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冒険入りタイム・カプセル18

时间: 2018-08-19    进入日语论坛
核心提示:18 死体は重かった 「もう! ドジなんだから!」 と、倫子は文句を言った。 「そんなこと言ったって、仕方ないじゃないか!
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 18 死体は重かった
 
 
 「もう! ドジなんだから!」
 
 と、倫子は文句を言った。
 
 「そんなこと言ったって、仕方ないじゃないか!」
 
 と、朝也が言い返す。
 
 中山久仁子がクスッと笑って、
 
 「仲のいいことね」
 
 と言った。
 
 二人は、ちょっと苦い顔で黙《だま》った。
 
 もちろん、二人の前には、銃口がある。
 
 「——そろそろ二時だわ」
 
 と、中山久仁子は言った。「始めましょうか」
 
 ——気は進まないが、倫子と朝也の二人、死体を運び出すという、面白くもない仕事に取りかかることになったのである。
 
 「毛布でくるんで。外から見ても分らないようにね」
 
 これがまず大仕事。
 
 いい加減硬直し始めた死体を、毛布でくるむというのは、言うは易《やす》く、実際は大変な仕事だった。
 
 「こうなったら仕方ないよ」
 
 と、朝也が諦《あきら》めの境地。
 
 まあ、倫子としても、まだ死ぬ気にはなれない。
 
 二人して、まず毛布をはがして床《ゆか》へ広げ、その上に、滝田の死体をのせる。
 
 そして死体をくるむ。——ここまでで、三十分近くもかかってしまった。
 
 この調子じゃ、朝になるんじゃないかしら、と倫子は思った。
 
 「さて、次は運《うん》搬《ぱん》車《しや》」
 
 と、中山久仁子。
 
 「——手《て》押《お》し車みたいなもの?」
 
 と、朝也が訊《き》くと、
 
 「そうよ。どこかで見付けて来て」
 
 朝也が、
 
 「分ったよ」
 
 と出て行こうとする。
 
 「もちろん——」
 
 と、中山久仁子は付け加えた。「あなたがもし、このことをしゃべれば、この可愛いお嬢さんが……」
 
 「分ってるよ」
 
 と、朝也は言って、部屋を出た。
 
 十分ほどで戻《もど》って来る。——ちゃんと、注文通り荷物運び用の手押し車を押して来た。
 
 「さあ、これでいいだろ」
 
 と、朝也はふてくされている。
 
 「上出来だわ」
 
 と、久仁子は言った。「次に、その人をこれに乗せて」
 
 これまた楽ではない。
 
 それをやっとこ済ませると、もう二人ともヘトヘトだった。
 
 「——どこへ運ぶんですか」
 
 ハアハアいいながら、倫子は訊いた。
 
 「他にないわね」
 
 と、久仁子が言った。「林の中よ」
 
 「外へ? でも——」
 
 「つべこべ言わないで」
 
 銃口が、無言の雄《ゆう》弁《べん》ぶりを発揮する。
 
 二人して、死体をのせた手押し車を、廊下へ出す。
 
 「行くのよ」
 
 と、久仁子は、真剣な口《く》調《ちよう》で言った。
 
 しかし、二時という時間は、多少早かったようだ。
 
 つまり、今夜は、三十年ぶりに会う同窓生が、沢《たく》山《さん》いるわけなのだ。
 
 あちこちのドアから、話し声や笑い声が洩《も》れて来る。
 
 もちろん、内容は分らないが、それでも、いつドアが開いて誰《だれ》かが出て来るかもしれないのである。
 
 「急いで!」
 
 と、久仁子は言った。
 
 とたんに、ヒョイ、とドアが開く。
 
 ギクリとして、三人が立ち止った。
 
 「やあ、どうも——」
 
 と、その男、しっかり酔《よ》っ払《ぱら》ってしまっている。
 
 「今晩は」
 
 久仁子は平然として言った。もちろん、拳《けん》銃《じゆう》は、ガウンの下に隠《かく》している。
 
 「どうも。——いや、どうも」
 
 かつてのクラスメートと、久々に飲んでいたのだろう。
 
 フラフラと、千鳥足で、歩いて行ってしまう。
 
 ホッと息をついて、
 
 「行きましょ」
 
 と、久仁子は促した。
 
 
 
 ——後は何とか邪《じや》魔《ま》もされずに、ホテルの裏手に出ることができた。
 
 「どこへ持って行くの?」
 
 と、くたびれた声で、倫子が訊《き》く。
 
 「林の奥《おく》よ。ずっとずっとね」
 
 と、久仁子は言った。
 
 嫌《いや》だわ、と倫子は思った。たとえ、どんなに奥へ運んでも、それで死体が隠れるわけじゃない。
 
 しかし、ここはともかく、言われた通りにするしかなかった。
 
 かくて、二人で、死体をのせた手押し車を押して、暗い林の中を進んで行くという図になったのだった。
 
 「——小池君」
 
 そっと、倫子が囁《ささや》く。
 
 「何だよ?」
 
 「どうなると思う?」
 
 「知るかい」
 
 「無責任ね」
 
 「僕《ぼく》の責任じゃない!」
 
 「殺されても?」
 
 「殺されて?——誰《だれ》が?」
 
 「私たちよ」
 
 「ど、どうして僕らが?」
 
 「いくら奥へ運んでも、死体はなくならないわ。その後、私たちを帰したら、それでおしまい」
 
 「そうか。すると——」
 
 「私たちも殺す気かもしれないわ」
 
 「でも、彼女の話では——」
 
 「信じられる?」
 
 「——いいや」
 
 と、朝也は首を振った。「でも、だからって、どうするんだ?」
 
 「決ってるわ。逃《に》げるの」
 
 「逃げる?」
 
 「そう。暗い林の中だわ」
 
 「そうか。突っ走れば……」
 
 「一、二、の三で、左右に分れるのよ。どう?」
 
 「——OK」
 
 危険ではあったが、このままでも安全とは言えないのだ。
 
 「——じゃ、行くぞ」
 
 「ええ」
 
 「一、二、の三!」
 
 手押し車を残して、二人は左右へと駆《か》け出した。
 
 「待って!」
 
 と、中山久仁子の甲《かん》高《だか》い声が、木々の合間を縫《ぬ》って聞こえた。「止《とま》って!」
 
 ——やった!
 
 倫子は、木々の間を、巧《たく》みにすり抜《ぬ》けて行った。
 
 後は、明りの見える方へと戻《もど》って行けばいいのだ。
 
 銃声はしなかった。朝也も無事に逃げたのだろう。
 
 木々の間に、ホテルの灯《ひ》が見えた。あっちだ。
 
 倫子は、向きを変えて、駆け出した。
 
 そのとき——鋭い銃声が、闇《やみ》を貫《つらぬ》いて、聞こえた。
 
 一発。——一発だけだ。
 
 「小池君……」
 
 まさか小池君が——やられた?
 
 倫子は、足を止めた。
 
 ホテルへ戻《もど》って、助けを呼んでくればいいのだが、しかし、自分が言い出したことで、朝也に万一のことがあったら、と思うと、いても立ってもいられない。
 
 向きを変え、倫子は、林の中を、元の方向へと戻って行った。
 
 もちろん、この暗がりの中だ。
 
 正確に、元の場所へは戻れまい。
 
 しかし、およその方向は分っていた。
 
 ——小池君! 無事でいてね!
 
 倫子は、木の幹を手で確かめるようにしながら、進んで行った。
 
 「——小池君。——小池君」
 
 そっと、低い声で呼んでみる。
 
 返事はなかった。
 
 中山久仁子は、どこへ行ったんだろう?
 
 林の中は、何の足音らしいものもしない。
 
 いやな予感がした。——そろそろと足を進める。
 
 何かが動いた。——しかし、それは、妙な所から、「音」として伝わって来たのだ。
 
 足下からだった。すぐ目の前の、下の方から。
 
 倫子は、体を低くした。何かがいる。いや、誰《だれ》かが、だろう。
 
 じっと、息を殺していると、喘《あえ》ぐような、苦しげな息づかいが聞こえて来た。
 
 誰だろう? 小池君じゃない!
 
 突然、サッと光が射《さ》した。
 
 「倫子! 何をしてる?」
 
 父の声だった。
 
 「お父さん!」
 
 倫子は立ち止った。「そこを照らして!」
 
 「何だって?」
 
 「私のすぐ前を。——誰かがいるの」
 
 光の輪が移動する。倫子は、ハッと息を呑《の》んだ。
 
 倒《たお》れているのは、中山久仁子だった。脇《わき》腹《ばら》を押《おさ》えて、呻《うめ》いている。
 
 赤い血が、広がっていた。
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