日语童话故事 日语笑话 日语文章阅读 日语新闻 300篇精选中日文对照阅读 日语励志名言 日本作家简介 三行情书 緋色の研究(血字的研究) 四つの署名(四签名) バスカービル家の犬(巴斯克威尔的猎犬) 恐怖の谷(恐怖谷) シャーロック・ホームズの冒険(冒险史) シャーロック・ホームズの回想(回忆录) ホームズの生還 シャーロック・ホームズ(归来记) 鴨川食堂(鸭川食堂) ABC殺人事件(ABC谋杀案) 三体 失われた世界(失落的世界) 日语精彩阅读 日文函电实例 精彩日文晨读 日语阅读短文 日本名家名篇 日剧台词脚本 《论语》中日对照详解 中日对照阅读 日文古典名著 名作のあらすじ 商务日语写作模版 日本民间故事 日语误用例解 日语文章书写要点 日本中小学生作文集 中国百科(日语版) 面接官によく聞かれる33の質問 日语随笔 天声人语 宮沢賢治童話集 日语随笔集 日本語常用文例 日语泛读资料 美しい言葉 日本の昔話 日语作文范文 从日本中小学课本学日文 世界童话寓言日文版 一个日本人的趣味旅行 《孟子》中日对照 魯迅作品集(日本語) 世界の昔話 初级作文 生活场境日语 時候の挨拶 グリム童話 成語故事 日语现代诗 お手紙文例集 川柳 小川未明童話集 ハリー・ポッター 新古今和歌集 ラヴレター 情书 風が強く吹いている强风吹拂
返回首页
当前位置: 首页 »日语阅读 » 日本名家名篇 » 赤川次郎 » 正文

魔女たちの長い眠り05

时间: 2018-08-27    进入日语论坛
核心提示:5 背負われた少女 霧《きり》が、渓《けい》谷《こく》へ流れ込《こ》んでいた。 テントから出た本《もと》沢《ざわ》は、思
(单词翻译:双击或拖选)
 5 背負われた少女
 
 霧《きり》が、渓《けい》谷《こく》へ流れ込《こ》んでいた。
 テントから出た本《もと》沢《ざわ》は、思わず身《み》震《ぶる》いした。
「寒い!」
 夏とは思えない、冴《さ》え冴《ざ》えと冷たい朝の空気が、本沢を包み込んだ。いや、まだ朝というには少し早いくらいの時間なのだ。
 本沢は頭を振《ふ》った。——一度に目が覚めたという気分である。
 流れの方へ、岩伝いに降りて行くと、ゆっくりと白い霧が流れて来た。
 本沢は、平らな岩に腰《こし》をおろして、山の静《せい》寂《じやく》に、身を任せてみた。もちろん、岩を洗う流れの音は、足下に絶え間なく聞こえているのだが、それは「音」というより、一つの「状態」とでも呼ぶべきもので、少しもうるさくは感じられない。
「いいなあ……」
 と、本沢は呟《つぶや》いた。
 山《やま》間《あい》の渓谷にキャンプして、ゴツゴツした所で眠《ねむ》ったというのに、一《いつ》旦《たん》こうして目が覚めてみると、実に爽《そう》快《かい》だった。霧が時《とき》折《おり》自分を包んで流れて行くなんて、こんな経験は、都会にいたんじゃ、とても味わえないだろう。
 そそり立つ崖《がけ》。その上に、やがて色づこうとする、乳白色の空が見えている。
 来て良かった、と本沢は思った。
 ——本沢は、もう一人、大学の友人、桐《きり》山《やま》努《つとむ》 と一《いつ》緒《しよ》に、ここへ来ている。桐山は、まだ眠り込んでいた。
 二人とも四年生の二十三歳《さい》。どちらも一《いち》浪《ろう》して入学したので、来春卒業の予定である。
 どちらかというと、本沢はこの山歩きに消極的だった。大体が、都会の楽な生活に慣れ切ってしまって、至って出《で》不《ぶ》精《しよう》な人間なのだ。
 桐山の方がその点は熱心で、
「最後の夏休みだぜ」
 と、本沢を説き伏《ふ》せたのだった。
 まあ、都会生活に毒されている点、本沢も桐山も、そう差はないはずだが、ただ、何となく成り行き任せという性格の本沢と比べて、桐山は、「けじめをつけたい」というタイプであり、四年の夏休みには、やはり何かそれなりの記念行事が必要だ、と考えていたのだ。
 こういう思いは理《り》屈《くつ》ではない。その人間の「タイプ」なのである。
 ——というわけで、本沢も桐山に付き合って、というよりは付き合わされて、ここまでやって来たのだった。
 正直なところ、来てみるまでは気が重かったのだが、こうして、東京にいると、まず考えられないような早い時間に起き出して、排《はい》気《き》ガスの匂《にお》いもタバコの匂いもしない朝の大気に触《ふ》れてみたら、来て良かった、という気になるのだった。
 この素《す》直《なお》なところが、本沢のいいところかもしれない。
 もちろん、山歩きといったって、二人とも登山家でも何でもない。要するにハイキングとキャンプ、というだけのもので、それも三日間。あまり長くは「文化生活」から離《はな》れられないのである。
 そして、今日はもちろん最終日だった。
 この朝、本沢が、いやに感傷的な気分になっていたのも、そのせいかもしれない。
 霧《きり》が来て——霧が去る。
 その、白と透《とう》明《めい》の交《こう》替《たい》は、奇《き》妙《みよう》に幻《げん》想《そう》的で、魅《み》惑《わく》的だった。
 霧が、跡《と》切《ぎ》れた。少し、風が吹《ふ》いて来たが、それは朝の暖かさを含《ふく》んだ風だった。
 空が、少しずつ青味を増している。——夜の終りがやって来たのだ。
 そろそろ桐山の奴《やつ》も起すかな、と本沢は思って、テントの方を振《ふ》り向いた。まだ起き出して来る気配はない。
 渓《けい》流《りゆう》の方へ目を戻《もど》した本沢は、一《いつ》瞬《しゆん》、戸《と》惑《まど》った。流れが見えない。
 いや——濃《こ》い霧が、アッという間に押《お》し寄せて来ていたのだった。思わず岩の上に立ち上ったが、テントの方へ戻る間はなかった。
 考えてみれば、たかが霧ぐらいでテントへ逃《に》げ帰る必要などないのだが、一瞬、反射的に逃《に》げ出《だ》したいと思わせるほど、その霧《きり》は突《とつ》然《ぜん》、圧《あつ》倒《とう》的な厚みを持って包み込《こ》んで来たのである。
 考える間もなく、霧の中に呑《の》み込まれて、本沢は、その場に座り込んだ。立っていると、押《お》し流されてしまうような気がして、恐《おそ》ろしかったのである。
 どうして急にこんな凄《すご》い霧が……。本沢は息すら殺して、身を縮めていた。
 早く通り過ぎてくれ、早く行ってしまえ! 本沢はそう祈《いの》った。
 途《と》方《ほう》もなく長い時間のような——いや、実はほんの一分か、もっと短い何十秒かだったろう。霧は、嘘《うそ》のように晴れた。
 本沢は、大きく息をついた。——びっくりしたよ、全く!
 あんな霧が、山を歩いているときに襲《おそ》いかかって来たら、道を見失ってしまうだろう。やっぱり怖《こわ》いもんだな、と、改めて思った。
 もちろん、こんなハイキング程度のことでは、「自然の脅《きよう》威《い》」に出くわすなんてことはまずないが、あまりそういう経験のない都会人間としては、「たかが霧」にも目を丸くしてしまうのである。
 もうテントに戻《もど》ろう。本沢は、岩から降りると、歩き始めた。
 どうして足を止めたのか、本沢もよく分らない。誰《だれ》かが、見ている。その視線を、背中に感じた。
 まさか! 誰がいるんだ? 後ろには、ただ川の流れがあるだけなのに……。
 本沢は振《ふ》り向いた。——白いものが、水の盛《も》り上る岩の間に見えた。
 それが何なのか、すぐには本沢にも分らなかった。白くすべすべしたもの、そして、流れを染めるように波打っている黒いもの……。
 それは人間だった。
 本沢は目をこすった。幻《まぼろし》かと思った。しかし、一《いつ》旦《たん》人間と分ると、それははっきりした形を取って、本沢の目に映った。
 黒い髪《かみ》が長く流れに引かれている。——女だ。しかも、岩の間に、突《つ》っ伏《ぷ》すように、倒《たお》れたその姿は、素《す》肌《はだ》のままの裸《ら》体《たい》だった。
「——大変だ」
 と、本沢は呟《つぶや》いた。
 すぐに助けるべきだったのに、あわててテントに向って駆《か》け出し、
「桐山! おい、桐山、起きろ! 出て来い!」
 と叫《さけ》んでいたことには、批判の余地もあろう。
 しかし、こんなところで、思いもかけぬものに出くわした本沢の身になってみれば、あわてふためくのも無理からぬことである。
 ちょうど桐山も、起き出したところだった。
「——何だよ、うるさいな」
 と、テントから顔を出す。
「誰《だれ》か川に——流れついてるんだ! 早く来てくれ!」
「誰か——って、誰が?」
 桐山はキョトンとして訊《き》いた。
「いいから早く! 助けなきゃ!」
 やっと、このときになって、本沢も、助け出すのが先決だったと気付いたのだった。
 桐山をせき立てて、本沢は一足早く、渓《けい》流《りゆう》へと戻《もど》って行った。
「——女じゃないか!」
 桐山も一度に目が覚めたようだ。
「ともかく早く——」
「溺《おぼ》れてんじゃないのか? 死んでるかもしれないぞ」
「そんなこと分らねえだろ?」
「分ったよ、そうわめくな」
 と、桐山は手を振った。「ともかくテントへ運ぼう」
 二人は、うつ伏《ぶ》せになったその女性を、まず仰《あお》向《む》けにした。
「——まだ子供だ」
 桐山が言った。
 子供というほどではなかったが、確かに、どう見ても十五、六歳《さい》と思えた。ほっそりとした体つきに、胸のふくらみもまだ大人《 お と な》を感じさせない。
「ともかくテントへ運ぶんだ!」
 小《こ》柄《がら》な少女だったから、二人で頭の方と足の方をかかえると、楽に運べた。本沢は、体の冷たさにびっくりした。
 これはもう死んでるのかもしれないな、と直感的に思った。
 二人は、テントの中へ少女を運び込むと、桐山が今まで寝《ね》ていた毛布の上に、横たえた。
 二人は、ちょっとの間、どうしたものか分らず、顔を見合わせていた。
「——生きてるのかな」
 と、本沢が言った。
「脈を取ってみろよ」
「俺《おれ》が?」
「いいじゃないか」
「うん……」
 本沢は、恐《おそ》る恐る、少女の細い、ちょっと力を入れると折れそうな手首をつかんだ。そこには、微《かす》かながら、脈動が感じられた。
「脈がある! 生きてるんだ!」
 と、本沢は、ホッとして言った。
「じゃ、水を吐《は》かせて人工呼吸だ」
 と、桐山が言った。
「そうだな」
 二人は顔を見合わせた。
「——お前、やれよ」
 と、桐山が言った。「見付けたの、お前なんだからな」
「できないよ!」
 本沢が首を振る。「やり方、知らないもん。お前の方が詳《くわ》しいんだろ」
「全然知らない」
「俺《おれ》だって——」
 二人は、同時にため息をついた。
「——仕方ねえや。ともかく、冷え切ってるじゃないか、毛布でくるんで、あっためようぜ」
 と、桐山が言った。
「そ、そうだな」
 本沢が自分の毛布を持って来て、少女の体を包む。
「おい、桐山、何やってんだ」
「何だよ」
「胸に触《さわ》ったりして」
「馬《ば》鹿《か》、息してるかどうか、みてんだろ」
 ——呼吸は、正確な間合を置いて、くり返されている。
「どうする?」
 と、本沢は言った。
「うん。——ともかく、今は少しこのままにしとくしかないんじゃねえのか」
「そうだな」
 ——二人は、テントの外へ出た。
 もう、すっかり朝になっていて、青空が広がっていた。大《だい》分《ぶ》、暖かくなっている。
「とんだ拾いもんだな」
 と、桐山が言った。「タバコ、持ってるか?」
「昨日《 き の う》でなくなったよ」
「俺もだ。しょうがねえな。この辺じゃ自動販《はん》売《ばい》機《き》もないだろうし」
「ぼんやりしててもしょうがないぜ。朝飯でも作ろうや」
「カレーしかないぜ」
「我《が》慢《まん》するさ。もう今夜は東京だ」
 本沢は、伸《の》びをした。
 カレーライス、といったって、手作りというわけではない。お湯に入れて袋《ふくろ》ごと温めるだけのインスタント。ご飯の方も同様である。
 ——本沢と桐山は、出身地は別々だが、東京で一《いつ》緒《しよ》にアパートを借りている。
 男二人で料理もできず、毎日外食なので、こういう所でも、固形燃料でお湯をわかすことぐらいしかできない。
「——あの女の子、どうしたのかなあ」
 と、座り込《こ》んで、本沢が言った。
「どうした、って? 溺《おぼ》れたんだろ」
「裸《はだか》で? いくら夏でも泳ぐって陽気じゃないぜ。しかも、あの冷たい川で」
 桐山も肯《うなず》いて、
「それはそうだな。でも流されて来たには違《ちが》いないだろ」
「うん、水浴びでもしてて、流れに足を取られたのかな」
「そんなとこだろ」
 ——妙《みよう》だ、とそれでも本沢は思った。
 もし、想像の通りだとしたら……。それにしては、肌《はだ》に傷一つなかった。
 あんな岩だらけの渓《けい》流《りゆう》を流されて来たら、あちこち、ぶつけたり、こすったりして、傷だらけになりそうだが、あの滑《なめ》らかで柔《やわ》らかな肌は、すり傷一つなく、きれいだったのだ。
 桐山は、そんなことには気付いていない様子だった。
「あのまま、意識が戻《もど》らなかったら、どうしようか」
 と、本沢は言った。
「うん。——病院にでも運ぶしかないんじゃないか?」
「どこの?」
「知るかよ、俺《おれ》が」
 桐山は肩《かた》をすくめた。
「警察へ届けなきゃいけないだろうなあ」
「うん……」
 二人とも、何となく黙《だま》り込《こ》んだ。
 学生の身で、警察と関《かかわ》り合うのを喜ぶ者はあるまい。できることなら、面《めん》倒《どう》なことには目をつぶって——。本沢も桐山も、その点では至って平均的大学生であった。
「なかなか可《か》愛《わい》かったな」
 と、桐山が言った。
「ん? 何が?」
「あの子だよ。決ってんじゃねえか」
「そうか?——よく見なかったよ」
 そんなはずはない。本沢だって、あの少女を一目見て、胸ときめかせていたのである。
 しかし——今はそれどころじゃないだろう。下《へ》手《た》すりゃ死ぬかもしれないんだ。そうなりゃ、可愛いも何もなくなってしまう……。
「そろそろカレー、入れようか」
「うん」
 テントの方を向いた本沢はギョッとして、目を見張った。
 あの少女が立っていたのだ。体に毛布を巻きつけて、顔だけ出し、特大のみの虫、という感じだった。
「やあ……」
 本沢は呟《つぶや》くように言った。桐山も顔を向けて、
「気が付いたのか! 大《だい》丈《じよう》夫《ぶ》かい?」
 と声をかけた。
「ええ。——どうも」
 と、少女は言った。
 かすれて、力のない声だった。
「良かったな。寒いだろ? 何か着るもの——おい、本沢、お前、余分持ってるんじゃないか?」
「うん。でも——大き過ぎるぜ」
「裸よりいいじゃないか。貸してやれよ」
「ああ……」
 本沢は立ち上った。
「すみません」
 少女は、ちょっと目を伏《ふ》せて言った。長いまつげが震《ふる》えた。くっきりと弧《こ》を描《えが》く眉《まゆ》が、印象的だ。頬《ほお》にいくらか赤味がさして来ていた。
「腹、空《す》いてるだろ? インスタントのカレーでよきゃ、あるけど、食べる?」
 桐山の方が、気軽に声をかけている。少女は、ちょっと頭を下げて、
「いただきます。すみません」
 と言った。
 ——濡《ぬ》れたりしたときのために、余分に持っていた下着やシャツ、ジーパンなどを一《ひと》揃《そろ》い、少女へ渡《わた》して、本沢は表に出た。
「まあ良かったな、大したことなくて」
 桐山が、カレーのパックを熱湯の中へ放《ほう》り込《こ》みながら言った。
 ——数分後には、シャツの腕《うで》やジーパンの裾《すそ》をまくり上げた少女が、二人に加わって、一《いつ》緒《しよ》にカレーを食べていた。
 少女は、よほどお腹《なか》が空いていたのだろう、アッという間に食べ終えてしまうと、
「——すみません。昨日一日、何も食べてなくて」
 と、頬を赤らめた。
「それだけ旨《うま》そうに食ってくれりゃ、カレーのメーカーが喜ぶよ」
 と、桐山は笑った。
「足、痛くないか?」
 と、本沢は訊《き》いた。
 靴《くつ》下《した》ははいているものの、靴の余分まではないからだ。
「大《だい》丈《じよう》夫《ぶ》です」
 と、少女は、大分はっきりした声で答えた。
 食べ終えると、桐山と本沢は、軽く息をついて、目を見交わした。桐山が、ちょっと咳《せき》払《ばら》いしてから、言った。
「君、どこの子なんだ? まあ——事情あるんだろうから、詳《くわ》しく聞かなくてもいいけどさ。ただ——放っとくわけにもいかないし、どこか行きたい所、あるの?」
 少女は、立てた膝《ひざ》を、かかえ込むようにして、少しためらってから、言った。
「逃《に》げて、来たんです」
「ふーん、色々あったんだね」
「ご迷《めい》惑《わく》かけちゃって、済みません」
 と、少女は頭を下げた。
「そんなこと——大したこっちゃないよ。なあ?」
 本沢も、やっと口を開いて、
「どうせこっちも今日は東京へ帰るだけで、急いでるわけじゃないんだ。どこか町まで……。俺《おれ》、おぶってやるよ」
 少女は、ちょっと微《ほほ》笑《え》んだ。いやに幼く見えた。本沢の胸が、何だか分らないけど、キュッと痛んだ。
「町へ出りゃ、靴ぐらい売ってんだろ」
 と、桐山が言った。「荷物も大分減《へ》ったしな。よし! 一休みしたら、出かけるか」
 ——少女は、二人がテントを片付け、荷物をできるだけ小さくまとめるべく四苦八苦しているのを、黙《だま》って眺《なが》めていた。
「——やれやれ、こんなもんかな」
 と、桐山が息をついた。「よし。じゃ、出かけようか」
 本沢が、少女の方へ歩いて行くと、
「さ、おぶってやるよ」
 と、手を伸《の》ばした。
 少女が、その手に自分の手をあずけて、立ち上る。本沢は、背中に少女をおぶって、
「この程度なら、荷物より楽だな」
 と笑った。
「途《と》中《ちゆう》で代れよ」
 桐山が笑って言い返した。
 二人——いや、少女を含《ふく》めた三人は、岩だらけの道を、ゆっくりと辿《たど》り始めた。
「——僕《ぼく》は本沢っていうんだ。あいつは桐山。君、名前は?」
 と、本沢は背中の少女に訊《き》いた。
「——あきよ」
 と、少女は言った。
「あきよ?」
「季節の『秋』と、『世の中』の『世』……」
「秋世か。いくつ?」
「十七です」
 少女はそう言ってから、少し間を置いて、言った。「私のこと、東京まで連れて行ってくれませんか」
轻松学日语,快乐背单词(免费在线日语单词学习)---点击进入
顶一下
(0)
0%
踩一下
(0)
0%