仕上げには、ふさわしいクライマックスだった。
 浴槽に体を半分ねじ込むようにして、志村が死んでいた。裸で、腹から、血がタイルの床へと広がっている。
 ドアの下から流れ出していたのは、血だったのである。
 ナイフが、落ちていた。──刃には血がついている。
 志村は、何やら不平を言いたそうな、いつもの顔で死んでいた。
 私は、バスルームを出て、ドアを閉めると、少しめまいがして、よろけた。──しかし、そう激しいショックは受けていなかった。
 おそらく、多少はこれを予想していたのだろう。ここへ来たときから。
 幸子は、ぐっすりと眠っていた。その寝顔は平和そのものだった。
 電話に手をのばしかけて、思い直した。もう少し、眠らせてやりたかった……。
 
「隠してましたね」
 と、落合刑事が言った。
「ええ」
「困った人だ」
 と、落合は首を振った。「怒れないから、余計に困る」
 幸子が、刑事に伴われて、パトカーへ乗り込もうとしている。ふと足を止めて、私の方を見た。
「お世話になりました」
 と、静かに言った。
「いいのよ」
 と私は言った。
 午前三時である。三十分ほど前に、幸子は目を覚ましたのだった。
 落合と私は、ホテルの前で、走り去るパトカーを見送った。
「ゆっくり事情を伺うことになりますよ」
「どうぞ。こちらも、何もかもお話ししますから。──署まで同行願います、ってやらないんですか?」
「一杯コーヒーが飲みたいですよ、こっちはあまり眠ってないので」
 と落合は言って、ホテルの方を振り向いた。「まだしばらくはかかるでしょうから」
 私と落合は、ホテルのすぐ向い側にある、二十四時間営業の喫茶店に入って、コーヒーを飲んだ。
 私は、田代のことも含めて、何もかも落合に打ちあけた。
「──よく分りました」
 と落合は肯《うなず》いて、 「よく話す気になりましたね」
「志村が殺されたでしょう。私がすぐにあの二人のことを連絡しておけば、柏木さんも、志村を殺さずに済んだかもしれない、と思って……」
「それは何とも言えませんね。あなたは二人の居場所を知っていたわけじゃないんですから」
「そう言っていただけると、気が少し楽になります」
 と、私は微笑んだ。
「それに、柏木幸子は、杉崎を殺しているんですよ」
 私は、一瞬、まじまじと落合を見つめていた。
「──本当ですか」
「彼女が浮かび上ってから、例の、杉崎の隣の家の人に彼女の写真を見せました。顔は分らないが、感じがよく似ているということでした」
「でも、それだけでは──」
「柏木幸子は、その前にも、杉崎に会いに来ています。おそらく、志村の容疑を解いてやりたかったのでしょうね。しかし、杉崎は、承知するはずがありません」
「それで争いにでも──」
「何があったのかは、分りません。しかし、杉崎を殺したのが柏木幸子だということは、まず間違いないと思いますがね」
「じゃ、あの人は二人も──」
「情状は考慮されると思いますよ。愛している男を殺すしか、自分を取り戻す道はなかったんでしょう」
「気の毒に」
「全くです。──金の横領はあるし、そう軽くは済まないでしょうがね」
 私は、コーヒーカップで、手を暖めた。寒いわけでもないのに、凍えているような気がしたのである……。
「田代という男は、早速洗ってみましょう」
 と、落合は手帳にメモをした。「ご主人の件にも関りがありそうだ」
「どこへ行ったのか、見当もつきませんけど」
「何とか捜せば見付かるものですよ」
 と落合は言った。「──しかし、あなたのご主人も、本当にいい方だったんですね」
「そうですわ、本当に。生きている内に分れば良かったんですけど……」
 と私は言った。
 
 警察で話を聞かれ、色々と署名をしたりして、終ったのは、もう朝の九時過ぎだった。落合刑事が、ずっとついていてくれたので、とても楽だった。
 実際、そうでなかったら、疲れ切ってしまっただろう、と思う。何しろ、私は志村と柏木幸子を、一度は逃がしているのだから。
「──疲れたでしょう」
 と、落合が言った。
「いえ、大丈夫です。何だか興奮してるんですね。眠くならないんですもの」
「じゃ、一つ、ご主人のおられた会社へ行きますが、一緒にいかがです」
「会社へ?」
「金のことでね。色々と面倒なんですよ、こういうことも。はい、どうぞと返すわけにいかないので」
「そんなものなんですか」
「警察もお役所ですからな」
 と言って、落合は微笑んだ。
「じゃ、ぜひ一緒に行かせて下さい。千田社長に訊きたいことがあるんです」
 と私は言った。
 会社に着いて、落合が受付に話をする間、私は、少し退《さ》がって待っていた。
 誰かが向うからやって来る。平石だ。
「平石さん」
 と声をかけたが、平石は足早に私のわきをすり抜けて行ってしまった。
 何だか妙だった。──聞こえたはずなのになぜ避けて行ってしまったのだろう?
「奥さん、行きましょう」
 と、落合に促されて、私は我に返った。
 さすがに刑事ともなると、すぐに社長室へ通される。
 千田が、立ち上って迎えた。私を見て、ちょっと意外そうな顔になったが、何も言わずに、ソファをすすめた。
「──どうもこの度はお手数をかけました」
 と、千田は丁重に言った。「おかげさまで金が無事に戻ったようで」
「すぐにお返ししたいのですが、色々と、厄介な手続きがありましてね。ご了解いただきたいのですが」
「それはもう。返していただければ」
「一応、この書類を提出していただきたいのです」
 落合があれこれと詳しく話している間、私は、じっと千田を見つめていた。いかにも商売人の顔──世界の終りの時が来ても、これで何か金《かね》儲《もう》けができないか、と考える男である。
 ドアがノックされ、入って来たのは、平石だった。私を見て、ちょっと会《え》釈《しやく》した。
「社長、ちょっとお話が──」
 と千田に声をかける。
「待っていられないのか。お客様だ」
「申し訳ありません。では、後で参ります」
 平石が出て行こうとするのを、
「ちょっと待て」
 と千田は呼び止めた。「ご紹介しておきましょう。今度、人事課長になった平石君です。私の右腕になってもらう人物ですよ」
 平石は私を見ずに頭を下げ、出て行った。
「組合の委員長をずっとやっていましてね」
 と千田は言った。「人事でうまく力のバランスを取るには、各社員の私生活にも精通していなくてはなりません。その点、組合の委員長だった男は最適ですよ」
 私は、平石に腹を立てる気にはなれなかった。出世のチャンスをけっとばせとは、他人の口から言えることではあるまい。
 しかし、哀れで、物《もの》哀《がな》しい気分だった。
 夫が、これを知らなくて良かった、と思った。──夫は、結局、孤独な人だったのだ……。
「──お話はよく分りました。ところで、河谷さんの奥さんはどういうご用ですかな」
 千田は私の方を向いた。
「教えていただきたいことがあって、参りました」
 と私は言った。
「というと?」
「あなたが、主人のどんな弱味を利用したのか、知りたいのです」
 千田は一向に動じる様子もなく、
「何のお話ですか」
「主人は、決して組合を裏切って、スト破りをやったりする人ではありません。あなたの言うなりになったのは、あなたが何かを使って主人を脅したからです」
「それはまた人聞きの悪い」
「でも事実でしょう」
「脅迫などしませんよ。ご主人は進んで協力して下さったのです」
「嘘《うそ》です」
 千田は、ちょっと皮肉っぽい笑みを浮かべた。
「──確かに、一応交換条件はありましたよ。しかし、それは取引であって、脅迫ではない」
「何を条件になさったんですか?」
「お知りになりたいんですか? 本当に?」
「はい」
「そうですか。──まあ、いいでしょう。どうせ、その内、奥さんにお返ししようと思っていたのですから」
 と、千田は立ち上った。
 そして、机の所へ歩いて行くと、引出しを開け、奥の方から、大きな封筒を取り出した。
「これを、誰にも見せない、という条件でしてね」
 と、その封筒を私の前に置く。
 私は封筒を開けた。──大きく引き伸ばした写真が、七、八枚入っていた。
 それは私と久保寺の写真だった。ホテルのベッドで、裸で絡み合っている、隠し撮りの写真だ。
 震える手で、一枚一枚、めくった。どれも、私と久保寺の顔が、はっきり写っている。今にも私の喘《あえ》ぎが聞こえて来そうな、生々しいカットだった。
「どうぞお持ち下さい、ご遠慮なく」
 千田が、《あざ》嘲笑《わら》うような調子で言った。
 私は、混乱していた。落合が、写真を封筒へ納め、私を抱きかかえるようにして、立たせてくれた。──そして、気が付くと、私は表通りを歩いていた。
「──大丈夫ですか?」
 落合が心配そうに声をかけて来た。
「ええ……」
「卑劣な男だ!」
 と落合は吐き出すように言った。「この写真は処分しておきますよ」
「いいえ! 私に下さい」
「しかし──」
「家中に貼《は》って、自分の馬鹿なことを忘れないようにしますわ」
「そんな風に考えてはいけません」
 と落合は言った。
「すみません、やっぱり疲れてるんだわ、私」
「家まで送りますよ」
「いえ、大丈夫。一人で帰ります」
 心配する落合を振り切るように、私は封筒を手に、タクシーを停《と》めて、さっさと一人で乗り込んだ。
 タクシーが走り出す。──膝《ひざ》の上で、封筒が焼けているような気がした。その重さが、足を砕いてしまいそうだ。
 ──可哀そうなあなた、と私は思った。
 妻の浮気の写真をバラまくとおどかされて、自分の仲間を裏切る他なかった……。
 それはきっと、山田知子のアパートへ行った日に違いない。当然だ。妻のあんな格好を見せられて、他の女の所に救いを求めに行ったのだ。
 私は、深く息をついて、目を閉じた。──何ということだ!
 何もかもが、打ち砕かれてしまったような気がする。夫を殺した犯人を見付けようなんて、自分自身が、夫を殺したようなものなのに!
 どうして、いっそあの写真をバラまいてくれなかったのか。バラまいて、私と一方的に離婚して、あの知子とでも再婚すればよかったのだ。──私は、両手に顔を埋めた。
「どの辺ですか?」
 と、運転手が訊いた……。
 タクシーを降りると、私はもう早く一人きりになりたくて、家の玄関へと、ほとんど走るように急いだ。鍵を開けながら、木戸が泊って行ったことを思い出した。
 でも、いくら何でも、もう出て行ったろう。
 中へ入って、玄関に誰の靴もないことに気付いてホッとした。とても、人の不幸に付き合っている気分じゃない。
 上って、立ちすくんだ。──この匂いは?
 ドキッとした。ガスだ! ガスが洩《も》れている。
 私は台所へと走った。しかし、ガス栓は閉めたままになっている。すると──後は居間に、ストーブ用の栓がある!
 私は居間へ飛び込んだ。カーテンが引いてあって、薄暗く、ガスの匂いが鼻をついた。私は急いで、栓をしめると、庭へ出るガラス戸をいっぱいに開け放った。
 咳《せき》込《こ》みながら、ふと気付いた。──夫が死んでいたときも、この通りだった、と。
 それでは……。居間の中を振り返った私は、思わず声を上げるところだった。
 床に誰かが倒れている。──郁子さんだった!
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