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冒険入りタイム・カプセル16

时间: 2018-08-19    进入日语论坛
核心提示:16 倫子、ボーイになる 「ともかく、ホテルが客を拒《こば》むわけにはいかん。何か問題のある客ならともかく、ホテルにふさわ
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 16 倫子、ボーイになる
 
 
 「ともかく、ホテルが客を拒《こば》むわけにはいかん。何か問題のある客ならともかく、ホテルにふさわしい客となればな」
 
 と、羽佐間は言った。
 
 「お父さんったら」
 
 と、倫子は笑って言った。「さっきまでは顔が引きつってたわよ」
 
 いや、全くの話……。大騒ぎだったのである。
 
 ホテルは満室となり、レストランも、時間予約にしないと、客をこなし切れない。
 
 しかも、羽佐間の旧友たちということで、挨《あい》拶《さつ》や昔話もくり返された。
 
 「——ああ、くたびれた」
 
 と、ボーイが一人、やって来た。
 
 このボーイ、朝也である。人手が足りないので、駆《か》り出されたのだ。
 
 「ご苦労さま。さあ、食事にしましょ」
 
 光江が盆《ぼん》を運んで来た。
 
 ——人気のなくなった食堂。
 
 羽佐間親子と朝也の四人で、やっと夕食を取るところである。もう夜の十一時だった。
 
 「小池君、なかなか似合うわよ」
 
 と、倫子がからかった。
 
 「これで、いざとなったら就職できる自信がついたよ」
 
 「——しかし、参ったな」
 
 と、羽佐間が、ゆっくりと息をついた。
 
 「でも、結局、二十人は集まったわけでしょ、お友だち」
 
 「二十一人だ」
 
 「凄《すご》いわね。三十年前のことなのに。——いくら案内状もらったって、来られる人なんて限られてるでしょうにね」
 
 と、光江が首を振った。
 
 「高津先生のことを、みんな忘れられないのかな」
 
 と、朝也が、グラタンをいきなり食べて、熱さに目を白黒させる。
 
 「でも、高津先生のために来たわけじゃないんでしょ?」
 
 と、倫子が父の顔を見る。
 
 「それは何とも言えんな。——口には出さないが、あの事件のことをよく憶《おぼ》えてる奴《やつ》もいるはずだ」
 
 「時ならぬ同窓会ね」
 
 と、光江が言った。「コーヒーをもらいましょうか」
 
 「ああ、お腹《なか》空《す》いて死にそう!」
 
 と、倫子は言った。
 
 「半分も食べてるくせに」
 
 「もうやっと普《ふ》通《つう》の空腹状態に戻ったのよ」
 
 と、倫子が言い返した。
 
 「——あ、そういえば」
 
 と、光江が言った。「あのピアニストの方、見ませんでしたね」
 
 倫子と朝也は顔を見合わせた。
 
 「そういえば……。全然気付かなかったけど」
 
 「食堂へ来てたかな」
 
 朝也は、ちょっと考えて、「——だめだ。全然思い出せないや」
 
 「私も見かけた憶《おぼ》えがないな」
 
 「でも、私たち昼間会ったのよ。ね、小池君?」
 
 「うん。でも、あれっきりだな」
 
 「また、行方不明? いやだわ」
 
 「部屋にいるかどうか、キーを見れば分るさ」
 
 羽佐間は立ち上ると、フロントの方へと出て行った。
 
 「——大変だったけど、みんな、よくやったわね」
 
 と、倫子が言った。「ちゃんと手落ちなく、こなしてたじゃないの」
 
 「その辺はね」
 
 と、光江が微笑んで、「人員もゆとりがあるし、経験者を集めてるから。——新人やアルバイトばかりだったら、収拾がつかなかったでしょうね」
 
 「お父さんらしいわ」
 
 「あの人は、一流志向が強いから」
 
 ——羽佐間はすぐに戻《もど》って来た。
 
 「出たきりのようだな。キーがフロントにある」
 
 「そう。こんな時間まで、どこにいるのかしら?」
 
 「分らんな。——十二時過ぎても戻らないようなら、梅川さんへ連《れん》絡《らく》しておこう」
 
 倫子は、ふと思い付いて、
 
 「そうだ。滝田先生って、どこに泊ってるのかしら? ここにはいないんでしょ?」
 
 「たぶん、知り合いの家じゃないかな。大分長くここにいたわけだから」
 
 「先生で、他《ほか》にやって来た人は?」
 
 「今のところ、いないと思うな。亡くなった人もいるだろうし……」
 
 そのとき、人の気配がして、みんな、食堂の入口を振り返った。
 
 あのピアニスト、中山久仁子が立っていた。
 
 「——やあ、これはどうも」
 
 羽佐間は立ち上って、「ちょっと今、心配していたんですよ」
 
 「ええ」
 
 と、中山久仁子は肯《うなず》いて、「フロントで聞きました。それで、ちょっとお寄りしましたの」
 
 「お食事は?」
 
 「済ませましたわ。——部屋の方へコーヒーを持って来ていただけます?」
 
 「もちろんですよ」
 
 「ちょっとお風《ふ》呂《ろ》に入ります。三十分ほどして、持って来ていただければ」
 
 「分りました」
 
 「おやすみなさい」
 
 と、中山久仁子は会《え》釈《しやく》して、出て行った。
 
 「——心配することもなかったね」
 
 と、朝也が言った。
 
 「だけど……」
 
 と、倫子がためらいがちに、「何だか妙だわ」
 
 「何が?」
 
 「夕食を済ませて来ましたって……。でも、どこで? あの町に、あの人の入るようなお店ってある?」
 
 「どんなものが好物か分らないぜ」
 
 「こんな時間まで開いてる店はないだろうな」
 
 と、羽佐間が言った。「散歩したくなる晩でもない」
 
 「ねえ、おかしいわよ」
 
 「しかし、客にも色々いるからな。まあ、こっちが口を出すことではない」
 
 羽佐間に言われて、倫子は渋《しぶ》々《しぶ》口をつぐんだが……。
 
 「——そうだわ」
 
 と、指を鳴らした。
 
 「何だよ? 君は大体、ろくなことを思い付かないからな」
 
 「失礼ねえ!」
 
 と、倫子は朝也をにらみつけた。
 
 
 
 ——三十分たって、言われた通り、ボーイがコーヒーを中山久仁子の部屋へと運んで行った。
 
 ただ、このボーイ、ちょっと制服が合わないようで……。
 
 当然だった。倫子なのである。
 
 「大丈夫か?」
 
 と心配する朝也を尻《しり》目《め》に、さっさと余った制服を着込んで、コーヒーを運んで行く。
 
 三十分ったって、女の入浴は多少長くなるのが普通である。うまく行けば、部屋の中や、持物を調べられるかもしれない。
 
 いや、もちろん捜査令状はないのだから、見とがめられたらおしまいである。
 
 倫子とて、そこまで危ないことは——やる気だった!
 
 どうも気になるのである。あの女。
 
 用もなくなったのに、なぜここに泊っているのだろう?
 
 今度の一件に、何か関《かかわ》りがあるに違いない、と倫子はにらんでいた。
 
 そう。それに中山久仁子は、行方不明になった石山秀代のハンカチを拾っている。
 
 あの件の説明も、警察に訊《き》いてもらわなくちゃ。
 
 「——ここだわ」
 
 と、倫子は、ドアの前で足を止めると、「エヘン」
 
 と咳《せき》払《ばら》いをした。
 
 ドアをノックして、
 
 「コーヒーをお持ち——」
 
 と言いかけて言葉を切ったのは、叩《たた》いた勢いで、ドアがスッと内側へ開いたからだ。
 
 いや、倫子は別に超《ちよう》能《のう》力《りよく》の持主ではない。ドアの方が、少し開いていたのだ。
 
 中は明るかった。
 
 「失礼……します」
 
 入ってみると、中山久仁子の姿は見えない。——いや、ベッドが盛《も》り上っている。
 
 寝ちゃったのかしら? でも、ドアを開けたままなんて……。
 
 「あの——コーヒーです。お待ち遠さま」
 
 ホテルのボーイにしちゃ、妙なセリフである。「コーヒーのご用は……あの……」
 
 ベッドの方へと近づいて行く。
 
 そして、ヒョイと覗《のぞ》いてみると——。
 
 女ではない。ということは男だった。
 
 そして——白目をむき、苦《く》悶《もん》の表情のまま、息絶えているのだ!
 
 「あ……あ……」
 
 さすがに倫子もショックで体が震えた。しかし、なぜかコーヒーの盆を、傍《そば》のテーブルに置く余裕はあった。
 
 どうしよう?——そうだ、電話!
 
 電話へ手を伸ばすと、いやでも死人の顔が目に入った。
 
 この男は——。倫子はハッとした。
 
 滝田だ! あの高津智子に思いを寄せていた数学の教師である。
 
 どうしてこんな所で?
 
 肩先が見えているが、むき出しのままだった。どうやら裸《はだか》で寝ているらしい。
 
 ともかく電話だ。
 
 受話器を取り上げたとき、
 
 「——動かないで」
 
 と声がした。
 
 振り向いて、またギョッとした。
 
 中山久仁子が、拳《けん》銃《じゆう》を持って、立っていたのだ。
 
 「受話器を置いて」
 
 中山久仁子は、確かに風呂に入ってはいたらしい。バスタオルを体に巻きつけただけという格好だったのである。
 
 「早く置いて」
 
 仕方ない。倫子も、冒険は好きだが、撃《う》たれるのは好きじゃなかった。
 
 「まあ、あなたは……」
 
 と、中山久仁子は倫子だと気付いたらしい。
 
 「あの——アルバイトで」
 
 と、倫子は言った。
 
 「そう」
 
 中山久仁子は、見たところ落ちついているが、実際はかなり動《どう》揺《よう》しているようだった。
 
 「あの——この人は?」
 
 「死んでるのよ。私が殺したわけじゃない。本当よ! でもね、この拳《けん》銃《じゆう》でやられてるの。私がやったと思われても仕方ないわね」
 
 「だけど——」
 
 「この拳銃だって、もちろん違《い》法《ほう》だし」
 
 中山久仁子は、ゆっくりと倫子の方へやって来た。「——あなたにしゃべられると、困ることになるわ」
 
 「私、口が固いので有名なんです」
 
 「手伝ってもらうわよ」
 
 「手伝う?」
 
 「これをどこかへ運ぶの」
 
 「これ……って?」
 
 「死体に決ってるでしょ」
 
 倫子はゴクリとツバをのみ込んだ。
 
 「私、あんまり力がないんですけど……」
 
 「やってもらうわよ」
 
 銃《じゆう》口《こう》がぐいと近づくと、倫子はあわてて、
 
 「やります!」
 
 と言った。
 
 「それでいいわ。——ドアを閉めて。チェーンをかけて。——そこの椅《い》子《す》に座るのよ」
 
 倫子が言われた通りにすると、中山久仁子はすぐ手の届く所に拳銃を置いて、服を着始めた。
 
 「男のボーイだったら、ちょっと困ったことになったわね」
 
 と、中山久仁子は、引きつったような笑顔になる。「バーは一時まで開いてたわね」
 
 「ええ……」
 
 「じゃ、二時まで待ちましょう。それから、二人でこれを運び出すの」
 
 「でも——どこへですか?」
 
 「それはこれから考えるわ」
 
 中山久仁子は、拳銃を手に、椅子に腰をおろした。
 
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