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魔女たちの長い眠り04

时间: 2018-08-27    进入日语论坛
核心提示:4 しくじった男 眠《ねむ》りの浅かったことが、結局、命を救ったのだった。 いつもそう、というわけではない。だいたい、男
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 4 しくじった男
 
 眠《ねむ》りの浅かったことが、結局、命を救ったのだった。
 いつもそう、というわけではない。だいたい、男に抱《だ》かれた後はぐっすり眠り込《こ》むのがいつものパターンだった。だから、ホテルから大学へ行くこともしばしばである。
 といって、誤解されるかもしれないので、言い添《そ》えると、宮田信江は、やっと二十歳《さい》であり、それに、年中違《ちが》う男とホテルへ来ているわけでもない。当人に言わせれば、
「まだたったの三人」
 であり、それは友人たちの間では、「少ない方」だということだった。
 初めての体験は大学へ入った年の夏休み、という、あまりにもお定まりのパターンで、気《き》恥《は》ずかしくなるくらいだ。でも、当人はそれなりに緊《きん》張《ちよう》もし、期待もし、感《かん》激《げき》もして、落《らく》胆《たん》もした。
 でも、少なくとも姉さんを追《お》い越《こ》したんだわ、などと妙《みよう》なところで自分を満足させたりしたものである。
 どう考えたって、六つ年上の尚美が、男と同《どう》棲《せい》してるなんて、信江には考えられなかった。ともかく、六歳の違いは、セックスに対して、決定的と言えるくらいの意識の差をもたらしていたのだ。
 でも、信江だって、男なら誰《だれ》とでも、というわけでないのは、もちろんである。だったら、三人じゃとても済まないだろう。
 姉の尚美に比べ、信江はふっくらとして目の輝《かがや》いた、目立つ娘《こ》だったからだ。
 三人の男とは、一応、真《しん》剣《けん》に付き合い、かつ真剣に別れた(というのも妙な言い方になるが)。いや、三人目とは別れていない。
 現に今、その男に抱《だ》かれて、まどろんでいるところなのだ。
 信江は、本当は東京の大学へ行きたかった。理由はホテルが沢《たく》山《さん》あるから——ではもちろんなくて、アルバイトをするのに便利だろうと思ったからだ。
 家も、金持ではないし、もちろん姉の尚美も、自分の生活で手《て》一《いつ》杯《ぱい》だ。この地方都市では、アルバイトの口といっても限られている。しかも学生の数は多いと来ているのだ。
 それでも信江はまあ幸運な方だった。家庭教師の口と、ファーストフードの店の売子というバイトを確保してあった。家からの仕送りは、学費でほとんど消えるのだ。
 信江は学生としては極めて真《ま》面《じ》目《め》である。授業にも出るし、テストも好成績だった。ただしどこかで疲《つか》れや苛《いら》立《だ》ちを爆《ばく》発《はつ》させなくては、やり切れなくなるときもある……。
 ——本《もと》沢《ざわ》がシャワーを浴びる音がしていた。
 珍《めずら》しい。いつもなら、私が起すまで、グウグウ寝《ね》てるのに。
 信江は大《おお》欠伸《あ く び》をした。それから、毛布の下で、裸《はだか》の手足を思い切り伸《の》ばした。
 ——こういう小さな都市では、こういうホテルも多くはない。しかも学生が利用できる料金で、となると、せいぜい三つ。——おかげで、時々同じ大学の学生と顔を合わせるのが辛《つら》いところである。
 しかし、今の恋《こい》人《びと》、本沢武《たけ》司《し》は、学生ではない。信江の働いているファーストフードの店にやって来て、知り合った男である。三か月くらい前になるか。
 信江は、ちょうど前の恋人と、別れたばかりで、少々やけになっていた。
 いやに毎日、同じ時間に来る客だな、と思っているうち、決って信江に注文を言うことに気が付いた。立ち食いコーナーで、立ったままコロッケパンなどをかじりながら、いつも信江を見ている。——悪い気はしなかった。
 店がいつ終るのか、訊《き》かれたのは、十日くらいたってからだろう。
 見たところ、せいぜい二十三、四というところで、学生っぽい雰《ふん》囲《い》気《き》の若者だった。信江は、どちらかというとやせ型の男の方が好みで、その点でも、本沢は合格だったのだ。
 どうせ向うも遊び半分なんだろうから、と、一度、スナックに寄った後、このホテルへ入った。
 それから三か月続いている。もちろん、毎日ではない。でも、週に二度は来ていた。よくお金があるものだと信江は至って現実的な点で感心していたのである。
 あれこれ話して、本沢が、信江の故郷の町に近い所に住んでいたことも分った。こういう偶《ぐう》然《ぜん》は、人の心を近づけるものだ。
 そうパッと目立つ二枚目とか、秀《しゆう》才《さい》タイプではないが、いかにも人のいいところが、信江にとって、気楽に会っていられる相手だった。目下のところ、信江も自分がかなり本沢に惚《ほ》れ込《こ》んでいるのを、認めないわけにはいかなかった……。
 でも——と、寝《ね》返《がえ》りを打ちながら、信江は思った。今日の彼《かれ》は、ちょっといつもと違《ちが》ってる。どことなく、沈《しず》みがちで、神経質になっているようだった。
 まるで、これが最後、とでもいうみたいに、のめり込んでいた。——どうしたのかしら。
 ふと、信江は不安になった。別れよう、と言い出すのだろうか。
 せっかく、落ちついているのに!
 あんまり無理は言うまい、と思った。そこは若さの見《み》栄《え》っていうものだ。けれども、もしそうなったら、かなりショックには違いない。ともかく、もし彼がそう言い出しても、プーッとふくれたり、わめいたりせず、穏《おだ》やかに、その理由を聞こう。
 これまでは、互《たが》いに言い合いをして、気まずく別れるというパターンだったのだ。今度は、きちんと——というのも妙《みよう》だが——納《なつ》得《とく》した上で、気持よく……。まだ別れ話と決ったわけではないのに、と信江は苦笑した。
 早手回しに、そこまで考えるのは、要するに、別れたくないという気持の裏返しなのだろう。——早い話、信江は本沢に惚れているのである。
 本沢がバスルームから出て来た。信江は、目を閉じて、静かに眠《ねむ》っているふりをした。
 本沢が、ベッドの方へ近付いて来て、そっと覗《のぞ》き込んでいるのが、気配で分る。——しばらくそうしていた本沢は、やがて、深いため息と共に、ベッドから離《はな》れた。
 信江は、細く目を開けた。本沢が、バスタオルを腰《こし》に巻いただけの格《かつ》好《こう》で、椅《い》子《す》に座り、前かがみに垂れた頭をかかえている。
 やはり、何か悩《なや》んでいることがあるのだ。信江は声をかけようかと思った。しかし、気楽に、どうしたの、と呼びかけられない何かが、本沢の背中に感じられる。
 信江は、少し頭を反対側の方へ向けた。
 こういうホテルの部屋には、いくつもの鏡がある。あまり良く磨《みが》いてあるとは言えなかったが、その鏡に、本沢の姿が映っていて、しかも顔は反対の方を向いているから、起きていると気付かれることもない。薄《うす》目《め》を開けて、信江は、鏡の中の本沢を見つめていた。
 しばらく何やら思い悩んでいる様子だった本沢は、いきなり立ち上ると、バスタオル一つの格好のままで、部屋の中を、歩き回り始めた。
 迷っているというか、歩き回ることで、何かから逃《に》げたいとでもいう様子だった。
 何やら、ブツブツと呟《つぶや》いている声も耳に入って来る。ほとんど聞き取れないのだが、
「とてもできない……」「しっかりしなきゃ——」といった断片が、何とか聞き分けられた。
 一体何を考えているんだろう? 信江は、さっぱり分らなかった。
 本沢が足を止め、ベッドの信江の方に目を向けた。もちろん、信江が薄目を開けていることには、まるで気付かないようだ。
 やっと、思い切ったように、本沢は素《す》早《ばや》く、部屋の隅《すみ》に置いた、自分のスポーツバッグを取って来ると、床《ゆか》に置いて、開いた。
 中を探って、奥《おく》の方から、ビニールにくるんだものを取り出す。——何をやってるのかしら、と信江は眉《まゆ》を寄せた。
 本沢は、ビニールの包みを、床の上に、そっと広げた。——それが鏡の中に映ったとき、信江は目を疑った。
 そこに、二つの物が並んでいた。一つは、比《ひ》較《かく》的ありふれた物——ハンマーだった。ただ、かなり大きなものだ。
 そしてもう一つは……。杭だった。
 そうとしか呼べない。長さはせいぜい七、八十センチのものだろうが、その身を半分ほど、先《せん》端《たん》に向って、削《けず》ってあり、先は鋭《するど》く尖《とが》っているのだ。
 そう、ちょうど、よく怪《かい》奇《き》映画で、吸《きゆう》血《けつ》鬼《き》の胸に打《う》ち込《こ》む、あんな杭《くい》なのである。
 一体何をする気なんだろう? 信江は、怖《こわ》いよりも、呆《あつ》気《け》に取られていた。
 本沢は、その二つの奇《き》妙《みよう》な品物を、またじっと見《み》据《す》えていたが、やがて、大きく息をつくと、左手に杭を、右手にハンマーを握《にぎ》りしめ、立ち上った。
 まさか……。冗《じよう》談《だん》じゃないわよ!
 信江は、本沢が、まるで別人のように、顔をこわばらせ、脂《あぶら》汗《あせ》を浮《う》かべながら、ハンマーと杭を手に、ベッドの方へ近づいて来るのを、信じがたい思いで見ていた。
 あれを——まさか私に? 私、吸血鬼じゃないのよ! ニンニクだって大好きなんだからね!
 これはきっと何かのジョークだ、と信江は思った。ただ、私をびっくりさせようというだけの……。
 しかし、青ざめて、タラタラと汗《あせ》を流している本沢の顔は、どう見ても冗《じよう》談《だん》ではなかったし、その震《ふる》える手に握《にぎ》られた杭は、正《まさ》に、信江の裸《はだか》の胸に降ろされようとしていた。
「何すんのよ!」
 と、叫《さけ》ぶと同時に、信江は、本沢の手を払《はら》った。
 これには本沢の方が仰《ぎよう》天《てん》したらしい。
「ワッ!」
 と声を上げると、杭とハンマーを放《ほう》り出して、引っくり返ってしまった。
 しかも、その拍《ひよう》子《し》にバスタオルが外れる。信江はベッドから裸で飛び出すと、
「ふざけるな!」
 と叫んで、思い切り、本沢の股《こ》間《かん》をけとばしてやった。
 本沢は、ウッと一声うめいて、そのまま、半ば失神してしまったらしかった……。
 
「——あなたが、そんな変質者だなんて思わなかったわ」
 と、信江は仏《ぶつ》頂《ちよう》面《づら》 で言った。「何か言いたいことがあれば聞いてあげる」
 ——数分後のことである。
 信江はちゃんと服を着て、椅《い》子《す》にかけ、あのハンマーと杭《くい》を膝《ひざ》の上に置いていた。
 一方の本沢の方は——何とも惨《みじ》めなもので、裸《はだか》のまま、手足をガウンのベルトで縛《しば》り上げられて、壁《かべ》にもたれて座らされているのだった。しばらくは痛さのあまり、口もきけなかったらしい。
「僕《ぼく》を……どうするんだい」
 と、本沢は、弱々しい声で訊《き》いた。
「もちろん、警察へ突《つ》き出《だ》すわよ」
「警察へ?」
 本沢は、なぜか、表情を明るくした。「ここで殺さないの?」
「私、人殺しの趣味ないの」
 と、信江は言い返した。「本当に——がっかりさせるわね、全く! やっといい男性に巡《めぐ》り会ったと思ったら、吸《きゆう》血《けつ》鬼《き》退治気取りの妄《もう》想《そう》狂《きよう》だなんて。私、凄《すご》いショックなのよ! 分る? 泣きたいくらいだわ、本当に」
「——良かった」
 と、本沢が、呟《つぶや》いた。
「何が良かったのよ」
「君を殺さなくて、さ。君はまだ大《だい》丈《じよう》夫《ぶ》だったんだ」
「何を言ってんの?」
「でも——いつか君もあの町へ帰る。そうだろう?」
 本沢は、信江を見た。「僕を警察へ突き出してもいい。でも、あの町へは帰っちゃいけない」
「町って——私の生れた町?」
「そう」
「どうして、帰っちゃいけないの?」
「あそこはね、恐《おそ》ろしいことになってるんだ。君は信じないかもしれないけど——」
「信じないわよ、私を殺そうとした人間を信じられる?」
 本沢は、目を伏《ふ》せた。
 信江は、少し間を置いて、
「——一体何が言いたいの? こんなものでどうしようっていうの?」
 と、杭《くい》とハンマーを持ち上げて見せた。
 本沢は、真《ま》顔《がお》で、信江を再び見た。——もう、そこには、落ちつきが戻《もど》っている。
「それで、滅《ほろ》ぼさなきゃいけないんだ」
「何を? 吸《きゆう》血《けつ》鬼《き》でも退治するって言うの?」
「そうだ」
 本沢は肯《うなず》いた。
「——あなた、本当にイカレちゃったの?」
「冗《じよう》談《だん》でも何でもない。君の生れた町は、今、吸血鬼の町になっているんだ」
 信江は笑いたかったが、笑えなかった。少なくとも、本沢が本気でしゃべっているらしいことだけは、分ったのだ。
「吸血鬼の町?」
「——みんながみんな、そうじゃない。しかし、奴らが支配していることは間《ま》違《ちが》いないんだ」
「信じられっこないわ、そんな話」
「そうだろうね」
 と、本沢は肯《うなず》いた。「当り前だろう。しかし、君、お母さんが亡くなったと言ったね」
「ええ」
「しかし、君のお父さんは、君に、町へ帰って来るなと言ったんだろう」
「そうよ」
「理由を言ったかい?」
「いいえ」
 信江は首を振《ふ》った。「訊《き》いても、はっきり言わなかったわ。ただ……」
「——ただ?」
「町がすっかり変ったんだよ、って」
「じゃ、君のお父さんはまだ大《だい》丈《じよう》夫《ぶ》なんだ。だから、君に帰って来るなと言った」
「大丈夫って?」
「まだ奴《やつ》らにやられていない。しかし——お母さんは危いね。まだ若かったんだろう。可能性がある」
「可能性? 何の?」
「あいつらにやられた可能性が、さ」
「——まさか」
「うん、君がそう言うのは当然だ。ただ、あの町には帰らない方がいい。これだけは憶《おぼ》えていてくれ」
 信江は、しばらく本沢を眺《なが》めていた。
「さあ、早く、警察を呼んでくれよ」
 と、本沢は言った。
 信江は、立ち上ると、部屋の電話の方へ歩いて行き、受話器を上げた。
「——あ、三〇五号ですけど……」
 信江は、ちょっと本沢の方を見て、それから、言った。「少し、時間を延長したいんです。よろしく——」
 本沢がびっくりしたように、信江を見た。
 信江は、椅《い》子《す》に戻《もど》った。
「あなたを信じてるわけじゃないわよ。ただ、話を聞いてみたいだけ」
「ありがとう」
 本沢は、少しホッとした口調で言った。
「あなた、どこでそんな話を聞いたの?」
 と信江は訊《き》いた。
「その前に、悪いけど……」
「なあに?」
「タオルをここへかけてくれないか? どうも落ちつかなくて……」
 信江は、ちょっと頬《ほお》を赤らめると、バスタオルを、本沢の方へ投げてやった。
「ありがとう。——僕《ぼく》はね、いい加《か》減《げん》な噂《うわさ》でそんなことを信じるほど、非科学的な人間じゃないよ」
「それじゃ、どうして?」
「僕は聞いたんだ」
 と、本沢は言った。「——彼《かれ》らが町の人々を、恐《きよう》怖《ふ》心《しん》で支配して行くのを、ずっと見ていた人間からね」
「吸《きゆう》血《けつ》鬼《き》が? でも、そんなものがどこにいるっていうの?」
「〈谷〉だよ」
 信江はハッとした。
「〈谷〉を知ってるの?」
「君は知ってるのか?」
「誰《だれ》がいるのかは知らないわ。ただ、小さいころ、よく聞かされた。〈谷〉の人間に近づくなって……」
「僕が話を聞いた娘《むすめ》のことを話してあげよう」
 と、本沢は言った。「信じてくれなくても、それは仕方ない。ともかく聞いてくれないか。——今でも、僕はあのときのことを思い出すと、サッと青ざめるくらいなんだ……」
 本沢は、宙に目を向けて語り始めた。
 信江は、少し前かがみに乗り出すように座って、耳を傾《かたむ》けた……。
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