日语童话故事 日语笑话 日语文章阅读 日语新闻 300篇精选中日文对照阅读 日语励志名言 日本作家简介 三行情书 緋色の研究(血字的研究) 四つの署名(四签名) バスカービル家の犬(巴斯克威尔的猎犬) 恐怖の谷(恐怖谷) シャーロック・ホームズの冒険(冒险史) シャーロック・ホームズの回想(回忆录) ホームズの生還 シャーロック・ホームズ(归来记) 鴨川食堂(鸭川食堂) ABC殺人事件(ABC谋杀案) 三体 失われた世界(失落的世界) 日语精彩阅读 日文函电实例 精彩日文晨读 日语阅读短文 日本名家名篇 日剧台词脚本 《论语》中日对照详解 中日对照阅读 日文古典名著 名作のあらすじ 商务日语写作模版 日本民间故事 日语误用例解 日语文章书写要点 日本中小学生作文集 中国百科(日语版) 面接官によく聞かれる33の質問 日语随笔 天声人语 宮沢賢治童話集 日语随笔集 日本語常用文例 日语泛读资料 美しい言葉 日本の昔話 日语作文范文 从日本中小学课本学日文 世界童话寓言日文版 一个日本人的趣味旅行 《孟子》中日对照 魯迅作品集(日本語) 世界の昔話 初级作文 生活场境日语 時候の挨拶 グリム童話 成語故事 日语现代诗 お手紙文例集 川柳 小川未明童話集 ハリー・ポッター 新古今和歌集 ラヴレター 情书 風が強く吹いている强风吹拂
返回首页
当前位置: 首页 »日语阅读 » 日本名家名篇 » 赤川次郎 » 正文

天使に似た人08

时间: 2018-09-20    进入日语论坛
核心提示:7 雨もりのする場所 水谷邦子は、椅子《いす》にかけたまま、眠っている。 ポッ、ポッ、ポッ。時代ものの鳩時計《はとどけい
(单词翻译:双击或拖选)
 7 雨もりのする場所
 
 
 水谷邦子は、椅子《いす》にかけたまま、眠っている。
 ポッ、ポッ、ポッ。——時代ものの鳩時計《はとどけい》が鳴いて、ハッと目を覚ます。
「三時だ……」
 頭を振って、邦子は大きな欠伸《あくび》をした。
 子供たちは、静かに眠っている。——枕《まくら》をけとばしたり、布団から転がり出たり、パジャマをまくり上げて、おへそ[#「おへそ」に傍点]をだしたままで。
 邦子は立ち上ると、部屋を出ようとして、一瞬めまいがして、よろけた。
 大丈夫。——大丈夫よ。何でもないわ。良くあることだから……。
 このところ、貧血気味になることが多くて、気になっていた。しかし、健康診断など受けに行く時間は、とてもない。
「気持の問題だわ」
 と、邦子は呟《つぶや》いた。「参ってるだけ。——子供たちには関係ない。そうでしょ、邦子?」
 さあ、しっかりして!
 子供たちが寝ている所を見て回るのだ。保母が交替で「夜の当番」をしている。
 邦子は、いつでもどこでも、時間のある時にパッと寝られる、というのが特技だった。しかし、このところ、それができないので、どうしても寝不足になっている。
 自分でも理由は分っているのだ。
 薄暗い廊下。——古い、今どき見られない木造の建物。冬は隙間《すきま》風が寒いので、おねしょをする子が多い。
 邦子は、足音をたてないように歩いて行った。
 ——あの人[#「あの人」に傍点]は、もう戻って来ないだろう。
 胸が、しめつけられるように痛む。
 短大のころから付合っていた恋人——沼田悟士《ぬまたさとし》とは、四年越しの付合いで、どっちからも言い出したわけではないが、お互い、将来は結婚するものだと思っていた。
 その彼が——短大時代に邦子のルームメイトだった女の子と二人で、旅行に行っていたのを、邦子は知ったのである。
 彼を責めるわけにはいかない。ここの人手が、日常的に不足しているので、邦子は休みが取れない。
 デートの約束をしても、誰《だれ》か一人が病気にでもなると、出て来ざるを得ない。——この一年近く、邦子は彼と、二回、昼食をとっただけである。
 それで、「恋人」でいてくれと頼むのは、無理な注文だ。——そうなんだ。
「仕事をやめて、僕と結婚しろよ」
 彼がそう言ってくれたら……。でも、やめただろうか?
 邦子にも分らない。子供たちは可愛《かわい》い。しかし、邦子は、「親ではない」のだ。そこを踏み越えてはいけない。
 君はのめり込み過ぎてるよ。そう言われて、むきになって反発もした。
 ——そんなことのくり返しが、結局、彼を遠ざけてしまったのか。
 でも——どうすることができただろう?
 彼の心をつなぎ止める鎖があれば、いくらお金を出しても、買っただろうに……。
「あらあら」
 いつも、寝相の悪い子で、たいてい布団から外へ出てしまっているのだが、今日は何と廊下まで転がり出してしまっている!
 よいしょ。——かかえ上げて、布団へ戻してやる。目をこすり、ウーン、と声を出すが、眠っていて、憶《おぼ》えてはいないのである。
 他の子だって、ちゃんと布団をかけて寝てる子は一人もいない。
 オシッコの近い子は、一度起こしてトイレに連れて行く。
 四十人からの子、全部を見終って戻ると、もう布団をけとばしている子がいる……。
「——幸江ちゃん」
 邦子は、布団が空になっているのを見て、小さな声で呼んだ。「幸江ちゃん。どこ?」
 昼間も姿をくらましてしまった子である。でも、夜はもうぐっすり眠るようになっていたのだが……。
 幸江は八歳で、小学校にも通っているから、そう心配はないと思うが……。一人でトイレに行ったのかしら?
 邦子はトイレを覗《のぞ》いてみた。誰《だれ》もいない。
 変だわ……。
 邦子はまた不安になって来た。もしかして外へでもフラフラと……。夢遊病みたいなことをする子もないではないのだ。
 邦子は、ふと明りが洩《も》れているのに気が付いた。調理場の方だ。
 あそこに?——でも何の用で、あんな所へ行くのだろう?
 邦子は、足音をたてないように気を付けながら、そっと半分開いた戸のかげから、中を覗いてみた。
「——おいしい?」
 幸江が床に座り込んで、そう言っている。「牛乳、もっと飲む?」
 誰と話しているんだろう? ちょうど調理台のかげに隠れて見えない。
「ありがとう。——生き返ったよ」
 男の声がして、邦子はギョッとした。
 一体誰が……。そして、邦子は昼間、幸江を見付けた時、「誰だかが物置の中にいた」と言っていたことを、思い出したのだ。
 では、あれは本当だったのか。
 たぶん——浮浪者か何かが、入りこんでいたのだ。そしてお腹を空かしているからというので、幸江が——。
 どうしよう。邦子は、迷っていた。
 幸江が男の目の前にいる。万一、幸江を人質にでも取られたら大変だ。最悪の場合を考えておかなくては。
 しかし、いざという時、邦子一人で、男と闘えるだろうか?
 誰かを呼ぶといっても——ここからは離れている。
「もういいの?」
 と、幸江は言っていた。
「うん。もう充分だ」
「じゃ、牛乳、冷蔵庫へ入れとくね」
 と、幸江が立ち上る。
「叱《しか》られないかい」
「黙ってれば、分んないもん」
「そうか」
「——ね、今夜、どこで寝るの?」
「そうだね……。まあ、おじさんは、ちゃんとどこかで寝られるから——」
 つい、緊張して力が入ってしまったのか、邦子が触《ふ》れていた戸が、ガタッと音をたてた。
 中で男が飛び上った。
「誰《だれ》だ!——隠れてるんだな! 誰だ!」
 上ずった声が聞こえて、邦子は、幸江が危い、と思った。戸を開けて中へ入る。
「なあんだ」
 と、幸江がホッとしたように笑って、「邦子ねえちゃんだ」
「幸江ちゃん。こっちへ来て」
「ね、本当だったでしょ。いたんだよ、本当に」
「そうね」
 邦子は、何とか笑顔を作った。——早く、幸江を男から離さなければ!
「もう寝なきゃいけないのよ、幸江ちゃん」
「うん……。この人もね、寝る所がないんだって」
「そう。じゃ、私がゆっくりお話を聞くわ。だから、あなたは、お布団に入って寝るの。——分った?」
 幸江は、未練のある様子だったが、男の方へ、
「じゃ、おやすみなさい」
 と、声をかけ、出て行った。
 邦子は、ともかく息をついた。汗がこめかみから流れ落ちる。
「どうも……」
 男は、薄汚れた白衣のようなものを着ていた。ひげがのび、顔も青白い。
「どうしてここへ?」
 と、邦子は言った。
「いや……。何だか歩いていて、目が回りそうになって、ちょうどこの前だったもんですから」
 力のない声だが、嘘《うそ》をついているようには聞こえなかった。
「誰《だれ》なんですか、あなた」
 男は、その問いに、困ったように目を伏せた。
「それが——よく分らないんです」
「分らないって……」
「長いこと眠っていたようで——。気が付くと、夜、外を歩いてたんです。どこから来たんだか……いや、自分が誰なのかも思い出せなくて……」
「何ですって?」
「本当なんですよ。そんな馬鹿《ばか》な話、と思われるでしょうが……。本当のことなんです」
 男は、ゆっくり息を吐いて、「今朝方、寒くてたまらなかったもんですから、ついここの中へ忍び込んで……。誰かに会いそうになって、物置へ隠れたんです。——びっくりさせて、すみません。ともかくお腹が空いて……。ここで食べるものをあさってたら、あの子が来てくれて……」
 男は、軽く息をついた。
「ここは、子供たちの施設なんですね」
「ええ。——親と暮せない子たちのためのです。あなたが本当のことを言ってるかどうか、私には分りません。でも、幸江ちゃんに危害を加えたわけでもないし、警察へは届けません。今夜の内に、出て行って下さい」
 男は肯《うなず》いた。
「分ってます。そのつもりでした」
 男は、少しためらってから、「大分、食べちまってすみません」
 と、頭をかいた。
「大分って——」
 冷蔵庫を開けて、邦子は、ちょっと目を丸くした。「——空っぽ!」
「申し訳ない」
 と、男は頭をかいている。「あの——必ずその内、返しに来ます」
 邦子は、男の生真面目《きまじめ》そうな言い方に、ふっと微笑《ほほえ》んだ。
「大丈夫です。何とか話をうまくつけますわ。これぐらいで潰《つぶ》れやしません、うちだって。もちろんご覧の通りの貧乏施設ですけどね」
「ご親切は忘れませんよ」
 と、男はまた頭を下げた。「——どこから出ればいいですかね」
「その奥に勝手口が。外へ出れば、低い柵《さく》だけで、鍵《かぎ》もかかってませんから」
 邦子は先に立って歩いて行き、勝手口の明りを点《つ》けた。
「じゃ、これで……」
「あの——靴は?」
「ないんです」
「じゃ、何をはいて来たんですか」
「裸足《はだし》だったんです」
「まあ。——見せて」
 足の裏は真黒で、二、三か所、切り傷もできている。「いけないわ、傷口から菌が入ったら——。手当てしましょう」
「でも——」
「破傷風にでもなったら、大変! さ、ここに座って。足を出して」
 邦子は、バケツに水をくんで来ると、男の足を洗ってやり、救急箱を持って来て、傷の消毒をした。
「もう……どうぞ、放っといて下さい」
「あと少しですから。——さ、これでテープを貼《は》って」
 邦子は息をついて、「ご心配なく。四十人の子供の面倒みてるんです。こんなこと、楽なもんですわ」
 と、言った。
 そして、ちょっと手を頬《ほお》に当てて考え込む。
「古いサンダルでも……。どこかにあると思いますから」
「しかし——」
「また裸足《はだし》で出て行くんですか? すぐ元の通りですよ」
 邦子が、そう言った時、頭上で、バラバラと、小石でもまくような音がした。
「あら、雨だわ」
 と、邦子は言って、「いけない! ね、上って」
「は?」
「こっちへ来て下さい」
 邦子は、男を勝手口から、奥の方へ引き戻した。
「どうしたんです?」
「今に分ります」
 と、邦子は言った。
 ザーッという雨音が辺りを包む。
「凄《すご》い降りだ」
「そうじゃないんです。普通の雨でも、そんな音がするんですよ。屋根がトタンで」
 そして……ポタン、パタン、という音と共に、天井のあちこちから、雨が洩《も》り始めたのだ。
「洩ってますよ」
「ええ」
「何か……バケツとか洗面器とかで……」
「間に合いませんの」
 ——確かにその通りだった。
 雨が強くなると、十か所以上から、雨が盛大に降り始めた[#「降り始めた」に傍点]のである。
「こりゃ凄い」
 と、男は目を丸くした。
「ここの名物[#「名物」に傍点]なんです。〈白糸の滝〉といって」
「なるほど」
 雨はさらに強くなって、やむ気配はなかった。家の中の[#「中の」に傍点]雨も、床にパチパチとはねて、外と変らなくなってしまっている。
「これじゃ——」
 と、男が言った。
「え?」
「モグラがびっくりするかもしれませんね」
 邦子は呆気《あつけ》にとられて男を眺めていたが、やがて吹き出してしまった。
「——や、すみません。朝が早いんでしょう。もう行きますから」
「傘の余分はないんです」
 と、邦子は言った。「いつも足りないくらいで」
「いいですよ。何か——ビニール袋でも貸してもらえれば」
「まさか、この雨の中へ追い出すわけにはいきませんよ」
 邦子は、息をついて「今夜はどこかで寝て下さい。明日、雨が上ったら、出て行って下されば結構です」
「しかし……」
「ホテルじゃありませんから、余分な布団とかはないんですけどね。——ああ、それじゃ管理人室がいいわ」
「誰《だれ》か寝てるんじゃないんですか?」
「今は使ってないんです。管理人なんていませんから。——こっちへ来て下さい。あ、そこのスリッパ、はいて。あんまりパタパタ音をたてないで下さいね。子供たちが眠ってます」
「すみません……」
 男は頭をかきながら、ついて行った……。
 
「なるほど」
 と、山倉純一は肯《うなず》いた。
「ですから、もう一人が見付かるまで、この人をここへ置いてあげてほしいんです」
 マリはくり返した。「構わないでしょ?」
 純一は、宮尾勇治を眺めて、それから一緒について来た、三崎伸子を見て、
「二人とも、お化け[#「お化け」に傍点]ってわけ?」
 田崎があわてて、
「いや、違います。この人はちゃんとした——何というか——」
「生きてる人間です」
 と、マリは三崎伸子を見て言った。「宮尾勇治さんの方も、お化けじゃありません。生き返ったんですから、一旦《いつたん》は。ちゃんとした人間なんです」
「はあ……」
 純一は呆気《あつけ》にとられている。
 まあ、この話を聞いて、即座に納得できたら、その人の方がおかしい、ってことになりそうである。
「どうする?」
 純一が田崎を見る。
「坊っちゃんのお好きなように」
 田崎はいつに変らぬ、半分|真面目《まじめ》、半分|面白《おもしろ》がっているような顔をしている。
「そうか……」
 純一はため息をついて、「分った」
「じゃ、いいんですね」
 と、マリが嬉《うれ》しそうに言った。
「ただし——」
「え?」
「マリさんが僕と結婚すること」
「そんな……。ずるい! 人の弱味につけ込んで!」
「どっちが弱味につけ込んでんだ」
 と、ポチが言った。
「あんたは黙ってな」
「何だい?」
 と、純一は言った。
「いえ、こっちの話です。かよわい乙女をおどしたりして、恥ずかしくないんですか!」
 マリがかみつきそうな勢いで食ってかかるのを見ていて、三崎伸子は、ふっと笑った。
 ——息子《むすこ》が殺されて、もう一生笑うなんてことはないだろうと思っていたのだが、笑ったのである……。
「じゃ、部屋を用意して。——あなたも泊って行くんですね」
「よろしければ」
 と、伸子は言った。「息子の敵を討たないと、眠るに眠れません」
「部屋は沢山あります。田崎、すぐに——」
「もう用意させてあります」
 と、田崎は言った。「その代り、坊っちゃん、別の問題があるのです」
「何だい? 今度は悪魔にでも部屋を貸せっていうのか?」
 ポチが、それを聞いて咳込《せきこ》んだ。
「マリさんの、コンビニエンス勤めです。どう考えても、コンビニエンスの仕事と、生き返った死体の捜索の両立は、不可能としか言えません」
「やめりゃいいじゃないか」
 マリが首を振って、
「そうはいきません。心配して下さってありがとう。でも、私は——」
「誰《だれ》か代理がいけばいいんでしょ?」
 と、田崎が言った。
「そりゃあ……そうですけど。でも、知らない人を代りにするわけにはいかないし、急に見付かりませんよ」
「そうか」
 と、純一が笑って、「田崎、君が行けばいいわけだ」
「田崎さんが?」
「坊っちゃん」
 田崎は、恭《うやうや》しく頭を下げて、「お言葉ですが、私がいなくなって、この屋敷が無事に動くでしょうか?」
「いなくなるったって……」
「午前中は少なくとも、眠らなくてはなりません。すると、この屋敷の掃除や手入れに問題が出ます。それでもよろしければ……」
「分ったよ。じゃ、誰が行けば問題ない[#「問題ない」に傍点]んだ?」
「もちろん」
 と、田崎は言った。「いなくなって、一向に困らないのはただ一人、坊っちゃん[#「坊っちゃん」に傍点]です」
轻松学日语,快乐背单词(免费在线日语单词学习)---点击进入
顶一下
(0)
0%
踩一下
(0)
0%