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南十字星31

时间: 2018-09-06    进入日语论坛
核心提示:31 炎が照らす顔 二時間は、アッという間に過ぎてしまっていた。 奈々子は、ベッドに腰をかけて、迷っていた。 約束は約束。
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 31 炎が照らす顔
 
 
 二時間は、アッという間に過ぎてしまっていた。
 ——奈々子は、ベッドに腰をかけて、迷っていた。
 約束は約束。たとえ、あんな男との約束でも、守らなきゃいけない、という気持がある。
 一方で、自分の身を守る権利ってものがあるのも確かである。しかし——どうやって?
 そろそろ時間だ。
 正直に、言われた通り、食事をして、お風呂にも入っているのが、奈々子らしいところだ。
 足音がした。——来た!
 ガチャリと鍵《かぎ》が回り、ドアが開く。
 すると、そこに立っていたのは、奈々子を助けに来たペーターだった!
 てなことはないか……。やっぱり、そこには神原が立っていたのである。
「ほう」
 神原は、早くも目をギラつかせて、息づかいも荒くなっていた。「——仕《し》度《たく》を終えて、待っておられたようですな」
「別に、待っちゃいませんけど」
 と、奈々子は呟《つぶや》いた。
「では、早速」
 と、神原は上衣を脱いだ。「——奥さん」
「は?」
「私はね、正直なところ、もっとお上品ぶった、面白味のない女を想像していたんですよ」
「そうですか」
「しかし、あなたは、ユニークな人だ」
 悪かったわね、と奈々子は心の中で言ってやった。
「私はね、あなたのような女が好みなんですよ」
 と、神原はネクタイを外した。
 あんたなんか好みじゃないよ、と言ってやりたかった。
「実に楽しみだ! どんな味がするか……。さ、力を抜いて、私に任《まか》せて下さい」
 と、神原は近寄って来た。
 さすがに、奈々子も体をつい固くして、よけてしまう。
「怖がることはありません」
 本当に怖がらなきゃいけないのは、むしろ神原の方なのだが。「——私にすべて、任せておけば、天国へ行く気分ですよ」
「あなたは地獄ね」
「面白い方だ」
 と、神原は言った。「約束を忘れないで下さいね」
「分ってます」
「決して逆らわない、というお約束ですからね……」
 神原が奈々子の肩を抱く。
 まだ奈々子は迷っていた。——約束か。
 どうしたらいいんだろう? 十円玉を投げて決めようか?
 でも、その時間もなかった。神原は、いきなり奈々子を抱いてキスしようとしたのだ。「あ、あの——もう少しゆっくり——」
「男は力強さ、強《ごう》引《いん》さです!」
「それは——誤解ですよ。女は乱暴にされるのが嫌いなんです!」
 神原が奈々子をベッドへ押し倒す。身もだえしたが、神原の方はもう夢中で——。
 ズシン、という音と共に、家が揺れた。
「何だ?」
 と、神原が顔を上げる。「地震かな」
「NHKの地震速報、見たら?」
 と、奈々子は言った。
 すると、また家がぐらぐらと揺れた。
「ワッ!」
 飛び上ったのは神原である。「地震だ! 助けて!」
 奈々子のことなど忘れてしまったように、床にしゃがみ込むと、頭をかかえて震えている。
 奈々子は呆《あき》れて、
「地震、弱いの?」
 と、訊《き》いた。
「当り前だ! 地面が割れて、のみ込まれてしまうんだ! 神様!」
 と、神原は金切り声を上げている。
「そんな大地震じゃないわよ」
「だめなんだ……。昔、子供のころ、『十戒』って映画で、悪い奴が地割れに落ちるのを見てから……」
「ああ、あれ。私、リバイバルで見た」
 と、呑《のん》気《き》なことを言っていると、ドアが凄《すご》い勢いで開いた。
「——リヒャルト!」
 奈々子は仰天した。
 包帯をグルグルお腹に巻いた上にシャツを引っかけている。そして手には機関銃。
「大丈夫なの? 動いたら、出血するんじゃない?」
 と、奈々子が心配する。
 リヒャルトは、神原がポカンとしているのを見て、銃口を向けた。
「よせ!」
 と、神原が飛び上る。「助けてくれ!」
「ドイツ語で言えば?」
 と、奈々子はアドバイスしてやった。
 機関銃がバリバリ音をたてて火を吹いた。
 床の板が砕けて木片が飛び散る。神原は、
「キャッ!」
 と、飛びはねて、そのまま後ろへ引っくり返り、のびてしまった。
 弾丸が当ったわけじゃない。気絶してしまったのである。
「リヒャルト——」
 駆け寄って来たリヒャルトが、奈々子の手を取ると、その甲にキスした。
「——そうか。誰かから聞いたのね、私と神原のこと」
 奈々子も嬉《うれ》しかった。「でも、あんたが助かって良かったわ」
 奈々子は、リヒャルトの額にチュッとキスしてやった。
 リヒャルトが奈々子の手を引いて、急いで部屋を出る。
 一階では、神原の手下が二人、完全にのびていた。
 外へ出て、奈々子は、
「これが地震だったのね」
 と目を丸くした。
 大きなトラクターが、山荘の外壁に鼻先を突っ込んでいた。柱が折れて、このまま突き進んだら、山荘が潰《つぶ》れてしまいそうだ。
 リヒャルトに促《うなが》されて、奈々子はトラクターに乗った。
 そして、リヒャルトも乗ろうとしたが……。
 リヒャルトが振り向いた。
「車の音だわ」
 ずっと遠くだが、車の灯が、いくつか並んでやって来る。
 リヒャルトが、奈々子の手を取って、トラクターからおろした。この車じゃ、とても逃げられまい。
「隠れましょ」
 幸い、山荘の裏手は林である。二人して、その中へと入って行き、身をひそめた。
 やがて車がやって来る。——四台も。
 山荘の前に停ると、男たちが出て来た。手に手に、銃を持っている。
 誰かしら?——みんなドイツ人らしい。
 二番目の車に、誰かが乗っているらしく、声がした。——日本人かしら、と奈々子は思った。
 ドイツ語ではあるが、発音や、声の感じが日本人のようだ。
 男たちが、山荘の中へと入って行った。
 ドタドタと中を歩き回る足音が聞こえて来る。——しばらくして、一人が戻《もど》って来ると、二番目の車の男に、話しかけた。
 短い返事。二言三言、会話があって、男はまた山荘の中へ戻って行った。
 どうなってるんだろう?
 奈々子は、息を殺して、その光景を見つめていた。二番目の車には、誰が乗っているのか?
 突然、山荘の中から銃声が聞こえた。五回六回。——そして銃声が止んだ。
 奈々子の顔から、血の気が引いた。
 神原と、下の二人の男……。きっと殺されたのだ!
 男たちが出て来る。そして——少し間があって、奈々子は山荘の窓から、煙がゆっくりと立ち上るのに気付いた。
 火が山荘の窓から吹き出す。
 車が少し後退して、山荘が燃え上るのを見物しているようだ。
 ——奈々子の体が震えた。
 何てひどいことを……。
 木造の山荘は、たちまち炎に包まれて、火はあのトラクターにも燃え移った。
 山荘が炎の中に崩れ落ちる。辺りは、真昼のように明るくなった。
 そして、二番目の車のドアが開くと、一人の男が、降り立った。
 白っぽいスーツの男。日本人だ。
 葉巻をくわえて、楽しげに、燃え落ちる山荘を眺めているのだ。
 その顔が、炎に照らされて、はっきりと見えた。
 奈々子は息が止るかと思った。
 それは、美貴が見せてくれた写真で知っている顔——三枝成正に違いなかったのだ。
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