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冒険入りタイム・カプセル13

时间: 2018-08-19    进入日语论坛
核心提示:13 四人の男 「お父さんから聞いたかもしれないが、私は三十年前、あの事件が起ったときは、あの学校で、国語の教師をしていた
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 13 四人の男
 
 「お父さんから聞いたかもしれないが、私は三十年前、あの事件が起ったときは、あの学校で、国語の教師をしていた」
 
 と、梅川署長は言った。「私は二十四歳で、まだまだ教えることに情熱をかけていた。——もちろん、そのころ、もう高津智子先生はかなりのベテランで、私のような青二才は、色々と教えられることもあったんだ」
 
 「署長さんは」
 
 と、倫《みち》子《こ》は言った。「高津先生のことが好きだったんでしょ」
 
 「お父さんに聞いたね」
 
 と、梅川は、ちょっと笑った。「それは事実だ。しかし、あのころ、高津先生に恋していたのは私だけじゃない。男の先生たちはみんな、と言ってもいいくらいだ。先生とは限らない。生徒だって、もう高校生だ。恋もする年《ねん》齢《れい》だよ」
 
 「じゃ、私の——」
 
 「そう。君のお父さんも、きっと高津先生に心を奪《うば》われていたんじゃないかな。そうでなかったら、三十年もたって、ここへやって来ないだろうからね」
 
 「それはそうですね」
 
 と、倫子は肯いた。
 
 「そう。——あのころの高津先生の姿は今でもはっきり思い浮かべることができるよ」
 
 梅川は、やや目を遠くへ向けて、過去に浸《ひた》っているように見えた……。
 
 「私は、後で結《けつ》婚《こん》した。——もちろん妻のことは愛しているが、しかし高津先生は全く別の存在なのだ。死んでしまったからこそ、そう思えるのかもしれないがね……」
 
 倫子は、ふと、思った。もし自分の夫が、いつまでも、かつての恋人の面《おも》影《かげ》を抱いていると知ったら、どんな気がするだろう……。
 
 「——ともかく、話を戻《もど》そう」
 
 と梅川は言った。「まあ、警察官らしく、事務的に言えば、その当時、四人の男が、特に高津先生を巡《めぐ》って争っていた」
 
 「四人も?」
 
 私なんか、全然、争われたことがないわ、と倫子は妙なところでひねくれた。
 
 「そう。私と、滝田先生」
 
 「数学の先生ですね」
 
 「そう。よく知ってるね」
 
 「あの古い校舎でお会いしました」
 
 「あの先生は、当時もう結婚していたんだが、それでも高津先生に夢《む》中《ちゆう》になって、大変なものだった。——あの事件の後、それがもとで奥さんと別れたはずだ」
 
 「そうだったんですか。後の二人は?」
 
 「一人は君のお父さん」
 
 「父が? そんなに目立つくらい、凄《すご》かったんですか?」
 
 「まあね。しかし、青春時代の、年上の女性への恋は、熱《ねつ》烈《れつ》なものだよ」
 
 「そんなもんですか」
 
 「あとの一人は、もう死んでしまったが……」
 
 「石山さんですね」
 
 と、倫子は反射的に言った。
 
 「その通り。あの行方不明になった娘の父親だよ」
 
 と、梅川は言った。「しかし、それは、この四人しかいなかったという意味ではないよ。目立ったのがこの四人だった、ということなんだ。実際に、ひそかに思いこがれている男が、何人もいたに違いない。——むしろ、目立った四人は、それだけ純情だったのかもしれないね」
 
 そうか。——倫子は、ちょっとドキッとした。
 
 高津智子を殺した人間は、もしかしたら、その四人の中にいるのかもしれない。つまり、父を含めた四人の中にだ。
 
 「だが、高津先生は不思議な女《ひと》だった。——総《すべ》てに超《ちよう》然《ぜん》としているようで、誰《だれ》の誘《さそ》いも拒《こば》んでいるように見えた……」
 
 
 
 「滝田先生」
 
 梅川は声をかけた。
 
 滝田の背中は、もう、誰が呼びかけたのかも、何の用なのかも、総て承知しているように、ちょっと揺《ゆ》らいで、振り向くと、
 
 「何ですか、梅川先生」
 
 「お話があります」
 
 滝田は、ちょっと苦笑いをした。
 
 「そう怖い顔をしなさんな。しわが増えますよ、まだ若いのに」
 
 「お話があるんです。ぜひ——」
 
 「分った、分りましたよ」
 
 と、滝田は手を上げて、「今はともかく人目がある。放課後にしませんか」
 
 「ええ、僕は——」
 
 「じゃ、声をかけて下さい」
 
 滝田は、さっさと歩いて行ってしまった。
 
 梅川は、ゆっくりと深呼吸をして、気持を鎮《しず》めようとしたが、あまりうまく行かなかった。——何となく、適当にあしらわれた感じだ。
 
 本当に放課後まで、残っているだろうか。
 
 「うまく捕《つか》まえなきゃ」
 
 と、梅川は呟《つぶや》いて、職員室に向って歩いて行った。
 
 今日こそ、はっきりさせなくてはならない。
 
 職員室に入ろうとして、ドアに手をかけると、中からサッと開いて、梅川はギクリとした。
 
 「あら、梅川先生。すみません」
 
 と、高津智子は言った。
 
 「いいえ」
 
 梅川はわきへよけて、高津智子を通した。彼女が、ちょっと微《ほほ》笑《え》んで、会《え》釈《しやく》して通って行く。——梅川の胸は、まるで世間知らずの少年のように、早《はや》鐘《がね》を鳴らしていた。
 
 しっかりしろよ、全く!
 
 梅川は、自分を叱《しか》りつけた。しかし、こればかりはどうすることもできない。
 
 はた目には、何と馬《ば》鹿《か》げたことと映るかもしれないが、恋というのは、元来がそんなものだ。ただ、教職にある身だということが、梅川にとって、辛《かろ》うじてブレーキになっていた。
 
 そうでなかったら、どこまで突っ走っていたか分らない。
 
 梅川は、廊《ろう》下《か》を歩いて行く高津智子の後ろ姿を見つめていた。——何か、白いものが、彼女のかかえている教科書の間から、フワリと落ちるのが見えた。
 
 ハンカチかな?
 
 梅川は、急いで歩いて行って、それを拾い上げると、彼女を呼び止めようとしたが……。いや——違う。
 
 それは、折りたたんだ白い紙だった。何かのメモだろうか? 開いてみて、梅川はギョッとした。
 
 素早く周囲を見回し、その紙を、ポケットへ滑《すべ》り込《こ》ませる。
 
 この時間、梅川は授業がなかった。席に戻《もど》って、事務員の女の子のいれてくれたお茶を飲んだ。
 
 「ありがとう」
 
 お茶をつぎに来てくれた女の子に礼を言うと、
 
 「高津先生にいれたのと同じお茶の葉ですよ。格別おいしいでしょ」
 
 と、からかわれてしまった。
 
 それくらい、梅川の気持は、学校の中に知れ渡ってしまっているのだ。
 
 しかし、妻子のある身で彼女につきまとっている滝田に比べれば、梅川に対するみんなの目は好意的だった。
 
 それは必ずしも梅川の手前勝手な思い込みではない。もともと、滝田は女性に対してはだらしのないところがあり、よく思われていなかった。
 
 それに対して、梅川は真面目さが好感を持たれていた。教えることの情熱が、目の輝《かがや》きとなって、ほとばしっているような、そんな若々しい教師だった。
 
 だが——いずれにしても、高津智子は、二人のどちらにも、なびいている様子はなかったのである。
 
 梅川は、事務員の女の子が行ってしまうと、ちょっと周囲を見回した。三、四人の教師が授業がないらしく、新聞を見たりしている。
 
 大丈夫だ。——梅川は、拾ったメモを開いた。
 
 〈今日、放課後、体育館の裏でお待ちしています。どうしても話したいことがあるのです。僕は何時間でも待っています。石山〉
 
 「石山か……」
 
 と、梅川は呟《つぶや》いた。
 
 石山のことは、もちろん知っている。梅川も教えている生徒だ。
 
 どちらかといえば、暗い、内向的な少年である。無口で、目立たない。
 
 確かに、美しい女教師に、ひそかに憧《あこが》れるタイプではある。——厄《やつ》介《かい》なことだ、と梅川はため息をついた。
 
 彼女は、このメモを見たのだろうか?
 
 梅川は、席を立って、高津智子の机の方へと歩いて行った。机の上は、他《ほか》の教師たちと比べても、際《きわ》立《だ》ってきれいに片付けられている。
 
 クラスの担当表を見て、梅川は、前の時間彼女が石山のいるクラスを教えていたのを知った。——おそらく石山が、どうにかして彼女の教科書に、このメモを挟《はさ》み込んだのだろう。
 
 おそらく、彼女はこのメモを見ていない。教科書を開かないままに、次の授業に行ってしまったのだ。
 
 もし、見ていたら、教科書に挟んでおくようなことはしないで、どこかへしまい込んでいたに違いない。
 
 どうしたものだろう?
 
 席に戻《もど》って、梅川は考え込んだ。——本当なら、これを彼女に返して、後は彼女に任せるべきだろう。
 
 しかし、梅川にはそうできなかった。
 
 生徒が教師に熱を上げるのは珍しいことではない。いちいち本気で相手にしていたら、きりがない。——彼女だったらどうするだろう?
 
 行くかもしれない、と梅川は思った。
 
 彼女は、そういう女性なのである。
 
 もちろん、こんなことをしてはいけないと意見するだろうが、相手にとっては逆効果でしかない。相手にとっては、来てくれたということが、大切だからだ。
 
 これは渡さずにおこう、と梅川は思った。——結局待ち呆《ぼう》けを食えば、石山も目が覚めるかもしれない。
 
 石山のためにも、彼女のためにも、それが一番いい。
 
 梅川は、メモを小さく折りたたんで、胸のポケットに入れた。
 
 半ば、自分をごまかしていることは、彼自身、承知の上だった。
 
 もう一人、高津智子に想《おも》いを寄せている生徒がいた。羽佐間栄一郎である。
 
 羽佐間は、石山とは対照的に、明るく、スケールの大きさを感じさせる男だった。
 
 高津智子を好きだということも、まるで隠さずに言いまくっているので、知らぬ者はなかった。そんな羽佐間には、梅川も、一種爽《さわ》やかなものを感じていた。
 
 梅川は、頭を振った。——ともかく、今は仕事時間だ。
 
 次の授業の準備を始めながら、梅川はチラリと目を窓の方へやった。
 
 窓からは、運動場が見える。職員室は一階なので、表を通る人間の頭が覗《のぞ》いて見えるのだった。
 
 梅川は、おや、と思った。
 
 見たことのある女性が、職員室の中を覗いている様子だ。
 
 梅川は立ち上って、窓の方へ歩いて行った。
 
 その女性は、梅川に気付くと、あわてて歩き出した。梅川は思い出して、
 
 「滝田さん」
 
 と声をかけていた。「滝田先生の奥さまですね?」
 
 その女性は足を止めて、振り向いた。
 
 やはりそうだ。——そう何度も見かけたわけではないが、何となく印象に残っていた。
 
 「梅川です」
 
 「いつも主人が——」
 
 と、夫人は、低い声で言って頭を下げた。
 
 「ご主人にご用ですか?」
 
 「ええ、あの……」
 
 「今、授業があって。——お急ぎでしたら、お呼びしますよ」
 
 「いえ。待ちますから」
 
 「じゃ、お入りになったらいかがです?」
 
 夫人は、しばらくためらっていたが、やがて、黙ったまま肯《うなず》いた……。
 
 ——梅川は、小さな応接室に、滝田夫人を通した。
 
 「お茶でも運ばせましょう」
 
 と、出て行きかける梅川を、
 
 「いえ、どうぞもう——」
 
 と、止めて、「あの——梅川先生にも関係のあることだと思いますの。お話しする時間はございませんでしょうか」
 
 引き止めたい、という思いが、にじみ出ていた。
 
 「結構ですよ。今は授業がありませんから」
 
 梅川は、椅《い》子《す》に腰をおろした。「どういうご用件でしょう」
 
 滝田夫人は、不幸に見えた。
 
 いや、そうはっきり言い切ってしまうのは、少々無責任かもしれないが、しかし、事実、梅川はそう感じたのである。
 
 もともと、滝田夫人は、少し陰《いん》気《き》な、おとなしい性格の女性に見えた。いつも、申し訳なさそうな様子をしている。
 
 人生にいじめられて来た人間に共通の、ある物《もの》哀《がな》しさが、その表情に、いつも漂《ただよ》っていた。
 
 諦《あきら》め。——それが、夫人を支えているようだった。
 
 大して根《こん》拠《きよ》もないのに、梅川はそう感じていた。直感的に、また、どこか自分と共通の感性を、この夫人が持っているという気持が、そう思わせたのかもしれない。
 
 「お話というのは……」
 
 「はい。——実は、高津先生のことなんです」
 
 と、夫人は言った。
 
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