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南十字星32

时间: 2018-09-06    进入日语论坛
核心提示:32 闇《やみ》の中に「どこまで行くのかしら?」 と、ルミ子は言った。「さあね」 と、ペーターは肩をすくめて、「僕が運転し
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 32 闇《やみ》の中に
 
 
「どこまで行くのかしら?」
 と、ルミ子は言った。
「さあね」
 と、ペーターは肩をすくめて、「僕が運転してるわけじゃないんだから、分らないよ」
 そりゃ分ってるけど……。ルミ子は少々むくれて、
「何もそんなに冷たい言い方しなくたって、いいじゃない」
 と、呟《つぶや》いた。
 ——まあ、ルミ子としても多少は後悔していたのである。
 怪しげなトラックに、ろくに考えもせずに飛び込んでしまって……。一体何を考えてたんだろう、と我ながら不思議だった。
 ペーターがついて来てくれたから、まあ安心していられるが、そうでなきゃ、心細くなって途中で飛び下りて、足でもくじいているところだ。
 もうすっかり周囲は暗くなっている。
 いくらミュンヘンが大都会といっても、東京みたいに、どこまで行っても家が並んでいるというわけではない。
 大分前から、トラックは深い森の中へと入って、一体どれくらい走って来たものやら、ルミ子には見当もつかない。
 道も、あまりいいとは言えず、ガタン、ドタン、と飛びはねたりして、その度にルミ子はお尻《しり》を痛くして、顔をしかめるのだった……。
「乗り心地が悪い」
「そりゃそうさ」
 と、ペーターは笑って、「メルセデスやロールスロイスってわけにゃいかない」
「どれくらい遠くまで来た?」
「さて……。この辺のことは、僕もよく知らないんだ」
 と、ペーターは言った。「もし、町を通ったら、そこで降りようかと思ってるんだけどね、一向に通らないし」
「そうね……。でも、この男たちが、三枝さんのことと、何か係《かかわ》りがあるのは、確かだと思わない?」
「うん……。まあ、それは言えるだろうけど」
 と、ペーターは渋々 肯《うなず》いて、「しかし、君が首を突っ込むのは、うまくない」
「手遅れ」
「そうだな」
 と、ペーターは肯いた。
「あ、カーブした。——何か凄《すご》い道ね」
 トラックは、ほとんどスキップでもしているかのように、飛びはねた。
「林の中へ入って行ってるな。木の根っこを乗り越えてるんだよ」
 と、ペーターは言った。
 ルミ子は、黙って肯いた。口をきくと、舌をかんでしまいそうだったからだ。
 さらに十分ほど進んで——突然、トラックは平らな場所へ出た。
「どこかしら?」
「さあ……。停《とま》りそうだな」
 エンジンの音が変った。
 トラックはグルッと輪をかくように回って、停った。
「どうする?」
「降りるさ、もちろん!」
 ペーターは、「おいで」
 と、ルミ子の手を取った。
 外を覗《のぞ》いて、ペーターがヒラリと飛び下りる。ルミ子は、ペーターにつかまえてもらって、降りた。
「こっちだ」
 大きな箱が積んである方へと、ペーターとルミ子は駆けて行き、そのかげに身を隠した。
 運転席にいた二人の男は、トラックを出て、何か大きな建物の方へと歩いて行った。
 暗くてよく分らないが、倉庫みたいな、丈《たけ》の高い建物だ。
「——あれ、何?」
 と、ルミ子は覗いて見て、言った。
「格納庫だ」
 と、ペーターは言った。
「格納庫?——飛行機の?」
「そう。どうやら、ここは飛行場らしいね」
 言われて見回すと……。なるほど、夜ではあるが、何となく、だだっ広い場所だということは、よく分る。
「森の奥に、こんな場所が……」
 と、ルミ子が呆《あつ》気《け》に取られていると、
「珍しくないさ」
 と、ペーターが言った。「何しろ、滑走路ったって、ただ真直ぐな、舗装した道路がありゃいいんだ。何もジャンボが着陸するわけじゃないんだからね」
「そりゃそうね」
 ルミ子は、スイスを旅した時、自動車道路がいやに長く、真直ぐになった場所があったので、不思議に思ったことがある。後で訊いたら、非常時には、その道路が滑走路の役目を果すのだということだった。
「じゃ、秘密の飛行場?」
「そうらしい。——たぶん、密輸の小型機が使うんじゃないかな」
「へえ! 凄い発見!」
 と、ルミ子は興奮している。
「呑《のん》気《き》だなあ」
 と、ペーターは苦笑して、「見付かったら生きちゃ帰れないよ」
「でも、森の中へ逃げ込めば」
「そううまく行くといいけどね……。出て来るようだ」
 格納庫の扉が、ガラガラと音をたてて、左右に開いた。中は明るいので、双発の小型ジェットの姿が、よく見える。
「ジェット機!——自家用機かしら?」
「だろうね。ヨーロッパじゃ、珍しくない」
 と、ペーターが肯く。
 すると——キーンという、耳を剌す金属的な音と共に、その小型ジェット機が、ゆっくりと外へ出て来た。
「飛んでっちゃう!」
「いや……。誰かを待ってるんだろう」
 と、ペーターは言った。「こりゃ、意外に大物が見られるかもしれないよ」
 ルミ子はドキドキした。——もちろん、怖さもあるが、好奇心の方が強烈である。
 美貴たちに知らせる方法があれば……。
 しかし、ともかくこの場所を見付けただけでも大したもんだ。——自分で言ってりゃ、世話はないが。
「車の音だ」
 と、ペーターが言った。「頭を低くして!」
 二人は、地面にほとんど這《は》いつくばるようにして、息を殺した。
 黒い森の木立ちの間に、車のヘッドライトがチラチラと見えて来る。一台じゃない。
 やがて、車が飛行場へと入って来た。
 一台、二台……。四台いる。
 車は、ジェット機の傍《そば》へと寄せて停った。
「——誰だろう?」
 と、ルミ子が低い声で言うと、
「見えないな」
 と、ペーターは舌打ちした。「——みんな一旦、格納庫の方へ入るらしい。よし、もっと近付いてみる」
「ええ? 危くない?」
「君にそんなことを言う資格はあるか?」
 そう言われると、ルミ子も反論できない。
 ペーターは、ちょっと笑って、
「ここでおとなしくしてろよ」
 と言うと、
「気を付けて!」
 というルミ子の声が耳に入ったかどうか……。
 タタタッと足音が遠ざかって行く。——ルミ子も少々心細くなって来た。
「私のこと放っといて、何も一人で行かなくたって……。全く、無責任なんだから!」
 と、ブツブツ文句を言っている。
 しかし——もし、ペーターが戻《もど》って来なかったら?
 あの連中に捕まっちゃったら、どうしよう? いくら何でも、一人じゃ助けに行くわけにもいかないし。
 森の中にでも隠れて、夜が明けるのを待ち、家のある所まで歩くしかないだろう。どれくらいあるか知らないけれども。
 ——ま、ともかく、今はペーターの戻るのを、待つしかない。
 ルミ子は、箱にもたれて腰をおろすと、息をついた。——夜になると寒くなる。
 一人で、やっぱり少々後悔していた。勝手にこんなことして、美貴姉さんたち、心配してるだろうな。
 奈々子さんだけでなく、ルミ子まで行方不明ってことになると……。
 あの探偵の森田は、てんで頼りにならないし。ハンスも、こんな所へ助けに来ちゃくれないし。
 早く戻って来ないかな、ペーター……。
 キスの一つぐらいしてやるのにね。向うは別にしてほしくないかもしれないけど。
 ——どれくらいたったろう?
 長く感じたが、十分ぐらいのものだろう。
 足音が聞こえた。タッタッタッ、と。
 良かった! 戻って来た!
「ペーター、どうだった?」
 と、顔を出すと……。
 目の前にぐいと突きつけられたのは、黒い銃口だった。
 目をパチクリさせて、視線を上げて行くと、大きなドイツ人らしい男がニヤリと笑った。
「あ——どうも。グーテン、アーベント」
「来い」
 と、男は、日本語で言った。
「あ、そう……」
 ルミ子は、ここでは選択の余地はない、と悟った。逃げようにも、相手がこの男じゃ、アッという間に首をつかんでつまみ上げられてしまうだろう……。
「分ったわよ。行くわよ」
 と、ルミ子は精一杯、強がって見せ、促《うなが》されるままに、格納庫の方へと歩き出した。
 すると——その格納庫の方から、誰かが歩いて来る。
 え? あれは?
 ルミ子は、目を疑ってしまった。——てっきり、見付かって、取っ捕まったと思った、ペーターその人……。
「ペーター!」
 と、ルミ子が呼びかけると、ペーターは答えずに、男の方へ、
「その娘は飛行機へ乗せろ」
 と、ドイツ語で言ったのである。
「ヤア」
 と、男が言って、ルミ子の腕をつかむ。
「ペーター、あなた……」
「悪いね。君自身のせいだよ」
 と、ペーターは首を振って言った。
 じゃあ……。ペーターは、この連中の仲間?
 ルミ子は唖《あ》然《ぜん》としている内に、ジェット機の方へ引っ張って行かれ、中へ押し込まれた。
「ペーター! この——人でなし!」
 と、ルミ子は思い切り叫んだが、聞こえるわけもない。「ちょっと——やめてよ! 触るな。エッチ!」
 と、大男の手を振り払おうとしたが、とてもじゃないが——。
 アッという間に、ロープで手足を縛り上げられ、猿ぐつわをかまされて、ルミ子は荷物室の中へと放り込まれた。
 扉が閉り、真暗になる。——二度と、日の目を見ることはないのかしら?
 ルミ子は、初めて芯《しん》から恐怖に震えたのだった。
 少々手遅れではあったけど……。
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