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南十字星21

时间: 2018-09-06    进入日语论坛
核心提示:21 広告は呼ぶ「何だと?」 電話を聞いて、志村は言葉を失った。「さら」「さらわれちゃったの」 と、ルミ子が言った。「さら
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 21 広告は呼ぶ
 
 
「何だと?」
 電話を聞いて、志村は言葉を失った。「さら……」
「さらわれちゃったの」
 と、ルミ子が言った。
「さらわれた……。皿が割れたわけじゃないんだな」
 奈々子が聞いたら怒っただろう。
 ここは志村のオフィス。——国際電話というので急いで取ったら、このニュースだ。
「で……何か手がかりは?」
「犯人が身代金でも要求して来ればともかくね。今のところ何の連絡もないの」
 と、ルミ子が言った。
「もし、金を要求して来たら、すぐに言って来い。命にはかえられん。いくらでも出すからな」
「うん。——あ、お姉さんが戻《もど》って来たわ」
「美貴に、元気を出せ、と言っといてくれよ」
「分った。また連絡する」
 ルミ子からの電話は切れた。
「——やれやれ」
 志村は、ため息をついた。「何てことだ!」
 志村としては、自分が説得して、あの奈々子を美貴に同行させたのだから、責任を感じるのも当然である。
「困ったものだ……」
 と、呟《つぶや》いて、考え込んでいると、
「——失礼します」
 と、秘書が入って来た。
「何だ?」
「お客様です」
「誰だ?」
「野田様という方ですが」
「野田……。そうか。通してくれ」
 と、志村は言った。
「——どうも」
 と、入って来たのは、野田悟である。「やあ、どうかね」
 と、志村は言った。「かけたまえ」
「すぐ失礼します」
 と、野田は軽く腰をおろして、「美貴さんが、あっちへ行かれたというのを聞いたので」
「うん、そうなんだ」
「何かつかめたようですか」
 野田の質問に、志村はすぐには答えなかった。
「——実はね」
 と、志村は言った。「もう一人、行方不明になった」
「え?」
「君も知ってたな。浅田奈々子という娘」
「ええ。喫茶店で働いてた子でしょ」
「美貴についていてもらおうと、同行してもらったら……」
「あの子が消えたんですか」
 と、野田は目をパチクリさせている。
「どうやら、誘《ゆう》拐《かい》されたらしい」
 と、志村が言うと、野田は言葉もない様子だった。
 志村は、少し考え込んでいたが、
「君——忙しいだろうね」
「僕ですか」
「うん。もしできたら、またドイツへ行ってくれないか」
「しかし……」
 と言いかけて、野田は、ちょっと肩をすくめると、「分りました」
「行ってくれるかね」
「はい。あの子のことも心配です」
「金ですむことなら、まだいいんだが……」
 志村は、そう呟《つぶや》いてから、「じゃ、仕《し》度《たく》ができ次第、出発してくれ」
 と、言った。
 
 ところで——誘拐された奈々子の方は、といえば……。
「一、二、一、二……」
 ハアハア息を切らしながら、体操しているのは、やはり、いざという時、あの二人をやっつけるため——かといえば、そうでもなくて……。
 ドアが開いて、大男の一人が、盆を持って入って来た。
「——もう食事?」
 奈々子は、ため息をついた。「お腹、空いてないわよ」
 何しろ日本語が通じないので、どうにもならない。
 ドカッと盆をテーブルに置いて出て行ってしまう。
「参った!」
 と、奈々子は、息を弾《はず》ませている。「ブロイラーにしようってのね!」
 ともかく、誘拐された人間が、こんなに沢山食事を与えられたことは珍しいんじゃないか、と思えるくらい。
 今も大きな皿に、ローストしたポークが山盛り。
 いくら奈々子だって、この三分の一で充分である。
 しかも、この量の食事が、三食出て来るのだ。せっせと運動しているのも、お腹を空かすためだったのである。
 しかも、食べずに残すと、あの見張りの大男が、えらく怖い顔をして怒る。仕方なく、また食べる、ということをくり返していた。
「これが新《あら》手《て》の拷《ごう》問《もん》かしら……」
 などと呟《つぶや》きながら、仕方なく食べ始めると——。
 またドアが開いた。
 神原だ。——奈々子にニヤッと笑いかけると、
「元気そうで何より」
 と、言った。
 奈々子は、「美貴らしさ」を装って、
「私にご用ですの?」
 と、訊《き》いた。
「喜んでもらいましょうか」
「というと?」
「連絡が取れましたよ、ご主人と」
「まあ」
「生きていたのは、事実だったんですな。もちろんあなたは、ご存知だったはずですが」
 知るもんですか、そんなこと。
「で、主人は何と?」
「直接話したわけではありません」
 と、神原は言った。「新聞にね、広告を出したんです」
「それで?」
「ご主人から、返事の広告がありました。——これで、あなたも無事に帰れそうだ」
「それは結構ですわね」
 奈々子は微《ほほ》笑《え》んで、「一口いかがです?」
 と、フォークで、肉を突き刺した。
 
「——どう思う?」
 と、ペーターが言った。
 ホテルでの、昼食の時間。
 ペーターが新聞をみんなに回していた。
「〈品物を買い戻したい〉か……」
 ルミ子は肯いて、「確かに怪しいわね」
「こういう広告は、よく誘拐事件の時、使われるんだ」
 と、ペーターは言った。
 ——すでに、奈々子が消えて四日。
 美貴など、大分食欲もなくなって来てしまっている。
「でも……私と間違えられたとしたら、その広告は?」
「誰か、あなたと係《かかわ》りのある人が出したものでしょう」
 と、ペーターは言った。
「お姉さん!」
「主人だわ」
 と、美貴は言った。「生きてたんだわ、やっぱり!」
 急に目を輝かせて、
「何とかして、その広告主を突き止めるのよ」
「落ちついて下さい」
 と、ペーターは言った。「問題はそう簡単じゃない。広告主が分っても、当然、あなたのご主人、本人ではありませんよ」
「だとしても——」
「もちろん手がかりにはなります。しかし——」
 ペーターは、ふと言葉を切った。
「どうしたんですの?」
「いかん」
 ペーターは、立ち上ると、急いでレストランを飛び出して行った。
「どうしたのかしら?」
「ほら、あんたも行きなさいよ!」
 ルミ子に怒《ど》鳴《な》られて、森田も、渋々、ペーターの後を追って出て行った。
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