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忙しい花嫁15

时间: 2018-08-19    进入日语论坛
核心提示:聡子の推《すい》理《り》 「全くもう、人を馬《ば》鹿《か》にしてるわ!」 聡子はプンプンである。 「そう怒《おこ》らない
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聡子の推《すい》理《り》
 
 「全くもう、人を馬《ば》鹿《か》にしてるわ!」
 聡子はプンプンである。
 「そう怒《おこ》らないの。犬なんだから」
 「それにしたって……。ドン・ファンとはよくつけたもんね」
 当のドン・ファンは涼《すず》しい顔で、寝《ね》そべっていた。
 「聡子、あなたは何してたの、こんな暗い所で?」
 「亜由美が来るのが遅《おそ》いんだもの、昼《ひる》寝《ね》してたのよ」
 「こんな夕方に?」
 「疲《つか》れたから横になってたの、その椅《い》子《す》並《なら》べて。そしたら、いつの間にか眠《ねむ》っちゃってたわけ」
 「呑《のん》気《き》ねえ。——ま、遅《おく》れたのは悪い。で、何の話なの?」
 「あ、そうだった。忘《わす》れてたわ」
 大体が太目、大《おお》柄《がら》な聡子である。見かけ通りに大らかで呑気なのだ。
 「桜井さんが殺されたときのことで、何か気が付いたって言ったじゃない」
 「それくらい憶《おぼ》えてるわよ!——あのね、この前色々話したでしょ、ここから廊《ろう》下《か》を見てれば誰《だれ》もあの部屋へ入れなかったはずだって」
 「うん」
 「それに絶《ぜつ》対《たい》間《ま》違《ちが》いないと思うの。だから、桜井さんは、私たちが行く直前に殺されたんじゃないかと思うのね」
 「直前って言っても、私たち、階《かい》段《だん》で会って、そのまま上って行ったのよ」
 「だからさ、犯《はん》人《にん》が私たちの中にいるとしたら? それしか考えられないじゃない!」
 「……私たち?」
 亜由美はポカンとして、「つまり——私と聡子のこと?」
 「いやあね、どうして私が桜井さん殺さなきゃなんないの?」
 「じゃ、誰《だれ》のこと、『私たち』って?」
 「この部屋にいた連中よ。社会科学部のメンバー」
 亜由美は目をパチクリさせた。
 「聡子! 大《だい》胆《たん》なこと言うわねえ」
 「論《ろん》理《り》的《てき》帰《き》結《けつ》よ」
 と、言い慣《な》れない言葉に舌《した》をもつれさせながら、
 「つまり、ここにいた連中には、桜井さんが誰《だれ》かを待ってることが分ってたはずでしょ。それを見て、桜井さんがあなたと会ったらまずいと思ったかもしれない」
 「でも、どうやって殺すの?」
 と、亜由美が言った。「誰も席を立たなかったって、あなた言ったじゃないの」
 「そうよ。だけど、帰《ヽ》り《ヽ》際《ヽ》にならできるんじゃない?」
 「帰り際《ぎわ》——」
 「ね、みんなゾロゾロとここを出る。階《かい》段《だん》を降《お》りて行くでしょ。そのとき、わざと少し遅《おく》れて部屋を出て、歴史部の部屋まで走り、桜井さんを刺《さ》して、また階段へと駆《か》け戻《もど》る。みんなノロノロ降りてるもの。追いつけると思うわ」
 亜由美はしばらく考え込《こ》んだ。——確《たし》かに、かなり離《はな》れ技《わざ》ではあるが、不《ふ》可《か》能《のう》ではなさそうだ。
 「どうかしら?」
 と、聡子は目を輝《かがや》かせている。
 殺《さつ》人《じん》事《じ》件《けん》が楽《たの》しくて仕方ない、などと言っては叱《しか》られそうだが、何しろ好《こう》奇《き》心《しん》の強い年代なのである。
 「一つ、やってみようか?」
 と、聡子が言った。
 「そうね」
 亜由美は肯《うなず》いた。「じゃ、私の方が身軽だから、犯《はん》人《にん》の役をやってみる」
 「何よ、私がよっぽど重たいみたいじゃないの」
 と、聡子はちょっとむくれて、「ま、軽《ヽ》い《ヽ》とは言いませんけどね」
 「文《もん》句《く》言わないで。ね?——じゃ、あなたが先に出る。私はその後。あなたが階《かい》段《だん》を降《お》り始めたら、走るわ」
 「OK。おしゃべりしながらだから、かなりゆっくりよ」
 「じゃ、いい?——出て」
 聡子がヨッコラショという感じで廊《ろう》下《か》へ出て、階段を降り始める。亜由美は一気に歴史部の部屋へと走った。ドアを開け、衝《つい》立《たて》を回って、桜井みどりの立っていた窓《まど》際《ぎわ》に行き、すぐに引き返した。廊下へ出て、階段へと走る。
 聡子はもう二階に着いていた。
 「——だめだ。こんなに早くできないわよ」
 息を弾《はず》ませながら、亜由美は言った。
 「そうかなあ。亜由美、動作が鈍《にぶ》いんじゃない?」
 「失礼ね! だって、考えてみなさいよ、桜井さんを刺《さ》して、そのまますぐ戻《もど》ってこれる?」
 「待って!」
 と聡子は言った。「ね、亜由美と会ったの、この辺だっけ?」
 「ええと——私は二階から三階へ上りかけてたわ」
 「そうよ! そしてここでちょっと立ち話して、あなたが上りかけた」
 「それを聡子が呼《よ》び止めて追いかけて来たわ」
 「それなら時間はあったかもしれないわよ。私たち、しゃべりながら三階へ上ったでしょ。入れかわりに降りて来る人がいても、気が付かなかったんじゃない?」
 「気が付いたわよ、きっと」
 「でも、社会科学部の人なら、降りて来て当り前だもの」
 「じゃ……聡子憶《おぼ》えてる?」
 「分んないわ」
 と聡子は首を振《ふ》った。「でも一人だけ、誰《だれ》かが遅《おく》れて来たのよ。きっとそうだわ」
 亜由美は考え込《こ》んだ。確《たし》かに、聡子の言う通りかもしれない。それ以外に可《か》能《のう》性《せい》はないだろうか?
 「——でも、聡子が言う通りだとすると、犯人が社会科学部の人間だってことよ」  「それらしき人、いるの?」
 「さあ、分んないけど、別に犯《はん》人《にん》になっていけないってこともないでしょ」
 「聡子も凄《すご》いこと言うわね、割《わり》と」
 亜由美は苦笑した。「もし本当だったら、大変じゃないの」
 「でも他に考えられないじゃないの」
 「ウーン」
 亜由美は考え込んだ。「——で、これからどうするの?」
 聡子は肩《かた》をすくめた。
 「そこまで考えてないわ」
 「じゃ、こうしましょう。まだ、今、この考えを警《けい》察《さつ》へ話すのは早すぎるって気がするの」
 「そうね」
 「あのとき、一《いつ》緒《しよ》にいた人たち——社会科学部のメンバーの名前、書いてみてくれる?」
 「いいわよ。それをどうするの?」
 「さあ、どうしようかしら。ともかく、私に任《まか》せて。何か考えるから」
 「了《りよう》解《かい》」
 聡子は社会科学部の部屋に戻《もど》ると、メモ用紙に、名前と学年を書きつけた。
 「——これで誰《だれ》も落ちてないと思うわ」
 「じゃ、もらっとくわ。聡子、帰らないの?」
 「私、ちょっとやらなきゃいけないことがあるの。明日までに会合の資《し》料《りよう》作んないと」
 「じゃ、先に帰るわよ」
 「どうぞ」
 「——ほら、ドン・ファン、行くわよ」
 と、亜由美が呼《よ》びかけると、床《ゆか》に寝《ね》そべっていたドン・ファンが、大きな欠伸《あくび》をしながら、立ち上った。
 「ねえ、これが助手で大丈夫なの?」
 と、聡子が笑《わら》いながら言った。
 亜由美がドン・ファンを連れて行くと、聡子もつられたのか、大欠伸をした。
 「やあだ……」
 と、呟《つぶや》いて、「さて、やっちまわないと……」
 と、雑《ざつ》然《ぜん》としている机《つくえ》に向った。
 「この資料の……こことここ……。これはコピーを付ける、と。この次には……これが来るのか?」
 階《かい》段《だん》を、亜由美の足音が遠ざかって行く。ドアが、少し開いたままになっていた。
 聡子はあまり器用な方ではない。せっせと切《き》り貼《ば》りしているのだが、巧《うま》く切れなかったり、貼ったのが歪《ゆが》んだり、なかなか巧くできないのである。
 「苛《いら》々《いら》しちゃうな、もう!」
 と、グチった。
 ドアがキーッと鳴った。ちょうど、微《び》妙《みよう》な貼《は》りつけ作業中だった聡子は、振《ふ》り向かずに、
 「亜由美なの?」
 と訊《き》いた。
 返事はなかった。ドアが閉《し》まった。聡子が振り向くと同時に、明りが消えて、部屋の中は、真っ暗になった。
 「誰《だれ》?……誰なのよ?」
 聡子は声をかけた。「いたずらするの、やめてよ。——ねえ、誰なの?」
 ゴトン、と音がした。椅《い》子《す》が動いた音だ。そして、引きずるような足音が近付いて来る。
 聡子は、全身から血が失われていくような気がした。——誰《だれ》かが襲《おそ》おうとしている。
 落ち着いて、落ち着いて。
 一対一なんだからね。聡子は、机《つくえ》の上を手で探《さぐ》った。ハサミが触《ふ》れる。聡子はそれを握《にぎ》りしめた。
 コトン、とまた何かにぶつかった音。相手は、少しずつ近付いて来ている。
 逃《に》げなきゃ、と思った。このままここにいては、やられてしまう。
 こっちも見えないが、向うだって見えないはずだ。——そうだ、部屋の中の様子なら、こっちの方が詳《くわ》しい。
 聡子は、そっと横へ動いた。テーブルにぶつかるはずだ。——よし、これだ。
 これを引っくり返せば、かなり凄《すご》い音がする。向うも混《こん》乱《らん》するはずだ。
 ドアは真正面のはずである。左手の壁《かべ》に沿《そ》って行けば、着ける。
 聡子はテーブルの端《はし》に手をかけた。
 
 亜由美は、すっかり暗くなった大学の構《こう》内《ない》を歩いていた。
 「早くおいで、ドン・ファン」
 と振《ふ》り向く。
 何しろ、ドン・ファンがいつにも増《ま》して、のんびりペースでやって来るのである。
 「何やってるの?」
 ドン・ファンは、じっと立ち止って、今出て来た棟《むね》の方を振《ふ》り向いている。
 「——どうしたの?」
 と、亜由美が戻《もど》って行くと、やおらドン・ファンが今来た方へと走り出した。亜由美はびっくりして、
 「こら! ドン・ファン!」
 と駆《か》け出した。「どこに行くのよ!——待ちなさい!」
 あの犬、聡子のスカートの中が忘《わす》れられないのかしら、と思った。
 「待って!——ドン・ファン!」
 いかに短足のドン・ファンでも、本気になって駆けると、かなり早い。亜由美はフウフウ息を切らして、足を緩《ゆる》めると、
 「勝手にしなさい!」
 と怒《ど》鳴《な》る。
 ドン・ファンが、クラブの棟《とう》の前に着くと、振《ふ》り向いて、ワンワンと吠《ほ》え立てた。
 「何なのよ?」
 と、歩いて来て、亜由美は言った。「何か忘れもの?」
 そのとき、ドシン、と何かが倒《たお》れる音がして、
 「キャーッ!」
 と悲鳴が響《ひび》き渡《わた》った。
 「聡子だわ! おいで!」
 亜由美も夢《む》中《ちゆう》で階《かい》段《だん》を駆け上った。もちろんドン・ファンも続いたが、とても亜由美と一《いつ》緒《しよ》には上れない。
 「聡子!——聡子!」
 亜由美が社会科学部のドアを開けると、廊《ろう》下《か》の光が射《さ》し込《こ》んで、聡子が、ひっくり返った机《つくえ》や椅《い》子《す》の間に倒れているのが目に入った。
 「聡子——」
 と足を踏《ふ》み入れたとたん、亜由美は後頭部を一《いち》撃《げき》されて、そのまま闇《やみ》の中へ放り出されてしまった。
  ——何やら、冷たいタオルで顔をこすられているような感じがして、亜由美は目を開いた。目の前にドン・ファンの顔がある。
 「——あんたがなめてたの?」
 と言いながら、体を起こそうとすると、頭がズキッと痛《いた》んで、あ、と顔をしかめる。
 どうなったんだろう? ここは?
 周囲は暗かった。そして廊《ろう》下《か》の光が洩《も》れて来る。
 そうだ。ここは社会科学部の部室で……聡子が……。
 「聡子!」
 亜由美は、痛む頭をかかえつつ、立ち上ると、ドアの方へよろけながら歩いて行き、明りをつけた。
 聡子が、床《ゆか》に倒《たお》れている。駆《か》け寄《よ》ると、額から血が一《ひと》筋《すじ》、顎《あご》へ流れ落ちていた。
 「聡子! しっかりして!」
 亜由美が抱《だ》き起こすと、聡子はウーン、と呻《うめ》いた。
 「生きてるんだわ! 良かった!」
 亜由美もかなりあわてていた。
 「ドン・ファン、早く救《きゆう》急《きゆう》車《しや》を呼《よ》んで!」
 と叫《さけ》んでいたのである。
 「——そうなの。私もちょっとけがしてね」
 と、電話で亜由美が言うと、母親の方は、
 「あら、入院?」
 と訊《き》き返して来た。
 「ううん、そんな大けがじゃない。簡《かん》単《たん》に手当すればいいみたい」
 「じゃ、今夜、帰るのね?」
 「分んないわ。聡子の具合次第。もうしばらくは病院にいる」
 「分ったわ。今夜、出かけようと思ってたから。そういうことなら、しばらく帰らないわね。じゃ、お友達に家へ来ていただきましょ」
 呑《のん》気《き》なことを言っている母親にムッとして、
 「娘《むすめ》がけがしたんだから、少し心配しなさいよ」
 と文句を言った。
 「だって、けがは顔じゃないんだろ? それなら、お見合いには差《さ》し支《つか》えないから」
 ——母の発想にはついて行けない。
 亜由美が電話を切って、聡子の病室の方へ戻《もど》って行くと、見たことのある男が、医者としゃべっていた。
 「殿永さん!」
 「やあ、災《さい》難《なん》でしたね」
 殿永部《ぶ》長《ちよう》刑《けい》事《じ》は、いつもと変らぬ微《び》笑《しよう》を浮《う》かべている。
 「よく分りましたね!」
 「あの大学でまた事《じ》件《けん》、というのが耳に入ったんです。けがしたとか?」
 「殴《なぐ》られたんです、頭を」
 「災難でしたねえ」
 「私より聡子の方が心配です」
 「ああ、今、医者と話しました。命に別《べつ》状《じよう》はないそうですよ」
 「よかったわ!」
 亜由美は胸《むね》を撫《な》でおろした。
 「強く頭を打ってるそうですが、レントゲンの結《けつ》果《か》、ひびも入っていないということです。他にも特《とく》に後《こう》遺《い》症《しよう》は出ないだろうという話でしたよ」
 「聡子、石頭だから。良かったわ、でも」
 「一体何があったんです?」
 と、殿永が訊《き》いた。
 亜由美は、ちょっと迷《まよ》ったが、しかし、誰《だれ》かが聡子を襲《おそ》ったことは間《ま》違《ちが》いないのだ。特に、亜由美が社会科学部の部室を出てすぐにそれが起っている。
 つまり聡子を襲った人間は、亜由美と聡子の話を聞いていたのだろう。そして聡子が一人になったとき、襲いかかった……。
 それは、聡子の言った推《すい》理《り》が正しいということではないだろうか。——断《だん》言《げん》できないまでも、少なくともその可《か》能《のう》性《せい》はある。
 「実は、私たち、桜井さんが殺された事件について、ちょっと考えがあって——」  殿永は興《きよう》味《み》を示《しめ》した。
 亜由美は、聡子の説明を、そのまま殿永を相手にくり返した。
 「——もちろん、いずれにしても、かなりギリギリの離《はな》れ技《わざ》なんですけど、でもやってみるとできないこともないみたいなんです」
 「しかし、危《あぶ》ないですねえ」
 と殿永は苦《く》笑《しよう》しながら言った。「あなた方も、まあ軽いけがだから良かったようなものの、これが命でも落としたら、私が責《せき》任《にん》を感じますからね。何かやろうと思ったら、ぜひ私に知らせて下さい」
 「はあ……」
 そう言われると、亜由美としても、一言もない。しかも、実《じつ》際《さい》には、もっと危《あぶ》ないことをやっているのだから。
 「その、社会科学部のメンバーのメモはお持ちですか?」
 「ええ。——これです」
 殿永はメモを受け取ると、
 「預《あず》かっておきましょう」
 とポケットへ入れて、「ああ、田村さんという方が、見付かったそうですね」
 「ええ、そうらしいです。良かったわ、本当に」
 「三、四日の内には帰国するでしょう。となれば、今度の事《じ》件《けん》の真相も、明らかになるかもしれません」
 「そうですね。そうなってくれるとありがたいんだけど……」
 と、亜由美は、独《ひと》り言のように呟《つぶや》いた。
 「お宅《たく》までパトカーで送らせましょうか?」
 と殿永が言った。
 「あ——いえ、私、もう少し聡子のそばについています」
 「意《い》識《しき》が戻《もど》ったら、事《じ》情《じよう》を訊《き》きに来ます」
 「はい。あ、そうだわ。あの——」
 「何ですか?」
 「犬を一《いつ》匹《ぴき》、家へ連れてっていただけません?」
 殿永が目を丸《まる》くした。
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