「行ってらっしゃい」
と、亜由美は手を振った。
「色々ありがとう」
と、小夜子が言った。「あなたたちのおかげだわ」
「さ、行こう」
と、促したのは、もちろん久井隆。
少し遅れたハネムーンに、成田から飛び立つところである。
亜由美、聡子、ドン・ファンの三人[#「三人」に傍点]は、見送りに来たのだった。
「——いいご主人ね」
と、聡子が言った。「あんなことあっても、怒りもしないで」
「人間誰しも過ちはあるって」
と、亜由美は言った。
「クゥーン……」
「あれ?」
と、亜由美が目を丸くしたのは——。
「あら、来てたの」
大倉貞男と有紀の二人である。
「お二人で?」
「ええ。第二のハネムーンでね」
と、有紀は微笑《ほほえ》んだ。
「もう一回やり直そうってことになってね」
と、大倉は言った。
「いいなあ、羨《うらや》ましい」
と、聡子が言って、亜由美につつかれている。
大倉夫妻もついでに[#「ついでに」に傍点]見送って、亜由美たちは、息をつくと、
「さて、帰るか」
と、歩き出した。「聡子、途中で何か食べてくでしょ」
「うん。——あの人が、内山広三郎の会社を継ぐんでしょ?」
「らしいね」
「就職の世話してくれないかなあ」
「夢は小さいね」
と言って、亜由美たちは大笑いした。
成田の混雑の中を、ドン・ファンは、行き交う人々に踏みつぶされないよう、必死ですり抜けながら、二人の後について行くのだった……。