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忙しい花嫁07

时间: 2018-08-19    进入日语论坛
核心提示:食《しよく》卓《たく》の対話 幕《まく》間《あい》のロビーは、着《き》飾《かざ》った人々でごった返していた。 それでも、
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食《しよく》卓《たく》の対話
 
 幕《まく》間《あい》のロビーは、着《き》飾《かざ》った人々でごった返していた。
 それでも、NHKホールは文化会館より大分ましである。寛《くつろ》ぐという場所はないが、一《いち》応《おう》広いから、立ち話ぐらいはできる。
 「——退《たい》屈《くつ》じゃない?」
 と、武居が粋《いき》なスーツ姿《すがた》で立っている。
 「いいえ、ちっとも」
 多少は正直なところで、亜由美はそう答えた。亜由美とて〈白鳥の湖〉ぐらいは知っている。
 「——色々話はある」
 と、武居は言った。「しかし、今はやめとこう。場所にふさわしい話っていうものがあるからね」
 「そうですね」
 亜由美も、今日はちょっと気取って、思い切り上等なスタイルでやって来た。
 もちろん中にはジーパンスタイルの女の子もいる。
 「最近はヨーロッパのオペラ劇《げき》場《じよう》なんかも、同じようなものさ」
 と武居は言った。「日本人が固まって座《すわ》っている。居《い》眠《ねむ》りする奴《やつ》もいる。アメリカ人は客席で平気でフラッシュをたく……。しかし、そういう客が全部いなくなったら、それこそオペラは潰《つぶ》れちまう」
 「本当に好《す》きな人には、苦《にが》々《にが》しいでしょうねえ」
 「たぶんね。——日本はその点気が楽《らく》さ」
 「来て良かったわ」
 と、亜由美はバッグを持った手を後ろに組んで、ゆっくりとロビーを歩いた。
 「そう言ってもらえると嬉《うれ》しいね」
 「いやなことが続き過《す》ぎるんですもの」
 「ああ、そうだ」
 と、武居は思い付いた様子で、「君の通っている大学で人殺しがあったんだねえ」
 「ええ。クラブの先《せん》輩《ぱい》なんです」
 「へえ。身近にそんなことがね……」
 「武居さんもご存《ぞん》知《じ》のはずですよ」
 「僕《ぼく》が?」
 「あの披《ひ》露《ろう》宴《えん》に出ていたんです」
 「じゃ、君にひっぱたかれたとき、隣《となり》に座《すわ》ってた……。あの子かい? それは知らなかったなあ」
 もしこれが演《えん》技《ぎ》なら、武居は名《めい》優《ゆう》に違《ちが》いない。反《はん》応《のう》はごく自然だった。
 「犯人はまだ捕《つか》まらないんだね」
 「ええ。そうらしいです」
 「大学の中で殺人か。キャンパスも平和じゃなくなったね」
 亜由美は、表《おもて》玄《げん》関《かん》の近くまで来て足を止めた。——外で、有賀君、待っていてくれるかしら?
 
 「デートなのよ、明日」
 大学の帰り道、亜由美はスパゲッティの店で、有賀に会っていた。
 「へえ。僕なら時間あるぜ」
 「良かった!」
 「じゃ、どこに行く?」
 「間《ま》違《ちが》えないで。相手は武居さん」
 「あのにやけた野《や》郎《ろう》かい?」
 有賀はつまらなそうな顔になった。
 「そうむくれないでよ」
 と、亜由美は笑《わら》って、「田村さんのことが気になるじゃない。会って話を聞きたいのよ。新聞や週《しゆう》刊《かん》誌《し》じゃ、どこまで正《せい》確《かく》な話か分らないもの」
 「話だけかい?」
 「食事ぐらいするかもね」
 「何食べるんだ?」
 「そんなことまで分るわけないでしょ」
 「せいぜいスパゲッティぐらいでやめとけよな」
 有賀は、やけになってスパゲッティを大量に口へ放り込み、目を白黒させた。
 「ねえ、有賀君、もう一度頼《たの》まれてくれない?」
 「何を? また見《み》張《は》りはいやだよ」
 「見張りなんて頼まないわよ」
 「じゃ何だ?」
 「監《かん》視《し》よ」
 「同じじゃないか!」
 有賀は、笑《わら》い転《ころ》げる亜由美をにらみつけていたが、その内、一《いつ》緒《しよ》になって笑い出してしまった。
 「参ったよ、塚川君には」
 「じゃやってくれる? ありがとう。——あの人、桜井さんの事《じ》件《けん》にも関係してるかもしれないのよ」
 「どういう意味?」
 亜由美は、桜井みどりが武居のことを口にしていたことを教えてやった。
 「そしてあのいたずら電話。——ね? どうも怪《あや》しいでしょ?」
 「武居が犯《はん》人《にん》だよ、決ってる!」
 「待ってよ。あわてないで。だからこそ、監視を頼んでるんじゃないの」
 「そういうことなら」
 と有賀は腕《うで》まくりする真《ま》似《ね》をして、
 「任《まか》せといてくれ! 危《あぶな》いときは逃《に》げ出すから」
 どこまで真《ま》面《じ》目《め》なのかよく分らないのが、亜由美の世代なのである。
 「塚川さん、ここでしたか」
 聞き憶《おぼ》えのある声にびっくりして顔を上げると、殿永部長刑《けい》事《じ》の、大きな体が立っていた。大きいくせに、なぜか目立たないというか、控《ひか》え目《め》な存《そん》在《ざい》なのである。
 「殿永さん。——私にご用なんですか?」
 「ええ。大学へ行ったら、もう帰ったところだということで、歩いて来るとあなたの顔が外から見えたものですからね」
 殿永は、席につくと、スパゲッティの大《おお》盛《もり》を頼《たの》んで、「少し減《げん》量《りよう》せんといかんので、一日三食に減《へ》らしとるんです」
 と言った。
 「以前は何食だったんですか?」
 「五食ぐらいでしたかね、平《へい》均《きん》すると」
 太るはずだ。——亜由美は、
 「何か分りましたか?」
 と訊《き》いてみた。
 「どうもねえ……。あのハンバーガーショップに突《つ》っ込《こ》んだトラックの一《いつ》件《けん》はさっぱりです。現《げん》場《ば》の混《こん》乱《らん》で、誰《だれ》も運転していた人間を見ていない」
 「エンジンキーは?」
 「運転手が持っていたんです。しかし、どうやったか、ちゃんとエンジンをかけている」
 殿永は水をコップ一《いつ》杯《ぱい》、一気に飲み干《ほ》すと、「武居さんが狙《ねら》われたとして、どんな動機が考えられるでしょう?——そこで、例の、あなたの先《せん》輩《ぱい》の一件が気になりましてね」
 「先輩の……」
 「田村さんが行方不明になった件です。向うへ問い合せてみましたが、新しい事実は出ていないようですよ」
 「上《うわ》衣《ぎ》の血は?」
 「田村さんのものかどうか、判《はん》別《べつ》できなかったそうです。何しろ、かなりひどく汚《よご》れていたらしいので」
 「じゃ、死んだとも限《かぎ》らないんですね?」
 「死んだものと向うの警《けい》察《さつ》はみています。だから、これからもあまり新しい発見は期待できませんね」
 「そして今度の——」
 「そうです。桜井みどりさんが殺された」
 スパゲッティがやって来た。殿永は、豪《ごう》快《かい》な食べっぷりを見せながら、
 「食べながらで……失礼します。桜井さんの身辺、あれこれ調べてみましたが、どうも殺意を抱《いだ》くほど恨《うら》んでいた人間はいないらしいのです」
 「私もそう思います」
 「彼女《かのじよ》は、田村さんの結《けつ》婚《こん》式《しき》に出ていたそうですね」
 「ええ、一《いつ》緒《しよ》に出ました」
 「この三つの事《じ》件《けん》。田村さんの失《しつ》踪《そう》、武居さんが殺されかけ、桜井みどりさんが殺された。——何か関連がありそうですね」
 「どんな関連が?」
 「それは分りません」
 と、殿永は首を振《ふ》った。
 大《おお》盛《もり》のスパゲッティは、もう半分以上、消えて失くなっていた。
 「しかし、三つの事件が偶《ぐう》然《ぜん》にこうたて続けに起るというのは妙《みよう》だと思いませんか。やはり関連があるとしか思えない」
 「私もそう思います」
 「塚川さん、武居という人と、個《こ》人《じん》的なお付合いはおありですか?」
 「あ、あの——それは——」
 と亜由美はためらったが、あまり隠《かく》しておくのもどうかと思った。「明日からある予定なんです」
 亜由美はそう答えた。
 
 「さあ、第三幕《まく》だ」
 と、チャイムが鳴り渡《わた》るのを聞いて、武居は言った。「一番華《はな》やかなところだよ」
 「楽《たの》しみだわ。あんまり詳《くわ》しくはないんですけど」
 と、亜由美は一緒に席の方へ戻《もど》りながら言った。
 「確《たし》か黒鳥の踊《おど》りがあるんでしたね」
 「うん。一番の見せ場でね。同じ人が踊《おど》るんだけど、衣《い》裳《しよう》が白から黒になると、急に雰《ふん》囲《い》気《き》が変る」
 席について、広いホールの中を見《み》渡《わた》す。客がゾロゾロと戻《もど》り始めていた。
 「白鳥とそっくりな黒鳥に、王子がだまされる……」
 亜由美は呟《つぶや》いた。
 「何か言った?」
 「いいえ、別に」
 ——あの花《はな》嫁《よめ》は、そっくりな別の女だ。
 白鳥と黒鳥のように、か。
 「淑子さんはもう大《だい》丈《じよう》夫《ぶ》なんですか?」
 と、亜由美は訊《き》いてみた。
 「淑子さん? ああ、もう大分元気になったようだ。と言っても、ショックで寝《ね》込《こ》んでいたのが、起き出して来たということだがね」
 「今、どこに?」
 「別《べつ》荘《そう》だ。何しろ、新《しん》婚《こん》旅行で夫が失《しつ》踪《そう》、しかも大《だい》企《き》業《ぎよう》の社長令《れい》嬢《じよう》と来てる。週《しゆう》刊《かん》誌《し》などには、絶《ぜつ》好《こう》のネタだからね」
 「いいですね、隠《かく》れる別荘がある人は」
 「全くだな」
 と、武居は笑《わら》った。「確《たし》か増口さんは、十何か所か、別荘を持っているはずだよ。一つ一つ歩いても、当分は姿《すがた》を隠していられるからね」
 「一つぐらい分けてくれないかな」
 と、亜由美は冗《じよう》談《だん》めかして言った。「武居さん、淑子さんとゆっくり話しました?」
 「いや、連れて帰る間は、ほとんど口もきかなかったからね。——家へ入ってしまってからは、一度会ったきりだ。それも、ちょっと挨《あい》拶《さつ》を交わしたくらいでね」
 本当に、あの花嫁は別の女なのか。増口淑子と良く似《に》た誰《ヽ》か《ヽ》なのだろうか?
 ——華《はな》やかに、舞《ぶ》踏《とう》会《かい》の幕《まく》が上った。
 
 ギターを鳴らしながら、イタリア人が、亜由美たちのテーブルへやって来た。
 亜由美のよく知らない、甘《あま》いメロディのカンツォーネを歌うと、武居が千円札《さつ》を小さくたたんで、ギターの中へ入れた。
 「——ワインはどう?」
 「もう結《けつ》構《こう》です。酔《よ》っ払《ぱら》っちゃいそう」
 亜由美は、息をついた。肝《かん》心《じん》の話が終らないうちに、酔ってしまっては困る。
 「武居さんはどう思います?」
 と亜由美は訊《き》いた。
 「どうって?」
 「田村さんは死んだんでしょうか?」
 「何とも言えないね」
 と、武居は首を振《ふ》った。「ヨーロッパは地続きで、それこそ、色々な犯《はん》罪《ざい》組《そ》織《しき》が動き回っている。日本人の旅行者は無《む》邪《じや》気《き》だからね、よく簡《かん》単《たん》に引っかかって、行方不明になるんだよ」
 「でも、男の人が——」
 「金を持ってるとね。しかし、そう金を持って出たとも思えないが」
 「田村さんは、たとえお金を持って出ても、それを見せびらかす人じゃありませんよ」
 「そうだね。僕《ぼく》も同感だ」
 「およそ狙《ねら》われるタイプじゃないと思うんだけどなあ」
 「あれが偶《ぐう》発《はつ》的《てき》な事《じ》件《けん》じゃないとしたら? どう思う?」
 「理由があって、田村さんが殺された、っていうことですか?」
 「うん。——あの怪《かい》電《でん》話《わ》が気になってしかたないんだ」
 「フィアンセが死んだ、という……」
 「そう、まさかと思うが、もし本当に淑子さんが……」
 その先は、武居は口にしなかった。
 「もし、淑子さんと見分けがつかないくらいそっくりな人がいたとして、入れ替《かわ》ったら、騙《だま》し通せるでしょうか?」
 と亜由美は言った。
 「大《だい》胆《たん》な仮《か》定《てい》だね」
 武居は、苦《く》笑《しよう》しながら言ったが、意外そうな様子は全く見せなかった。ということは、おそらく武居自身もそう考えたことがあるのだろう、と亜由美は思った。
 「まず不《ふ》可《か》能《のう》だね」
 しばらく間を置いてから、武居は言った。「普《ふ》通《つう》なら」
 「普通なら、ということは…‥あの増口家では?」
 「あの家は普通じゃない」
 と武居は言った。「ただ金持だというだけでなく、変ってるんだ。増口さんは金持に珍《めずら》しく、あまり女を作るとか、囲うとかいうことをしない。要するに、そんなことのために金を使う気がしないんだな」
 「じゃ、真《ま》面《じ》目《め》人間なんですか、あの人?」
 「あの人の愛人は仕事だね」
 と、武居は言った。「ベッドに入っていても、食べていても風《ふ》呂《ろ》につかっていても、仕事のことを考えている」
 「そんな風にも思えませんわ」
 「自分がコマネズミのように働くというわけじゃない。しかし頭の中は仕事のことだけで一《いつ》杯《ぱい》さ」
 と武居は言って、「——これがどういう結《けつ》果《か》を招《まね》くか分るだろう」
 と、亜由美の顔を見た。
 「奥《おく》さんのノイローゼ」
 「そう。いや、ノイローゼだったのは、ほんの一年くらいでね。夫が『仕事』という好《す》きなことをしてるのなら、私も好きなことをします、というわけで、遊び狂《くる》ったんだ」
 「というと……」
 「初めの内は、旅行、買物くらいだったのが、その内、お定まりのコースで……」
 「男ですか」
 「まあ同《どう》情《じよう》すべき余《よ》地《ち》もあるけどね、あのご主人では。——いや、増口さんは、そりゃ経《けい》営《えい》者《しや》としては一流だよ。しかし、夫としてはね」
 「で、家を放ったらかしっていうわけですね」
 「むしろ、たまに家へ帰って来るんじゃないかな」
 「分りました」
 と亜由美は肯《うなず》いた。「つまり、ご両親のどっちも、めったに娘《むすめ》の淑子さんと顔を合せなかったというわけですね」
 「そうなんだ。普通の家庭では、とても考えられないことだがね」
 「じゃ、たとえば入れ替《かわ》っても分らないとか——」
 「それはどうかな。可《か》能《のう》性《せい》として、ないことはない。しかし、現《げん》実《じつ》には、大勢使用人もいて、毎日淑子さんの顔を見てるわけだからね。そう簡《かん》単《たん》にはいくまい」
 「それに、そんなに淑子さんと似《に》た人を見付け出すのが大変でしょう。美人ですものね」
 「それに、目的だ。なぜそんなことをする必要があるのか」
 「財《ざい》産《さん》とか……」
 「相続となれば色々大変だよ。それに増口さんは奥さんも元気で、死にそうもないからねえ」
 「じゃ、やっぱり怪《かい》電《でん》話《わ》はただのいたずらで——」
 「その可能性は強い。しかし、ごくわずかだが、そうでない可能性もあるということだ」
 亜由美は、ちょっと考え込んでから、言った。
 「武居さん。殺された桜井みどりさんと会って話をしたことはありません?」
 「僕《ぼく》が? いいや」
 武居は目を見開いて、「どうしてそんなことを?」
 と訊《き》き返して来た。
 「いえ……。彼女《かのじよ》が、ちょっと武居さんを知っているようなことを言ったんで」
 「それは妙《みよう》だね。——僕は全然知らないよ」
 武居はワイングラスを取り上げた。そのグラスは空だった。そのあわてた様子は、何となく武居に似《に》合《あ》わない、と亜由美は思った。
 「おい、武居じゃないか」
 と声がかかった。同《どう》年《ねん》輩《ぱい》の、やはりサラリーマンらしい男が、店へ入って来たところだった。
 「何だ、またお前か」
 武居は、ちょっと顔をしかめた。
 「よく会うな。ええ?」
 少しアルコールの入っているらしい、その男は愉《ゆ》快《かい》そうに、「相変らず来てるね。今度はまたこの間と違《ちが》う子じゃないか」
 「そんなんじゃないんだ」
 「隠《かく》すなよ。——お嬢《じよう》さん、気を付けなさいよ。こいつは若《わか》い娘《むすめ》が趣《しゆ》味《み》だからね」
 「おい——」
 と武居が少し気《け》色《しき》ばむ。
 「冗《じよう》談《だん》だよ。じゃ、また会おうぜ」
 と、奥《おく》の席へと歩いて行く。
 「お友達ですか」
 と、亜由美は言った。
 「大学時代の悪友でね。——出ましょうか」
 武居は立ち上った。
 何だかあわてている、と亜由美は思った。
 武居がカードで支《し》払《はら》いを済《す》ませている間に、亜由美は店の表に出た。
 この間と違う子、とあの男の人は言った。武居は、同じくらいの年《ねん》齢《れい》の娘を連れて来ていたのだろうか。
 もしかして——桜井みどりとか……。
 「やあ、待たせたね」
 武居が出て来た。
 「ごちそうになりまして」
 「いや、そんなこといいんだ。——どう、ちょっと一《いつ》杯《ぱい》やっていかないか?」
 「でも、もう帰らないと……」
 「ちゃんと車で送るから。三十分だけ。いいだろう?」
 誘《さそ》い方は巧《たく》みで、強《ごう》引《いん》に思えぬ強引さだった。断《ことわ》る余《よ》裕《ゆう》を与《あた》えない、というのであろうか。
 「タクシーを拾おう」
 と、武居が道の端《はし》に立った。そのとき、大きな外車が、どこから走って来たのか、武居の前に停《とま》った。
 「社長!」
 武居が声を上げた。
 車の後ろの窓《まど》から顔を出しているのは増口だった。
 「用がある、乗れ」
 と、増口が言った。
 「はい」
 否《いや》応《おう》なしに、武居がドアを開けて乗り込《こ》む。
 「じゃ、私、これで……」
 と、亜由美が言いかけると、
 「君もだ」
 と、増口が遮《さえぎ》った。
 「私ですか?」
 「君にも用がある。乗ってくれ」
 運転手が出て来て、ドアを開けてくれる。こうなっては、しかたない。亜由美は意を決して、その外車に乗り込んだ。
 「どこへ行くんですか?」
 と、亜由美が言った。
 「私の家だ。家の一つ、というところかな」
 増口は、ちょっと愉《ゆ》快《かい》そうに言った。
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