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忙しい花嫁21

时间: 2018-08-19    进入日语论坛
核心提示:掘《ほ》り出された秘《ひ》密《みつ》   「一人かい?」 玄《げん》関《かん》のドアを開けると、有賀が立っていた。 「え
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 掘《ほ》り出された秘《ひ》密《みつ》
 
   「一人かい?」
 玄《げん》関《かん》のドアを開けると、有賀が立っていた。
 「ええ。入って」
 と、亜由美は言った。「——ちょうど良かったわ。誰《だれ》かと話したかったの」
 「何だ、それじゃ誰でも良かったみたいじゃないか」
 と、有賀は笑《わら》って言った。
 居《い》間《ま》へ入ると、ドン・ファンが長々とソファの中央を占《せん》領《りよう》している。
 「何だ、このワン公、まだここに居《い》座《すわ》っているのか?」  「アルコールはまずい。今、絶《た》ってるんだ」
 「へえ。飲み過《す》ぎて暴《あば》れたの?」
 「よせやい。来週、山に行くからさ」
 「あら、まだ山登りなんてやってるの?」
 「見くびるなよ。こう見えたって——大したことはないんだぞ」
 「変な自《じ》慢《まん》ね」
 と、亜由美は笑った。「じゃ、紅《こう》茶《ちや》でもいれるわ」
 有賀と話していると、それだけで何となく気が晴れるのだ。こういうボーイフレンドも貴《き》重《ちよう》である。
 「——田村さん、まだ退《たい》院《いん》できないのかな」
 と、紅茶をすすりながら、有賀は言った。
 「もう大分元気になったようね。でも難《むずか》しいところじゃない? 増口さんのところで働くことになっていたのに、淑子さんが行方不明じゃね」
 「彼女《かのじよ》の行方も分らないのか」
 「そうらしいわね」
 「週《しゆう》刊《かん》誌《し》あたりじゃ、随《ずい》分《ぶん》騒《さわ》いでるな。彼女の出生の秘《ひ》密《みつ》とか言って」
 「いやね、あんな記事。——あの環《かん》境《きよう》については、私、淑子さんに同《どう》情《じよう》するわ」
 「逃《に》げているのが偽《にせ》物《もの》だとしたら、本物の淑子さんは殺されているのかな」
 「そうね。——これだけ騒がれてるんだもの。生きていれば出て来るでしょう」
 「もう週刊誌の連中は来ない?」
 「ええ。でも昨日、何だか電話があったみたい。お母さんが出たんで、向うは早々に切っちゃったようよ」
 「君のお母さん、変ってるものな」
 「私も年取ったら、ああなるのかな、と思うと心配よ」
 ドン・ファンが、亜由美の膝《ひざ》の上に来て、クンクンと鼻を鳴らした。
 「何なの?——あ、そうか。ごめん、お前の紅《こう》茶《ちや》、忘《わす》れてたわ」
 仕方なく、亜由美は、まだ飲み始めたばかりの紅茶を、ドン・ファンの皿《さら》へあけてやった。ドン・ファンがペチャペチャと音をたてて飲み始める。
 「我が家は犬まで変ってる」
 と亜由美は言って笑《わら》った。
 電話が鳴って、亜由美は、
 「きっとお母さんよ」
 と言いながら、受話器を上げた。「はい、塚川です」
 「あの、私、邦代ですけど」
 あの別《べつ》荘《そう》の、手伝いの娘《むすめ》である。
 「あら、何か?」
 「実は、ちょっと妙《みよう》な物を見付けたんです」
 「妙な物って?」
 「あの——別荘へ来ていただけません?」
 亜由美はちょっと迷《まよ》ってから、
 「ええ、いいわ」
 と言った。「でも、今から行くと夜になるわね」
 「どうせ私、今一人なんです」
 「あら、もう一人の方は?」
 「他の別《べつ》荘《そう》へ移《うつ》っちゃって。ここはどうせ当分使わないでしょう?」
 「それもそうね。分ったわ。これから行く。それじゃ」
 「あの——」
 と邦代があわて気味に言った。「この間のことはすみませんでした」
 「この間のこと?」
 「武居さんから、お嬢《じよう》さんのことを黙《だま》っててくれって、お金までいただいたのに……」
 「ああ、あのことね。いいわよ。どうせ分ることだったんだもの」
 「そうですか」
 と、邦代はホッとした様子で言った。
 「それじゃ、今度もいくらかいただけます?」
 亜由美は、つい笑《わら》い出しそうになった。チャッカリ屋だが、どこか憎《にく》めない相手なのである。
 電話を切ると、亜由美は有賀に、
 「——こんなわけ。一《いつ》緒《しよ》に行ってくれる?」
 と訊《き》いた。
 「どうせそのつもりだろ?」
 「もちろんよ。だって私、道が分んないんだもの」
 と亜由美が澄《す》まして言った。
 ドン・ファンがクゥーンと鼻を鳴らして、亜由美の足に体をこすりつけて来る。
 「あ、分ったわよ。お前も行くのね」
 「じゃ車をどうにかしなきゃ」
 「借りられる?」
 「誰《だれ》か貸《か》してくれると思うぜ。——二十分待ってろ。都合つけて来る」
 有賀は急いで飛び出して行った。
 
 実《じつ》際《さい》には十五分で、有賀は戻《もど》って来た。
 「ちょっと中古だけど、まあいいだろう。乗れよ」
 と、亜由美とドン・ファンを乗せて、いささか息切れのしそうな〈老車(?)〉はガタゴトと走り出した。
 あまりスピードが出ないので、ちょっと時間はかかったが、それでも何とか別《べつ》荘《そう》へ辿《たど》り着く。——もうすっかり陽《ひ》は落ちて、闇《やみ》が周囲を包んでいた。
 「邦代さん!——邦代さん!」
 と、亜由美は呼《よ》んだ。
 玄《げん》関《かん》のチャイムを鳴らしてみたが、一向に出て来る気配はない。
 「——開いてるわ。入りましょう」
 「どこにいるのかな」
 「ちょっと気味悪いわね」
 中は、明りが点《つ》いているが、物音はしない。
 「邦代さん!——塚川亜由美よ!」
 と、声を上げる。
 「探《さが》してみようか?」
 「こんな広い所を? きっと戻《もど》って来るわよ」
 「でも、開けっ放しで出て行くかい?」
 「それはそうね……」
 亜由美は、不安な思いで、周囲を見回した。——突《とつ》然《ぜん》、玄関のドアがガタッと音をたてて開いて、亜由美たちは飛び上りそうになった。
 「あら、いらしてたんですか、すみません」
 と、邦代が、何やら大きな包みをかかえて入って来る。
 「ああ、びっくりした」
 亜由美は胸《むね》を撫《な》でおろした。「一体何事なの?」
 「これなんです。居《い》間《ま》の方で広げましょう」
 と、邦代が、ひとかかえもある大きな包みを、居間の方へ運んで行く。
 「僕が持つよ」
 と、有賀がナイトぶりを発《はつ》揮《き》しようとした。
 「すみません」
 手《て》渡《わた》そうとしたとたん、包みが解《と》けて、中身がドッと床《ゆか》へ落ちた。——服だ。女物の、ワンピースやブラウス、スーツなどである。
 「洋服ね」
 と、亜由美がその一つを取り上げた。
 「あ、こら、ドン・ファン!」
 ドン・ファンが、床に山となっている服の中へ首を突《つ》っ込《こ》んで、キャンキャンと甲《かん》高《だか》く吠《ほ》え始めたのだ。尻尾《しつぽ》を振《ふ》り、中をかき回すので、服が四方八方へ飛び散った。
 「こら! ドン・ファン、やめなさい!」
 やっとの思いで、ドン・ファンをかかえ上げる。
 「——この服はどこで見付けたの?」
 「林の中です」
 「林の?」
 「ええ」
 と、邦代は肯《うなず》いた。「埋《う》めてあったんです。——私、昼間、ゴミをどこかへ埋めようと思って、林の中へ入ったんです。そしたら、何かこう、掘《ほ》り起して、また土をならしたようなあとがあって、何だろう、と思って掘り返してみたんです。そしたら、これが」
 「埋めてあったのね」
 「もう一つあります。居《い》間《ま》に置いてありますけど」
 「この包みが二つ?」
 「それ、もしかしたら、いなくなった淑子さんのじゃないのか」
 と、有賀が言った。
 「そうらしいわ。邦代さん、服に見覚えはない?」
 「あります。間《ま》違《ちが》いありませんわ」
 居間へ、服を全部運び込《こ》むと、もう一つの包みを解いて、ソファに並《なら》べてみた。かなりの量である。
 「——じゃ、持ち出して、すぐ近くに埋《う》めたんだな」
 と有賀が言った。
 「どうしてそんな面《めん》倒《どう》なことしたのかしら?」
 亜由美は手近な服を取り上げてみた。ドン・ファンが相変らず服の匂《にお》いをかいでは吠《ほ》えている。
 「ドン・ファンが、匂いを憶《おぼ》えてるってことは、きっとこれは本当に淑子さんの服だったのよ」
 と、亜由美は言った。
 「だから、偽《にせ》物《もの》には合わなかったんだな」
 「でも、ちょっと変ね」
 「何が?」
 「持ち出したりすれば、偽物だって言ってるようなもんだし、それに、そんなすぐ近くに埋めるなんて……どこか遠くへ行って捨てるか燃《も》やすかすればいいじゃないの」
 「そりゃそうだな。でも、犯《はん》人《にん》なんて、やっぱりあわててんだよ。だから冷静に判《はん》断《だん》できないのさ」
 「そうね、たぶん」
 と、亜由美は肯《うなず》いた。「ともかく、殿永さんに知らせなきゃ」
 「あ、この服だわ」
 と、邦代が、赤のワンピースを取り上げて、
 「これがほしかったんだ!——ねえ、この服、全部警《けい》察《さつ》で持ってっちゃうんですか?」
 「たぶん、そうでしょうね」
 「一枚《まい》ぐらいくれないかしら」
 邦代は残念そうに言って、その服を体にあてている。亜由美は微《ほほ》笑《え》みながら、
 「じゃ、殿永さんに訊《き》いてあげるわ。後でもらえるかどうか。電話借りるわね」
 亜由美は殿永へ電話を入れた。
 「もしもし、塚川です。殿永さん——」
 「今、どこです?」
 殿永の声は、いつになく緊《きん》張《ちよう》している。
 「あの——別《べつ》荘《そう》です。増口さんの。実は服が——」
 「病院に彼女《かのじよ》が現《あらわ》れたんですよ」
 「彼女って——」
 「淑子です。いや、偽《にせ》物《もの》かもしれませんが」
 「どこの病院ですか?」
 「田村さんのですよ。今から急行するところです」
 「私もすぐ行きます!」
 亜由美は電話を切ると、「有賀君、車!」
 と叫《さけ》んで、ドン・ファンをかかえ上げた。
 「どこに行くの?」
 「後で説明するわ。急いで!——邦代さんまた連《れん》絡《らく》するから、これは大事に取っておいてね」
 「ええ、でも……」
 と、邦代は何やら首をひねっている。
 玄《げん》関《かん》の方へ急ぎながら、亜由美は、邦代が呟《つぶや》くのを聞いた。
 「おかしいなあ……」
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