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眠りを殺した少女08

时间: 2018-08-27    进入日语论坛
核心提示:8 傘 美術館の中は静かだった。 平日の昼間で、客が少ないのも当然かもしれない。特に〈展〉といった、会期を限った特別な展
(单词翻译:双击或拖选)
 8 傘
 
 美術館の中は静かだった。
 
 平日の昼間で、客が少ないのも当然かもしれない。特に〈××展〉といった、会期を限った特別な展示をしているわけではないのだし。
 
 智子はゆっくりと絵から絵へ、間の空間を楽しむように歩いて行った。
 
 絵そのものも好きだが、こういう「空気」が、智子をホッとさせる。——東京で、こういう場所はほとんどない。
 
 多少ゆったりしたスペースはあっても、BGMが絶え間なく流れているし、電車に乗っても、誰かのウォークマンから、ロックのリズムが洩《も》れて来る。
 
 智子とて、音楽は嫌いでない。しかし、時には「何もない」時間がほしいと思うのだ。
 
 ——ソファが置いてあった。それに腰をおろすと、少しそのままでいよう、と思った。
 
 美術学校の生徒らしい格好の女の子、定年になって時間をもて余しているらしい老人……。一人一人が、目の前を通りすぎて行く。
 
 絵か……。そう、あの人は絵も趣味の一つだった。
 
 いや、そう言っていただけかもしれない。
 
 ラフマニノフの音楽を、
 
「女を口説くのに一番いい」
 
 としか思っていなかった男だ。
 
 絵だってそうなのだろう。——裸体画を見ながら、
 
「この女が俺《おれ》のものだったら」
 
 とでも思っていたのか……。
 
 しょせん、その程度の男だったのだ。
 
 片倉道雄との、あの恐ろしい思い出は今でも智子を身《み》震《ぶる》いさせたが、同時に、どうしてあんな男の所へノコノコと出かけて行ったんだろう、と……。それを考えると、自分自身に腹が立つのだった。
 
「パリで買った、珍しい写真集があってね」
 
 と、片倉は言ったものだ。「有名な画家のスナップやポートレートを集めたものなんだ。なかなか面白いんだが、何しろ大判の重い本でね。ちょっと学校へ持って来るってわけにいかないんだよ。見に来るかい、良かったら?」
 
 あれが、片倉の手だったのだろう。
 
 あの手で他の子も何人か引っかけていたのだろうか。
 
 ——片倉と初めて会ったのは、姉と一緒にTV局に行ったときだった。
 
 もちろん、前から片倉の顔は知っていて、TVなどで見ていた。——確かに、なかなかすてきな男性だな、とは思ったが、姉が熱を上げているのを見ると、却《かえ》って、
 
「それほどのこともないんじゃない?」
 
 と言ったりしていた。
 
 TV局へ出かけて行ったのは、その日、スタジオに何人かの学生を集めて、〈現代女子大生の心理〉というテーマのパネルディスカッションがあり、片倉がパネラーの一人になっていたからである。
 
 聡子も、その「女子大生」の一人に選ばれていて、すっかり舞い上っていたものだ。智子はその姉の、いわば「付添い」で、局のスタジオの隅から、チャチなセットでくり広げられる討論——というより、いかに自分をマスコミに売り込むかという、評論家や学者のパフォーマンス合戦を眺めていた。
 
 その中でも、片倉は目立った。外見がハンサムというだけでなく、自分は人気がある、という自信が、余裕を感じさせていたのである。
 
 ライトを浴びている片倉は確かに魅力的で……。智子は、正直、胸ときめくものを覚えるのだった。
 
 軽薄そうだけど、すてき。——正直なところ、そんな印象だった。
 
 収録が終ったあと、片倉は、聡子と智子に軽い食事をごちそうしてくれた。そのとき、智子に絵の趣味があるという話になって——。
 
 そのレストランを出るときだった。
 
「私、ちょっと化粧室に」
 
 と、聡子がいなくなると、片倉はカードで支払いをして、
 
「——智子君だっけ」
 
「はい」
 
「絵が好きなのか。——そうだ。うちにね、パリで買った、ちょっと面白い写真集があるんだよ……」
 
 そう、片倉は言った。
 
 姉のいないときを見はからって、初めから智子を引っかけるつもりだったのだ。
 
 しかし、智子は頬《ほお》を赤らめて、
 
「伺ってもいいんですか?」
 
 と、訊いていた。
 
 馬鹿なこと!——あんな手にコロッと引っかかって。
 
 あのひどい雨の中を、わざわざ出かけて行った。ずいぶん遠かったのに。
 
 写真集は、確かにあったが、そう大したものとも思えなかった。
 
 でも、片倉は分っていた。智子の興味が、むしろ独身男のマンションを一人で訪ねるという「冒険」の方にあるのだということ。そして、姉に黙ってやって来るに違いないということも。
 
 ——君はプレゼントだ。
 
 あの片倉のセリフが思い出されて、智子は思わず目を閉じた。
 
 そこまで! もう、その先は思い出さなくていい。何もかも、終ってしまったことだ。
 
 警察の捜査は行き詰っている。おそらくあのまま迷宮入りということになるだろう。
 
 だが、その一方で、良子が殺された事件がある。たぶん……何の関係もないだろうが。
 
 ただ良子が、片倉のことを何か知っている様子だったのが気にかかる。
 
 片倉に、「気に入った女子学生に手を出す」以外の秘密が、あったのだろうか? あったとすれば、それは何だったのか。
 
 ——智子は、ソファから立ち上り、絵の続きを眺めて行った。
 
 前にも来たことがあるので、大体どんな絵があるかは分っている。それは、慣れた散歩道を歩くのにも似た安心感を、与えてくれるのだった……。
 
 一時間半ほどいて、智子は外へ出た。出口のすぐわきが、小さなティールームになっていて、ここのケーキは意外といける。
 
 智子は一人で、テラスになった場所のテーブルに座ると、そのケーキと紅茶を頼んだ。
 
 ——休み、って感じだ。
 
 こうして、誰にも邪魔されない、何の予定もない時を過すのが、休みというものだろう。
 
 目の前の道も、車は一応通るが、交通量が少ないので、さして気にならない。
 
 そして——ふと、智子は路上に駐車した車に目を止めた。
 
 何をしているのか……。ありふれた中型車に男が一人乗っていて、週刊誌を広げている。智子はほんのチラッとだが、その男が自分の方を見ているような気がしたのである……。
 
 気のせいだろう。——そう。心配することなんか何もない。
 
「——お待たせしました」
 
 ウエイトレスがケーキと紅茶を置いて行くと、「ごゆっくりどうぞ」
 
 と一言かけてくれる。
 
 この一言が、智子には嬉《うれ》しい。こんな一言でも、つい面倒くさがって、言わない人が多いというのに。
 
 ケーキは、ほんの三口ほどで食べてしまう。紅茶をそのまま、砂糖も入れずに飲み始めたとき、ふっと日がかげった。
 
 見上げると、少し雲が出ている。——さっきはきれいに晴れていたのに。
 
 でも、雨は降らないだろう。用心深い智子は、少しでも危いと思うと、傘を持って歩くタイプだ。
 
 その智子でも、今日のところは——。
 
 傘……。傘が……。
 
 スーッと顔から血の気がひいて行った。
 
 忘れていた! 傘のことを。
 
 あの日は、行くときから、かなり降っていて……。もちろん、傘をさしていた。
 
 その傘を、どこへ置いて来ただろう? 片倉を殺して、マンションを飛び出し、雨の中を突っ走って——。
 
 傘のことなんか、思い出しもしなかったのだ。
 
 どこへ置いただろう? 傘……。どの傘を持って行ったか。
 
 必死に思い出そうとした。——あの黒い傘? 星のちりばめられた。いや、そうじゃない。あれはあの後も使っている。
 
 どうして、考えつかなかったんだろう!
 
 雨の日はあれからも何日かあって——少なかったことは事実だが——どれにしようか、なんて選んでいたのに。
 
 片倉の所へ傘を忘れて来たことは、思い付きもしなかった。
 
 そう……。あのときは、確か——。少し可愛い傘にしようと……。
 
 あれだ。高校一年のとき、父がアメリカで買って来てくれた、赤い傘。そう、確かにあれを持って行った。
 
 そして——どこへ置いたろう?
 
 片倉の部屋まで持って入っただろうか。
 
 智子は必死に思い出そうとした。玄関を入ったとき、片倉が出て来て……。
 
「ずいぶん降ってるね。濡《ぬ》れてないか?」
 
 と、訊いた。
 
 あのときは——持っていなかった。
 
 下のロビー……。マンションのロビーだ。隅に傘立てがあって、そこへ入れた。きっとそうだ。
 
 ——気持を落ちつかせようと、ゆっくり紅茶を飲んだ。
 
 心臓が、びっくりするほどの速さで打っている。
 
 あの赤い傘には、名前が入っている。一時学校へ持って行って、名前がないと、よく他の子が勝手にさして帰ったりするからだ。
 
 もし、あの傘に警察が目をつけていたとしたら、当然今ごろは智子の所へやって来ているだろう。
 
 そうでないということは……。
 
 考えてみれば、ロビーの傘立てにポンと傘が一本入っていたところで、それと殺人事件を結びつける理由はない。誰が入れたか分らないのだし、何日かたって、管理人がしまい込んでしまっているかもしれない。
 
 ——どうしよう?
 
 智子は考え込んだ。
 
 傘を受け取りに行く? 却って、事件と関係があると教えるようなものだ。
 
 でも……もしかして、まだそのまま傘立てに入っていたら?
 
 その可能性も充分にある。何といっても、マンションには色んな人間が出入りしているのだから。しばらく入れっ放しになっていたとしても、誰も気にとめないだろう。
 
 智子はそっと、駐車していた車の方へ目をやったが——もう、車は見えなかった。
 
 大丈夫。刑事が監視しているわけじゃなかったのだ。
 
 智子は腕時計を見た。まだお昼だ。充分に時間はある。心配しているよりは……。
 
 智子は立ち上ると、伝票を手に、小さなレジの方へと歩いて行った。
 
 
 
 確かに、勝手口は簡単に開いた。
 
「板も割れてないし、元の通りにしときゃ、入ったことは分らないわよ」
 
 と、由布子が言った。「さ、入って」
 
 狭くて、ろくに手入れもしていない雑草だらけの庭を抜け、二人は古い家の中を覗き込んだ。
 
「いつまでも外にいるわけにはいかないわ」
 
 と、由布子が言った。「ともかく中へ入らなきゃ」
 
「でも、鍵、かかってるでしょ」
 
 と、聡子は言った。
 
 由布子の手前、平気なふりはしているが、心臓が飛び出すかと思うほど、高鳴っている。
 
「古い家ってね、私のとこも前はそうだったから分るんだけど、一つや二つ、どうしてもきちんと閉らない窓とか、あるもんなのよ」
 
 由布子はまるで「その道」のプロみたいな冷静さで、一つ一つの窓を調べて行った。
 
「——ほら」
 
 ガタッと窓が一つ、簡単に外れた。そっと下へ下ろすと、
 
「お風呂場だ」
 
 と、中を覗く。「——ここから入ろう。出るのはどうにでもなる」
 
「うん……」
 
 窓をのり越えると、古びたタイルの上に降りる。湿っぽい匂いがした。
 
「窓は?」
 
「大丈夫。見えないわよ、よそからは」
 
 中へ入って、さてどうするのか。聡子には見当もつかなかった。
 
「山神先生が片倉先生を恨《うら》んでた、って証拠を見付けることね。書斎っていうか、仕事机があるはずだわ」
 
 古い家だけに広い。しかし、二階へ上った二人は、寝室らしい六畳間に、座り机を見付けた。
 
 書きかけの手紙。ボールペン。
 
「この机だ。——日記帳とかあるといいけどね」
 
 由布子は引出しを開けた。中は雑然としている。
 
「聡子、その本棚とか、調べてみてよ」
 
「あ——うん。ここね」
 
 本棚か。こんなもの見たところで……。
 
 適当に、本の奥を覗いてみたりしていると——。箱に入った文学全集の一巻が、いやに軽い。
 
 とり出してみると、箱の中には、ノートとか手紙が束になって入っていた。
 
「これ、何だろう?」
 
 と、由布子へ声をかける。
 
 立って来て、由布子は一目見ると、
 
「いわくありげ。持って行こう」
 
 と中身をスッポリ抜いて、ポケットからとり出した布の袋へ入れる。
 
「いいの?」
 
「どうせ家宅侵入よ、同じこと」
 
 と、由布子は肩をすくめて、「こっちも、役に立ちそうな物、見付けたわよ」
 
「何?」
 
「写真」
 
「写真?」
 
「机の引出しの下に敷いたビニールシートをめくったら、下に封筒が入ってた」
 
 由布子が、その封筒の中身を出す。
 
 写真だ。——山神のではない。
 
「片倉先生……」
 
 そう。片倉の写真だった。
 
「隠しどりしてるね」
 
 と、由布子は言った。「車から出たところか乗るところか……」
 
 もう一枚の写真を見て、二人は一瞬、言葉を失った。
 
 前の写真の続きである。車から出た片倉、そして続いて降りて来た女……。
 
「——片倉先生と?」
 
「らしいわね」
 
 由布子の声には、やや動揺が見えた。
 
 それは片倉と、さっき二人がすれ違った山神の妻の写真だったのである。
 
 そのとき、階下で、ガチャッと玄関の鍵の開く音がした。
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