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冒険入りタイム・カプセル17

时间: 2018-08-19    进入日语论坛
核心提示:17 銃《じゆう》口《こう》とお見合 倫《みち》子《こ》は、別に独身主義者ではない。 大体、十六歳で「独身主義」もないもの
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 17 銃《じゆう》口《こう》とお見合
 
 
 倫《みち》子《こ》は、別に独身主義者ではない。
 
 大体、十六歳で「独身主義」もないものだが。
 
 結《けつ》婚《こん》というやつ、相手さえいれば一度くらいはしてみてもいい、とは思っている。それも恋《れん》愛《あい》にはこだわらない。
 
 別にお見合で結婚したって、そう抵《てい》抗《こう》はないし、それにお見合というのも、「くじ引き」みたいなもので(本来は大分違《ちが》うが)、結構面白そうだ、と思っている。
 
 たとえ、恋《こい》人《びと》がいて、その男性と結婚することが決っていたとしても、一度はお見合というやつをやってやろう、と考えていた。
 
 しかし、それはあくまで、人間が相手のお見合であって、今の状《じよう》況《きよう》のように、拳《けん》銃《じゆう》の銃口とお見合するというのは、あまり好みではなかった。
 
 拳銃を構えている中山久仁子。ベッドには、滝田の死体。
 
 たとえ、当人の言うように、中山久仁子が滝田を撃《う》ったのではないにせよ、やはり倫子としては、あまりリラックスできる状況とは言えなかった。
 
 中山久仁子は、初めの内こそピリピリしていたが、十分もたつとすっかり落ちつきを取り戻《もど》した様子で、
 
 「ああ、そうだわ」
 
 と、倫子へ、「せっかくコーヒーを持って来てくれたんだから、いただくわ。注《つ》いでくれない?」
 
 と言った。
 
 拳銃の注釈つきで言われたら、もちろん、いやとは言えない。倫子は急いでポットのコーヒーをカップへ注いだ。
 
 「手も震《ふる》えてないわね」
 
 と、中山久仁子は、感心したように言った。「いい度胸してるわ」
 
 「ちょっと鈍《にぶ》いんです」
 
 と、倫子は素直に言った。
 
 「あなたのお父さんは、なかなか大人物ですものね。あなたも、その血を受けついでるんでしょ」
 
 「恐《おそ》れ入ります」
 
 倫子は、穏《おだ》やかに礼を言って、「あの……」
 
 「なあに?」
 
 「あなたが撃ったんじゃないんですね」
 
 「そうよ。——あなた、私の言うことを、信じないの?」
 
 中山久仁子が、ちょっとムッとした様子で言ったので、倫子はあわてて、
 
 「いえ信じます!」
 
 と手を振《ふ》った。「ただ——もし良かったら、どうしてこうなったのか、それをうかがいたかったんです」
 
 中山久仁子は、ちょっと肩《かた》をすくめた。
 
 「私、犯人じゃないんだから、知らないわよ」
 
 それは確かに理《り》屈《くつ》である。
 
 「でも……」
 
 「この男の人がここにいるのは、私も承知の上よ」
 
 「というと——」
 
 「泊《と》めてくれ、って頼《たの》まれたの」
 
 「滝田さんにですか?」
 
 「この人、滝田っていうの?」
 
 逆に訊《き》かれて、倫子はびっくりした。
 
 「名前も知らなかったんですか?」
 
 「聞かなかったわ」
 
 「あまり細かいことにはこだわらないんですね」
 
 男が裸《はだか》でベッドにいる、というのが、「細かいこと」と言えるかどうかは、やや疑問もあった。
 
 「そういうことね」
 
 中山久仁子は、右手に拳《けん》銃《じゆう》を構えたまま、左手で、ゆっくりとコーヒーカップを取り上げ、飲んだ。
 
 「頼まれたというのは……」
 
 「町で、私、食事してたの。——こう見えても、ごく当り前のラーメンが大好きでね」
 
 「へえ」
 
 人は見かけによらないもんだ、と倫子は思った。
 
 「町の小さな、あんまりきれいとは言えないラーメン屋さんに入ってたの。——この人、そこでチャーハンを食べてたのよ」
 
 「はあ」
 
 「そして、食べながら、私のことをチラチラ見てたわ。私がラーメンを食べ終えるのを、待っていたように、テーブルへやって来たの。そして、このホテルに泊ってるんだろう、って……」
 
 「どうして知ってたんでしょう?」
 
 「さあ、分らないわ。ともかく、そうだ、って答えると、自分も泊りたいけど、部屋がどうしても取れない、って」
 
 中山久仁子は、ちょっと笑って、「いや、実は金があまりないんで、泊れないんだ、って白状したわ」
 
 それはそうかもしれないわ、と、倫子は思った。大体、滝田は、金があるようには見えなかった。
 
 「正直にお金がない、って言ったときの表情がね、何となく人なつっこくて、楽しくなったの。それで、ここへ泊める気になったのよ」
 
 へえ。音楽なんかやってる人は、やはり、常人よりは衝《しよう》 動《どう》的なところがあるのだろうか?
 
 だって、どう見たって——この滝田と中山久仁子なんて、およそアンバランスな組合せの典型なのである。
 
 「でも、ホテルへ入るときに目につくと困ると思ったから、フロントの人に、ちょっと頼みごとをして、急いで中へ入れたの」
 
 「じゃ、さっき戻《もど》られたときですか?」
 
 「ええ、そうよ」
 
 ——そんな余《よ》裕《ゆう》があったろうか?
 
 倫子は、ちょっと疑問に思ったが、あえて口には出さなかった。
 
 「それで、この人が先にお風《ふ》呂《ろ》へ入って、それから入れ替りに私が……。ところがね、私がお風呂へ入りかけたとき、ドアをノックする音がしたの。あなたのようにね」
 
 「誰《だれ》が?」
 
 「分らないわ」
 
 と、中山久仁子は首を振って、「ともかく『どなた?』と訊《き》くと、『ルームサービスです』と言ったわ」
 
 「そう言ったんですか? それ、どんな声でした?」
 
 「分らないの」
 
 「でも、聞いたんでしょう?」
 
 「ちょうどお風呂に入るところだったのよ。もう服も脱《ぬ》ぎかけてて。だから、浴室のドア越《ご》しに、この人へ『受け取っておいて』と言ったの」
 
 「それで?」
 
 と、倫子は、すっかり真《しん》剣《けん》になって、訊いた。
 
 「そして、私はお風呂へ入ったわ。シャワーを出して浴びてたの。——そう、ほんの二、三分だったかしら。部屋の中で、バン、と大きな音がして……」
 
 「銃声——」
 
 「でしょうね。でも、シャワーを浴びてる最中で、それほどはっきり聞こえたわけじゃないのよ」
 
 浴室のドアが閉っていて、シャワーを浴びていたのなら、確かに、聞こえなくてもおかしくない。
 
 「でも、気になったから、一応シャワーを止めて、『どうかしたの?』って、声をかけたわ」
 
 中山久仁子は、軽く首を振った。「——でも、返事はなかった。そして、ドアが閉る音が、かすかに、だけど、聞こえたようだったわ」
 
 「誰《だれ》かが出て行った、というわけですね」
 
 「そうでしょうね。——ともかく、私は気になって、急いでバスタオルで体を拭《ふ》いて、浴室を出たの……」
 
 中山久仁子は、ちょっと言葉を切った。
 
 「そのときは、もう、この状態だったんですか?」
 
 と、倫子は訊《き》いた。
 
 「いいえ。——ベッドで死んでいたけど、毛布はかかっていなかったわ」
 
 「じゃ、あなたが、この毛布を?」
 
 「ええ」
 
 倫子は、少し間を置いて、
 
 「——でも、どうしてそのときに、人を呼ばなかったんですか?」
 
 と言った。
 
 「簡単よ」
 
 中山久仁子は、あっさりと言った。「この拳《けん》銃《じゆう》が、私のだったから」
 
 つまり、中山久仁子の説明を信じるとすれば、滝田を殺した犯人は、この部屋へ入って来て、彼女の拳銃を使って、滝田を殺したということになる。
 
 室内の銃声が、廊《ろう》下《か》には洩《も》れなかったのだろうか?
 
 いや、それは充《じゆう》分《ぶん》に考えられる。
 
 ともかく、このホテルの造りはしっかりしているのだ。
 
 それに、多少の音が廊《ろう》下《か》に洩れても、その音が、他の部屋にまで聞こえるとは、考えられない。
 
 「だけど」
 
 と、倫子は、至極当然の質問をすることにした。「どうして、拳銃なんか——」
 
 「持ってたのかってこと? それは言えないわ」
 
 と、首を振る。
 
 無理に訊く気もなかった。訊く方が遠《えん》慮《りよ》しなきゃいけない状況なのだから。
 
 「でも——死体をどこへやるんですか、一体?」
 
 倫子は話を変えた。
 
 「考えてるわよ」
 
 中山久仁子は、ちょっと苛《いら》立《だ》つように言った。
 
 「別に——せっついてるわけじゃないんですけど」
 
 と、倫子は、あわてて言った。
 
 中山久仁子は、チラリと時計に目をやった。
 
 「待ってると、時間って長いものね」
 
 死体を前にしているにしては、呑《のん》気《き》である。
 
 バーが一時に閉る。——しかし、ピッタリ一時で出る客ばかりではない。
 
 だから二時になったら、この滝田の死体を運び出そうというのだ。
 
 まだそれには三十分以上あった……。
 
 「あなたって可《か》愛《わい》いわ」
 
 中山久仁子が、突《とつ》然《ぜん》、そんなことを言い出したので、倫子は、びっくりした。
 
 「はあ?」
 
 「あの男の子——小池君っていったっけ?」
 
 「ええ」
 
 「恋人?」
 
 「——そんなとこです。正確にはボーイフレンドと恋人の中間ぐらい」
 
 なぜか倫子も、わざわざ真剣に答えていた。
 
 「もう、一《いつ》緒《しよ》に寝《ね》た?」
 
 倫子は、ちょっとムッとしたが、
 
 「いいえ」
 
 と、素直に返事をした。
 
 「あら、割と真《ま》面《じ》目《め》なのね」
 
 と、向うは妙《みよう》なことに感心している。
 
 「そうでしょうか」
 
 「私はあなたの年《ねん》齢《れい》のときは、もう男の子と一緒に住んでたわ」
 
 と、中山久仁子は、静かに言った。
 
 「一緒に、ですか」
 
 訊《き》き返して、倫子は、中山久仁子が、「一緒に」というところに、かすかに力を入れて言ったような気がして、おや、と思っていた……。
 
 おそらく、この女性は、たまたまこのホテルに泊って、この事件にぶつかったのではあるまい。
 
 大体、普《ふ》通《つう》、ピアニストが銃を持って歩いたりはしないだろう。ピアニストでなくたってそうだ。
 
 つまり、この女は、目的があって、ここに泊っているのだ。
 
 ——どんな? それは倫子にも見当がつかなかった。
 
 そのとき、ドアをノックする音がして、二人は、同じようにギョッとした。
 
 中山久仁子は、緊《きん》張《ちよう》した面持ちで、
 
 「動かないで」
 
 と言うと、大きな声で、「どなた?」
 
 と、声をかけた。
 
 「ルームサービスの者です。よろしければ、盆《ぼん》を下げさせていただきます」
 
 朝也だ!
 
 倫子は、ホッとした。
 
 「あなたの恋人のようね」
 
 中山久仁子にも、分ったらしい。「じゃ、出てちょうだい」
 
 「私が、ですか?」
 
 「そう。あなた一人じゃ、この死体運ぶの大変でしょ?」
 
 ——そうか。
 
 小池君にも手伝わせようというわけなのだ。
 
 「さあ、立って」
 
 と、促《うなが》され、倫子は渋《しぶ》々《しぶ》立ち上った。
 
 「中へ入れるのよ。妙なまねはしないでちょうだいね」
 
 中山久仁子は、そう言って、ドアの陰《かげ》に、身を寄せた。
 
 もう一度、ノックの音。倫子はドアを開けた。
 
 「あれ?」
 
 朝也は、倫子を見て、ちょっとびっくりしたようだ。
 
 「何よ」
 
 「いや——ちっとも戻《もど》らないからさ。見に来たんだ」
 
 「あのね——」
 
 「いないの? あの女性……」
 
 と、朝也が入って来る。
 
 そして、倫子の顔を不思議そうに見て、
 
 「どうしたんだい? 片目をパチパチやって。ゴミでも入った?」
 
 と言った。
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