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冒険入りタイム・カプセル12

时间: 2018-08-19    进入日语论坛
核心提示:12 探 険 「それで、どうしたんだい?」 と、朝也が訊《き》いた。 しかし、倫子の方は、素知らぬ顔で、コーヒーなど飲ん
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  12 探 険
 
 「それで、どうしたんだい?」
 
 と、朝也が訊《き》いた。
 
 しかし、倫子の方は、素知らぬ顔で、コーヒーなど飲んでいる。
 
 「ねえ、それから——」
 
 「いいお天気ねえ、今日は」
 
 と、倫子は窓の外に目をやった。
 
 朝也はため息をついた。
 
 「僕がゆうべ眠っちまったからって、そう意地悪しなくてもいいじゃないか」
 
 「あら、だって、大して興味がないんだと思ったの」
 
 そこへ光江が、
 
 「倫子さん」
 
 と、声をかけて来た。「小池さんをいじめるのはいい加減になさい」
 
 「いいのよ、遊んでるんだから」
 
 「だって、気の毒じゃないの」
 
 「そう。気の毒だよ」
 
 と、当の朝也が大真面目に言ったので、倫子は、笑い出してしまった。
 
 「結局、何も見付からなかったのよ」
 
 「なんだ、そうだったのか」
 
 ——倫子と朝也、それに羽佐間夫婦が、遅《おそ》い朝食を取っている。
 
 あの「トンネル」の捜索を終えたときは、もう、空が白みかけていたのである。
 
 「——食事、終ったら、行ってみようか?」
 
 と倫子が言った。
 
 「あの穴に?」
 
 「トンネルよ」
 
 「OK。じゃ、早速——」
 
 「レディが食事を終えるまで、待っててちょうだい」
 
 悠《ゆう》々《ゆう》と、倫子はパンにバターをつけた。
 
 「——あなたはお出かけ?」
 
 と、光江が羽佐間に訊いた。
 
 「いよいよ、あさってだからな」
 
 と、羽佐間が肯く。「色々、段取りをつけておかんと……」
 
 あさって。——そう。あさって、問題の「タイム・カプセル」が掘《ほ》り出される。
 
 高津智子殺しの、何か重要な手がかりが、そこに納められているのだろうか?
 
 「——しかし、三十年後になって、まだ、見付かっちゃまずいものって、何だろう?」
 
 と、ホテルの外へ出て、朝也が言った。
 
 「そうね。——たぶん——」
 
 「凶《きよう》器《き》?」
 
 「持主がはっきり分るような、ね」
 
 「でも、それならどうして石山さんを殺したりしたんだろう? どっちにしたって、カプセルを掘り出せば、分っちまうことじゃないか」
 
 倫子は肩をすくめた。
 
 「ここへ誰も来させないようにするつもりだったのかもしれないわ」
 
 「恐《おそ》ろしくて? でも、それなら、もっとはっきり、そう分るようにするんじゃないか?」
 
 「どうやって?」
 
 と、倫子は訊《き》いた。
 
 「そりゃあ——脅《きよう》迫《はく》状《じよう》を送るとか、色々あるじゃないか」
 
 「そうねえ」
 
 ——朝也の言うことにも一理ある、と倫子は思った。
 
 しかし、却《かえ》って、忘れているかもしれない人間に——三十年もたてば、人間、忙《いそが》しさに紛《まぎ》れてしまうものだ——タイム・カプセルのことを思い出させる危険もあろう。
 
 「——あ、こっちよ」
 
 と、倫子が、また林の中へ入って行く。
 
 昨日《きのう》の穴は、そのままになっていた。
 
 警官が一人、退《たい》屈《くつ》そうに穴のそばに座っていた。
 
 「おはようございます」
 
 と、倫子が声をかけると、警官も、
 
 「ゆうべはご苦労さま」
 
 と、にこやかに応じた。
 
 「ちょっと中へ入っていいですか?」
 
 「ええ。じゃ、そのライトを持って行って下さい」
 
 「はい。どうも」
 
 倫子は、ライトを朝也に持たせて、先に穴を降りて行った。
 
 初めて入ったときのスリルは、もうないけれど、こんな「秘密の通路」があるというだけで、倫子は興奮して来るのだった。
 
 「へえ、結構深いんだな」
 
 と、朝也が感心したように言った。
 
 「——さあ、下よ。ここから横穴——というより、通路ね」
 
 広い——といっても、人一人通るには充分という意味だが——通路を、二人はゆっくりと進んで行く。
 
 「長いね」
 
 と、朝也はまた感心の様子。「一体、どうしてこんなものがあるんだろう?」
 
 「分んないわ。そう新しいものでもないらしいけど……。三十年も前からあったとも思えないわね」
 
 「どこへ出るの?」
 
 「ついてらっしゃい」
 
 と、倫子は歩いて行った。
 
 やがて、トンネルの奥に、白く光が見えて来る。
 
 「あれが出口よ」
 
 「どこなんだい?」
 
 「山の中。ちょっと見ても分らないように、少し上向き加減になってるのよ」
 
 「なるほど。上りになってるね」
 
 「よく考えて作ってあるってことだわ」
 
 「こんなもの、そう簡単には、作れないだろう」
 
 「梅川さんが調べてるはずよ。誰《だれ》が、何のために作ったのか、ね」
 
 二人は、ライトを消し、出口を、半《なか》ば覆《おお》っている草や木の葉を押《お》しのけて、外に出て行った。
 
 「キャッ!」
 
 と、倫子が声を上げた。
 
 「ど、どうした?」
 
 と訊《き》いた朝也も、びっくりした。
 
 目の前に誰かが立っていたのだ。いや——知らない顔ではなかった。
 
 「こんにちは」
 
 と、中山久仁子は言った。
 
 ホテルにいるピアニストである。
 
 「——ああ、びっくりした!」
 
 と、倫子は言った。
 
 「こっちもよ」
 
 と、中山久仁子は言ったが、倫子にはそう見えなかった。
 
 「何をしてらしたんですか?」
 
 「見物よ」
 
 と、中山久仁子は言った。「こんな抜け道なんて、珍《めずら》しいでしょ」
 
 「よくご存知でしたね、この場所を」
 
 「お巡《まわ》りさんに訊いたの。親切に教えてくれたわ」
 
 と、中山久仁子は微《ほほ》笑《え》んだ。
 
 確かに、こういう美人には、親切に教えてくれるかもしれない。
 
 ま、いいや。こっちには「若さ」があるんだ!
 
 倫子は一人でいい気になって、朝也と一緒に山を下って行った。
 
 下りといっても、ほんの少しである。
 
 そこから道に出て、町までは割合に近いようだった。
 
 「すると、秀代さんは、ここから出て、どこかへ行っちまったのかな」
 
 と、朝也が周囲を見回した。
 
 「そうかもしれないわ。でも、秀代さんがどうして、そんなやり方で姿を消すの?」
 
 「そうだなあ……」
 
 「帰ると言えば帰れたのよ。それに、あのカプセルを見に来たんだもの、帰らないと思うけど……」
 
 二人が、町の方角へと歩き出すと、
 
 「羽佐間さん」
 
 と、中山久仁子の追って来る声がした。
 
 「何か?」
 
 「さっき、ハンカチを落としたでしょ」
 
 と、白のハンカチを出す。
 
 「私……。いいえ、落としてません」
 
 倫子は首を振った。
 
 「あら、そう? でも、〈M・H〉ってプリントしてあるのよ」
 
 「ちょっと見せて下さい」
 
 倫子は、そのハンカチを手に取った。とたんに思い出す。
 
 「そうだわ」
 
 「やっぱり、あなたの?」
 
 「ええ。もともとは。私、ちょっと秀代さんに貸してあげたんです」
 
 「じゃ、彼女が落としたんだ」
 
 と、朝也が言った。
 
 「これ、警察へ届けた方がいいかしら」
 
 「そりゃそうだよ。何しろ行方不明者のハンカチなんだから」
 
 「——ほら、パトカーだわ」
 
 道を、パトカーが走って来て、二人の前に停《とま》った。
 
 「やあ、少しは眠れた?」
 
 と窓から顔を出したのは、梅川だった。
 
 「これからどちらへ?」
 
 「学校だよ。羽佐間君も来るだろう」
 
 「じゃ、そのハンカチ——」
 
 と、朝也が、ハンカチを差し出し、言った。
 
 「何だね?」
 
 「実は——」
 
 と、倫子が事情を説明した。
 
 「なるほど」
 
 梅川は肯《うなず》いた。「じゃ、お乗りなさい。学校まで送ります」
 
 「すみません——あら、中山さんは?」
 
 「知らないよ」
 
 ——中山久仁子の姿が見えない。
 
 「また、どこかへ消えちゃったんじゃないだろうな」
 
 と、冗《じよう》談《だん》に言って、朝也は倫子にけとばされることになった……。
 
 パトカーが走り出すと、倫子は言った。
 
 「署長さん」
 
 「何か?」
 
 「三十年前の、高津先生が殺された事件のこと、教えて下さい」
 
 と、倫子は言った。
 
 「興味がある?」
 
 「ええ」
 
 「いいでしょう」
 
 と梅川は、肯いて、少し間を置いて、話し出した……。
 
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