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殺し屋志願12

时间: 2018-09-06    进入日语论坛
核心提示:11 湖畔の別荘「動くな」 背中にぐいと何かが押し当てられる感触があって、鳴海はギクリとした。 しかし、それも一瞬のことで
(单词翻译:双击或拖选)
 11 湖畔の別荘
 
「動くな」
 背中にぐいと何かが押し当てられる感触があって、鳴海はギクリとした。
 しかし、それも一瞬のことで──いくら声を作ったところで、女の子は女の子だ。
「おい、冗談はよせよ」
 と振り向くと、田所佐知子が、いたずらっぽく笑っていた。
「へへ……。ギョッとした?」
「まあね」
 と鳴海は言って、「しかし、本当によせよ。反射的に殺してるかもしれないぞ」
「何よ、気取っちゃって。──映画の中の殺し屋じゃない、って言ったの、自分でしょ」
 鳴海は笑って、
「かなわないね。君には」
 と言った。「さて、どこへ行くんだ? ちゃんと仰せの通り、車を借りて来たぜ」
 ポン、と車の屋根を叩《たた》く。
「何か、パッとしない車ね」
 と、佐知子が車を眺めて、首をかしげる。
「そうかい? 新車だよ」
「でも──もうちょっと若向きの車だと良かったのに」
「ぜいたく言うなら、乗せてやらないぞ」
「わ、ごめんごめん。──大人しく乗せていただきます」
 おどけて見せる佐知子は、何とも可愛い。鳴海まで、つい笑ってしまう他はないのである。
 今日は連休の初日。──よく晴れて、どこも人出は多そうだ。
 佐知子も、いつものブレザーではもちろんなくて、ちょっと目のさめるようなオレンジ色のスポーツウエアを着ている。
「可愛いね」
 運転席に座って、鳴海は言った。
「でしょ? 脱がしたい?」
「おい。──清純派のイメージをこわすなよ」
 と、鳴海は文句を言った。「どこへ行くんだ?」
「N湖。──分かる?」
「分かるけど……。大分遠いぜ」
「夜までには着くでしょ。別荘があるの」
 鳴海はびっくりして、
「泊るのか?」
「悪い? あなたのママ、うるさいの?」
「こら! 大人をからかうな」
 車を走らせて、鳴海は言った。「君の方は大丈夫なのか?」
「うん。友だちと行くって言ってある。──嘘じゃないものね」
「それもそうだな」
「週末をのんびり過ごすにはいい所よ。あの人はめったに行かないし、特に一人じゃ行かないわ」
「親父さんは?」
「アメリカ出張。──いつ家にいるのか、言っといてほしいくらいだわ」
 鳴海もその点は聞いていた。もちろん、予史子からである。確か、ここ二、三日の間に戻るはずだが。
「──ドライブにはいい日和《ひより》ね」
 と、佐知子は窓をおろして、顔に風を受けながら、気持よさそうに目を閉じた。
 鳴海は、チラッと佐知子の方を見た。
 ──何とかしなきゃ。
 ずっと、このところ、考え続けているのである。
 佐知子には予史子を殺してくれ、と頼まれ、予史子には、夫の田所を殺してくれ、と頼まれる……。間に立って、鳴海の立場は誠に微妙なものであった。
 しかし、鳴海にも、どうすべきかはわかっている。
 単純明解だ。──佐知子とも予史子とも、手を切ることである。
 住んでいるアパートは佐知子に知られている。だから、どこかへ移る必要はあるだろう。
 佐知子が、殺しの現場を見ていたことは鳴海としても気になる点だ。ただ、だからといって、佐知子を殺すのが唯一の策というわけではない。
 佐知子にしても、人を殺したいと鳴海に打ちあけているのだから、もし鳴海のことを警察へ告発したりすれば、自分の方にも火の粉はふりかかって来る。
 佐知子はそれほど馬鹿な女の子ではない、と鳴海はにらんでいた。
 しかし──頭では色々考えながら、鳴海は一方で三四歳の予史子と、もう一方でその半分の一七歳の佐知子と、こうして付合いを続けている。
 それは一種のスリルでもあり、結末の分からないミステリーでも読んでいるような、そんな楽しさであった。
 ただ、ミステリーなら、誰が殺され、誰が捕まっても、鳴海には関係ない。しかし現実の「殺し」となると、そうはいかないのである……。
 車は高速道路へ入って、たちまち渋滞し始めた。──連休初日で、ドライブ日和と来れば、混まない方が不思議だ。
「──のんびり行きましょ」
 と、佐知子は、手にさげていたバスケットを膝《ひざ》の上で開けた。
「何を持って来たんだ?」
「色々。お菓子、サンドイッチ、飲物。──どうせ車が混むと思って」
「手回しがいいな」
「こういう点、凄《すご》く気が付く人なの」
 と、佐知子は得意げに言った。
「向いているのかもしれないよ」
「何に?」
「殺し屋に、さ」
「本当? ワア、嬉《うれ》しい」
「変なことで喜ぶなよ」
 鳴海は苦笑した。
「だって、本当に憧《あこが》れてるんだもん。──何か飲む?」
「いや、昼まではやめとく」
 と、鳴海は言った。「あんまり、水分は取らないんだ。トイレに行けないこともあるからな」
「あ、そうか。私もやめよう」
 と、佐知子は、バスケットの蓋《ふた》を閉じた。 「ね、どう? まだ忙しいの?」
「仕事かい?──そんなに忙しきゃ、今日ここへ来てない」
 前の車がノロノロと動くと、少し車を進める。──二人だからいいが、一人で乗っていたら、拷《ごう》問《もん》に等しいだろう。
「そう。──あの人のことは?」
 もちろん、予史子のことを訊《き》いているのである。
「まだ殺す気かい?」
「もちろんよ」
 と、佐知子は、ふくれっつらになる。「本気にしてなかったのね」
「してるさ」
「だって──」
「でなきゃ、わざわざ付合ったりしていない」
 佐知子は、まじまじと鳴海を見て、
「付合うって……。あの人と?」
「そう。色々、あっちも話し相手がほしいようだよ」
「へえ!」
 佐知子は、びっくりした様子で、目を輝かせている。「でも……」
「うん?」
「どういう付合い? ホテルにでも行ってるの?」
 鳴海は、ちょっと肩をすくめて、
「いや、遊園地でジュースを飲むぐらいの付合いさ」
 と言った。
「嘘!──あの人と寝たんでしょ」
「必要ならそうする。相手を知るには、一番いい方法だ」
「ふーん」
 と、佐知子はちょっと口を尖《とが》らし 、「ま、いいわ。許してあげる」
 と言ってから、
「その代り──今夜はちゃんと可愛《かわい》がってね」
 と、頭をもたせかけて来る。
「おいおい。運転がやりにくいよ」
 と、鳴海は笑った。
 ──予史子とのことを話して、佐知子がどう反応するか、見たかったのだ。
 佐知子ならこうだろうという予想の通りではあった。ただ、あまりに「その通り」すぎるような気はしていたが……。
「知ってる?」
 と、佐知子は言った。
「何を?」
「あの人、泳げないのよ」
 鳴海は、ちょっと佐知子の方を見て、
「どうして知ってる?」
「海へ行ったり、プールへ行ったりしてるもの。──あの人、水着になっても決して泳がないわ」
「泳がない、と泳げないじゃ、大分違うぜ」
「でも、泳がない理由がないわ」
「あまりうまくないのかもしれない。しかし、全く泳げないってことじゃないかもしれないだろ」
「そりゃそうね」
「大体、今は泳ぐシーズンじゃない」
「あの湖よ」
 と、佐知子が言った。
「湖か」
 鳴海は、やっと少し流れ始めた車の列に合わせて、少しアクセルを踏み込んだ。だが、ほんの少し進んだだけで、また元の通りの大渋滞である。
「やれやれ……」
 と、息をついて、「ボートがあるのか」
「そう! さすがね」
 と、佐知子は微笑《ほほえ》んだ。
「しかし、普通、泳げない奴はボートなんかに乗りたがらないもんだ」
 と、鳴海は言った。「湖の深さは?」
「──知らない」
「背の立つような湖じゃ、いくら泳げない奴でも、死なないぜ。──どの辺が深いかも知っておく必要がある」
「そうね」
「どの辺なら、人目につかないか。──湖のど真中じゃ、どんなに用心しても、誰かに見られると思った方がいい」
「そう?」
「いくら遠くても、今は、バードウォッチングってのが流行《はや》りだからな。結構双眼鏡とか持っている奴が沢山いるんだ」
「結構むずかしいのね」
「それに向うも君のことを警戒してるかもしれない」
 佐知子は、鳴海の方を向いて、
「あの人、私のこと、何か言ってた? ねえ、何だって?」
「なかなか打ちとけてくれない、と嘆いてはいたけどな。──ともかく、君が霧の濃いときに、わざわざボートに乗ろうなんて誘っても、向うは断るだろうな」
「そこを何とかして……」
 と、呟くように言って、「向うで、ゆっくり検討しない?」
 と、ニッコリ笑った。
 人殺しの話を、「ゆっくり検討」しようと言って微笑むのだ。──なかなか大した奴だよ、と鳴海は苦笑した。
「焦らないことさ。──その代り、やるべきときは、決断して徹底的にやる。中途半端は命取りだ」
「同感」
 佐知子は、ふと青空を見上げた。「──いい星が見られそうだわ」
 ふと、鳴海は、もう夜になってしまったかのような錯覚に捉《とら》えられた。
 あと何時間かかれば着くのやら。本当に、高速道路の上にいる間に、星空を見上げることになるかもしれない。
 
 鳴海は、水辺に行って、小さな波に指先を浸してみた。──冷たい。
 かなり水温は低そうだ。
 ボートが、二つ三つ、浮かんでいる。乗っているのは当然アベックである。
 見通しはいい。明るい内にここで溺《おぼ》れるというのは、よほど運の悪い奴でなくてはなるまい。
 足音がして鳴海は振り返った。
「──何してたの?」
 と、佐知子が言った。
「うん。──ただ見物さ」
「何だ。下見してたのかと思ったのに」
「がっかりさせて悪かったね」
 と、鳴海は笑った。
 しかし、思ったより早く、この湖へ着いた。──高速が途中からスッと流れ出したのである。
 全く、あの車の混雑というやつは分からない。何もなくても混むかと思うと、突然サーッと潮が引くように空いたりもする。
 ともかく、順調に流れたおかげで、夕方、まだそう暗くもならない内に、この別荘へ着くことができたのである。
 湖畔の木立ちの間にひっそりと、その別荘は建っていた。──かなり古いものだろう、と鳴海は思った。
 木造の二階建だが、広さはかなりある。
「寒くなって来たな」
 と、鳴海は肩をすくめた、「中へ入ろうか……」
「夕ご飯、用意するから」
 と、佐知子は鳴海の腕を取った。「何がいい?」
「そんなにメニューがあるのか? 料理はだめなんだろう」
「だって、出来てるのを、電子レンジで温めるだけだもん」
「何だ、そうか」
 と、鳴海は笑った。
 ──確かに、もともとの調理がそう悪くなかったのだろう。ただ温めただけの料理にしては、食べられる味だった。
 ご飯も、ビニールに詰めた真空包装。──鳴海は、
「こういうものも、結構捨てたもんじゃないね」
 と、感心して言った。
「でしょ? だから安心してるの。これで、結婚しても大丈夫って」
 佐知子は、いたずらっぽく笑って言った。
「便利な世の中だな」
「そうね。でも、殺し屋の需要は減らないの?」
「どうかね。──僕が仕事を受けるわけじゃない。下請けさ。どれくらいの依頼があるのか、僕は知らないよ」
「へえ。そんなもんなの?」
「互いに、知識は持っていない方がいいんだ。雇主にとっては、ただ仕事をきちんとやれる奴なら、どんなのでもいいし、こっちも、ちゃんと金を払ってくれりゃ、誰だっていいわけだ」
「そうね」
「どっちかが捕まったときにも、知らないことはしゃべれないだろ。お互い、その方がいい」
 鳴海は、ゆっくりと食事を続けた。
「──コーヒー、いれようか」
 と、佐知子が言った。
「ああ。頼むよ」
「これは電子レンジじゃないわよ」
 と、立ち上がって、台所へ歩いて行く。
 やがて、コーヒーの匂いが漂って来た。
「──すぐ入るわ」
 佐知子が戻って来て、言った。「どう? 可能性ありそう?」
「水は冷たい。あまり泳げない奴なら、あの冷たい水の中へ落ちたら、助からないだろうな」
「心臓は丈夫よ、きっとあの女」
「筋肉がつっちまうよ。足がつったら、よほど泳ぎのうまい人間でなきゃ、泳げなくなる」
「じゃ、やれるかな」
「君は泳げるのか?」
「もちろん。この湖でも、夏には泳いだことがあるわ」
「そうか。──明日、昼間に一度、ボートで出てみよう。どの辺が深いか、調べておいた方がいい」
「うん。私、こいであげる。結構これでも力があるのよ」
「頼もしいな」
 と、鳴海は笑顔で言った。
「あ、コーヒー」
 佐知子が、台所へ駆けて行く。
 ──食事を終えて、鳴海は、ソファでのんびりとくつろいだ。
 居間は、相当な広さである。木の色が、落ちついた雰囲気を作っていた。
「はい、どうぞ」
 コーヒーが来て、鳴海はじっくりと味わった。
「──どう?」
「旨《うま》いよ」
「よかった」
 佐知子は、鳴海にもたれかかった。「時々ね、考えすぎちゃうの」
「何を?」
「コーヒーのことよ。いつもほとんど無意識にやってるでしょ。たまに、これでよかったかしら、とか考えちゃうの。そうすると分からなくなる」
「そんなものさ。自信がある内は、体の動く通りにやれば充分だ」
「体の動く通りに……」
 佐知子がキスして来る。
 鳴海も、今はためらう必要はなかった。
 二人はソファの上にもつれ合うように倒れた。──佐知子が息をついて、天井に目を向ける。
 すると──電話が鳴り出したのだ。
「いやだわ」
 佐知子は、顔をしかめた。「あの人よ、きっと。他にかけて来る人なんていないもん」
「出ないわけにいかないだろ」
「そうね。──人の邪魔して」
 ブツブツ言いながら、佐知子はソファから立って、電話の方へ歩いて行った。
「──はい。もしもし」
 と、佐知子は面倒くさそうな声を出したが……。
「お父さん!」
 佐知子が声を上げた。「帰って来たの?──いつ?」
 鳴海は、起き上がって、飲み残したコーヒーを飲んだ。
「──え?──でも、友だちと一緒に……。だから──ええ?──うん、分かったわ。じゃ……」
 佐知子は受話器を置くと、途方にくれた様子で、鳴海を見た。
「日本に戻ったのか」
 と、鳴海が言った。
「うん。それだけじゃないの」
「どうした?」
「ここへ来るって。──あの人と一緒に」
 鳴海も、これには面食らった。
「何だって?」
「こんなこと、今までなかったのに!──参ったなあ!」
「そうか。二人でね。──じゃ、僕がここにいるわけにはいかないな」
「だって変よ。友だちと来てることになってるのに」
「誰か、代りに呼べないのか?」
「無理よ」
 佐知子は、お手上げという様子で、「車でここから十分の所まで来てるんですもの」
 と言った……。
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