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迷子の花嫁10

时间: 2018-08-27    进入日语论坛
核心提示:9 替え玉「クゥーン」「しっ」 と、亜由美がドン・ファンをつつく。「見付かっちゃうでしょ。静かにして」 ドン・ファンの身
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 9 替え玉
 
「クゥーン」
「しっ」
 と、亜由美がドン・ファンをつつく。「見付かっちゃうでしょ。静かにして」
 ドン・ファンの身になりゃ、「そっちの方がよっぽどうるさい」と言いたかったかもしれない。
 忍び込んだのはいいが、ともかく庭の広いこと。——ここは、内山広三郎の屋敷である。
 もちろん、亜由美は、殿永の許しを受けて来ているわけではない。
 こんな無茶なことを……やっても、別にびっくりはしないだろうが、きっと大いに嘆くことだろう。
「いい? あんたはね、いざってときには、命がけで私を守るのよ」
 と、亜由美はドン・ファンに言いきかせている。
 さて——二人(というか一人と一匹というか)が、庭をそっと進んで行くと、明るく光の溢《あふ》れた部屋が見えて来た。
「あれが居間ね、どうやら」
 と、亜由美は呟《つぶや》いた。
 庭は芝生になっているので、あんまり近付くと、向うから目に入ってしまうだろう。しかし、幸い植込みがあって、頭を低くして行けば、大分近くまで行ける。
「——あれ[#「あれ」に傍点]だ」
 居間がはっきりと見えた。
 そしてソファには、あのK会館で見た内山広三郎が、ゆったりと座っていたのである。
 しかし、何となく——様子がおかしい。
 内山広三郎の目は、じっと正面を見すえていて、何も見てはいないようだった。
 すると——人の姿が現われた。
「——さあ、父よ」
 と言ったのは、大倉有紀である。
 その後からやって来たのは、有紀の夫、大倉貞男と、そして女——あの、結城美沙子である。
「何してんだろ、こんな所で?」
 と、亜由美は呟いた。
 中の声が聞こえて来るのは、庭に面した窓の上の方が換気用に小さく開いているせいだろう。
「どうも」
 と、大倉が内山広三郎に会釈する。「ごぶさたして……。お義父《とう》さん。——お義父さん」
 大倉が呼びかけても、広三郎は一向に返事をしない。
「——有紀。どうしたんだ?」
「見た通りよ」
 と、有紀は言った。「生きてはいるけど——それだけ」
「何だって……」
 大倉が愕然《がくぜん》としている。
「——違うわ!」
 と、結城美沙子が叫ぶように言った。「この人じゃない! 私が愛人だったのは、この人じゃないわ」
「君……。確かか?」
 と、大倉が訊《き》く。
「ええ。何度も寝た仲よ。分るわ、それくらい」
 と、美沙子はきっぱりと言い切った。
「有紀」
 大倉は妻のほうへ向いて、「どういうことなんだ? この男は誰だ」
「父よ。内山広三郎」
「しかし——」
「もう、ずっと[#「ずっと」に傍点]こうなの。一年以上」
 ——しばし、沈黙があった。
「何ですって?」
 と、美沙子が言った。「私……内山さんと会ったのは、一年前よ」
「あなたが会っていたのは別の男。父の身代りをずっとつとめていた、売れない役者なのよ」
 大倉も美沙子も唖然《あぜん》としている様子だった。
「——一年間も?」
「そう。父が突然、脳に障害を起こして、ほとんど何も分らなくなったの。——もし、それが知れたら、会社はめちゃくちゃになるわ」
「それで、替え玉を?」
「前から、父は具合の悪いとき、その男をときどき代理で使っていたの。どこかの完成披露パーティでテープを切るとか、そんなことなら、父でなくともいいわけでしょう」
「それにしても……」
「父が倒れて、私と兄は途方にくれたわ。今は誰も父を継げる人はいない。とりあえず、重役会やパーティを、その男でしのいでいたの」
「じゃ……私、その〈替え玉〉の愛人だったの」
 と、美沙子がポカンとして、言った。
「ええ。——ある程度好きにさせておかないと、いつ秘密を洩《も》らすか分らないでしょ」
 と、有紀は言った。「その内何か考えなくちゃ、と言ってる内に、一年もたってしまったの」
「で——その替え玉は?」
「死んだの」
「何だって?」
 大倉が目を丸くする。
「あの、前田小夜子って娘をここへ連れ込んで腹上死。——焦ったわ。次の日には、結婚式でしょう、例の。それで、何とか父を出すことにして。でも——」
「誰とも口をきかないように、か」
 大倉が肯《うなず》く。「それで分ったよ」
「ところが、その式場で、前田小夜子が式をあげることになってたの。廊下でバッタリ。——運の悪いことよね」
「全くさ」
 と、秀輝が入って来る。
「お兄さん」
「あの娘をどうした?」
「縄をといてやったわ。薬で眠らせたのね。ひどいことを」
 と、有紀は言った。
「あいつはここへ忍び込んで、親父《おやじ》を見ちまったんだ。仕方ないじゃないか」
 秀輝は、身じろぎもせずに座っている父の肩に手をかけて、「——こうなったら、もう隠しちゃおけないだろう。しかし、こっちはまずいことになるんだよ」
「新しい体制がスタートすると、何かまずいことがあるのね」
 と、有紀が言った。
「ああ」
 秀輝は肩をすくめて、「死んだ替え玉と組んで、大分金を流用させてもらってたからな、俺は」
「そんなことだと思ったわ」
 有紀は首を振って、「それであの娘も、消すつもりだったの?」
「あの娘の口から、本当のことがばれると困るんでね。——俺の女に、あの娘の結婚式に乱入させた。亭主の恋人ってことにしてな」
 ——小田久仁子は、内山秀輝の愛人だったのか!
 話を聞いていて、亜由美は肯いた。
「その女を殺したでしょう。なぜ?」
 と、有紀が言った。
「あいつも、色々欲が深かったし」
 と、秀輝が言った。「あいつを殺して、久井って奴がやったように見せる。これで、前田小夜子の死体が出ても、自殺と思われるだろう」
「呆《あき》れた人!」
 と、有紀は言った。「そんな話が通用すると——」
「するとも」
 秀輝が、拳銃《けんじゆう》を取り出した。「さあ、俺と協力して、うまくやるか。それとも、ここで死ぬか」
「どうするつもり?」
 と、美沙子が言った。
「親父が急死したことにする。強盗にうたれてね。それで世間も疑いを持たないし、あれこれ、せんさくもされないだろうさ」
「殺すつもりか」
「どうせ死んでるのも同じさ。もうこれ以上生きてても仕方ない」
 と、秀輝はちょっと笑った。「もちろん後は俺が継ぐ。——この一年の間に、相続対策はやれるだけやった。後は、俺が社長になって、使った金をごまかす。簡単なことよ」
「お兄さん……」
「賛成するだろうな。——ここで死んでも、強盗がやったってことにできるんだ」
 誰も、口をきかない。
「——よし」
 と、秀輝は肯いて、「じゃ、親父に死んでもらおう」
「やめて!」
 と、有紀が叫んだ。「いくら何でも——」
「生かしといてどうする?」
 秀輝が銃口を、内山広三郎の方へ向けた。すると——内山広三郎の頭が、ゆっくりと動いたのである。
「何だ……。こんな馬鹿な!」
 広三郎の顔が、真直ぐ秀輝の方へ向く。そして、その右手が、そろそろと持ち上り、秀輝の方へと伸びて来る……。
「やめろ!」
 秀輝が引金を引く。銃声がして、同時に大倉が、秀輝を殴った。
 秀輝は呆気《あつけ》なく床にのびてしまった。
 ——亜由美は、ガラス戸をトントンと叩《たた》いた。
「あら、あなた……」
 と、美沙子が戸を開ける。
「全部見てました」
 亜由美は言って、「小夜子さんは?」
「そこよ」
 と、有紀が指さす。
 内山広三郎の座ったソファの後ろから、小夜子が顔を出した。
「大丈夫ですか?」
「ええ……。ここへ来て、その男にいきなり縛られて……」
 と、小夜子は立ち上って、「どうでしたか?」
「うまくいったわ」
 と、有紀が肯く。
「ワン」
 と、ドン・ファンが吠《ほ》えた。
「あ、そうか。小夜子さんが後ろから動かしてたんですね?」
 と、亜由美は肯いて、「怖かった!」
「でも効果満点」
 と、美沙子が首を振って、「こっちが本物だったのね」
「とんでもない騒ぎだったわ」
 と、小夜子がため息をついた。「久井さんの疑いは晴れるわね」
「キャッ!」
 と、美沙子が声を上げた。
 いつの間にか、頭から血を流した野口が、居間へ入って来て、秀輝が落とした拳銃を拾い上げたのである。
「動くな! 畜生!——何もかもおじゃんだ」
「そうか」
 大倉が肯いて、「君が企んだんだな。どうも秀輝さんの考えにしちゃ、うまくできてると思った」
「裏切りやがって。——こうなったら逃げるぞ。金を出せ! 現金だ」
「野口さん——」
 と、有紀が言いかける。
 亜由美は、そっとドン・ファンの腹をつついた。——出番[#「出番」に傍点]だよ。
 何しろ背が低いのは得である。
 スッとソファの下へ潜り込んだと思うと、野口の後ろへ回り、その足首に、思いっ切りかみついたのだ。
「ギャーッ!」
 野口の悲鳴が、表まで聞こえたとか、後で亜由美は聞かされた……。
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