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天使よ盗むなかれ08

时间: 2018-09-28    进入日语论坛
核心提示:8 共犯者「タキシード、白手袋」 畑健一郎は、何となく楽しげに肯《うなず》いた。「なるほど、なるほど」 細川|邸《てい》
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 8 共犯者
 
 
「タキシード、白手袋……」
 畑健一郎は、何となく楽しげに肯《うなず》いた。
「なるほど、なるほど」
 ——細川|邸《てい》の一室。
 簡単な来客と会うための応接室である。
 椅子《いす》に、うつむき加減《かげん》で座っているのは、マリ。何だか先生に叱《しか》られている小学生、という感じ。
 いや、今時はそんなしおらしい小学生の方が珍《めずら》しいかもしれない。——畑健吾の方は、父親のわきで、せっせとメモを取っている。
 マリのそばには、細川加津子当人が座っていた。
「それで、その男は君に銃《じゆう》をつきつけた、と」
「はい……」
「それから?」
「あの——それから——」
 マリは、しばらくためらってから、「よく憶《おぼ》えてません」
「ほう、どうして?」
「あの——殴《なぐ》られたんです。顎《あご》の辺りを」
「ふむ。しかし、気を失うほどひどく殴られたら、もっとあざ[#「あざ」に傍点]が残るものだがね」
 と、健一郎は言った。「まあいい。それで君は気を失った、と」
「はい」
「男は君のパジャマを引き裂《さ》いたそうだが、憶えているかね?」
「いいえ」
 マリは、顔を赤らめて、首を振《ふ》った。
「その後のことは?」
 マリは、チラッと健一郎の方を見て、
「その後、というと……」
「その男は君に乱暴したわけだろ? 憶えてないのかい? 苦しかったとか、気持良かったとか——」
「刑事《けいじ》さん」
 と、加津子がきつい口調で言った。「その言い方はどういうことですの?」
「いや、失礼。——しかし、最近の十六|歳《さい》なんてのは、まあかなりその方のことに詳《くわ》しいし、経験も豊富ですからな」
「人によるのではありませんかしら? それに、襲《おそ》われるのと、自分で遊ぶのは、大違《おおちが》いですわ」
「それはおっしゃる通りですな」
 と、健一郎は一向に気にする様子もなく、「しかし、妙《みよう》ですよ」
「何がですの?」
「この娘《むすめ》さんは殴られて完全に気を失った。それならどうして、パジャマを引き裂く必要があるのか。気絶しているのなら、ただ脱《ぬ》がすだけでいいはずですが」
 加津子は、呆《あき》れたように、
「ずいぶん無神経なものの言い方をなさるのね」
 と、言った。
「仕事でしてね」
 健一郎は、ひるむでもなく、「男はどんな顔だった?」
 と、マリへ訊《き》いた。
「あの……中年の男です」
「中年といっても、色々だね。四十か五十か——」
「たぶん五十くらい……だと……」
「顔は? 丸顔? 長い顔?」
「普通です」
「普通ね」
 と、健一郎は、肩《かた》をすくめた。「何か特徴は? 目の形、鼻の形、口は? 髪《かみ》は?」
「あの——もうお話ししました。よく憶《おぼ》えていないんです」
 と、マリは訴《うつた》えるように言った。
「そのことは、記録にあるよ」
 と、健吾が言うと、ジロッと健一郎ににらまれた。
「人間は、後になって思い出す、ということがある。そうだろう?」
 健一郎に見据《みす》えられて、マリは段々縮んでしまいそうだった。
「——この子は怖《こわ》い目に遭《あ》ったんですよ」
 と、加津子が言った。「犯人の顔なんかろくに憶えていなくて当然じゃありませんか」
「まあ、これも仕事でしてね」
 と、健一郎は言った。「〈夜の紳士《しんし》〉は、二十年も前に、こういう大きな屋敷《やしき》を専門に荒らし回っていたのです。しかし、突然ばったりと犯行がストップした。——それきり、もう忘れられ、犯行も時効です。しかし、なぜ今になって、また姿を現わしたのか」
 健一郎は、加津子の方へ、
「ここに、多額の現金はありますか」
「現金はほとんどありません。もちろん、急な出費に備えて、百万や二百万は置いてありますが」
「それでも我々にとっちゃ大金ですな」
 と、健一郎は微笑《ほほえ》んだ。「しかし、〈夜の紳士〉は、そんな金を狙《ねら》ってやって来たとは思えない」
「毛皮を持って行きましたけど」
「いや、奴《やつ》の狙いはどこか他にあるはずですよ」
 と、健一郎は言って、加津子を見つめた。「——いかがですか? 何か思い当ることはありませんか」
「私に?」
「つまり——奴が狙うような何か[#「何か」に傍点]が、この屋敷にある、としか思えませんからね」
「心当りはありません」
「しかし——」
「自分のことです。あなたより私の方がよく知っています」
「それはそうだ」
 健一郎は、ちょっと笑った。「では、今日のところは失礼しましょう。そこの娘さん」
 マリは顔を上げた。
「——犯人のことで何か思い出したら、いつでも連絡してくれないか」
「はい」
 マリは、細い声で答えた。
「おい、帰るぞ」
 と、健一郎は息子を促《うなが》して、応接室を出て行った。
「何て無神経な人かしら」
 と、加津子は腹を立てている。「気にしないのよ、マリちゃん」
「はい……」
 マリは、しょんぼりしている。「あの——」
「なあに?」
「私……ここを辞《や》めなくてもいいんですか?」
「辞めたいの?」
「いいえ! そうじゃないんです。ただ……私のせいで泥棒《どろぼう》が——」
「あなたが責任感じることなんか、少しもないのよ」
 と、加津子は、マリの肩《かた》を軽くつかんで、「少し休みが取りたかったら、和代さんにそう言って」
「いえ……。大丈夫《だいじようぶ》です」
 マリは立ち上って、「じゃ——買物に出て来ます」
 と、頭を下げた。
 応接室を出ると、市川が急いでやって来たのを見て、加津子は、
「分ってるわよ」
 と、手を上げた。「すぐ出られるわ」
「三十分しかありません。ヘリコプターで迎えに来ようかと思いましたよ」
「それしても、腹が立つわ」
 と、ほとんど駆《か》け出すような足取りで、加津子は玄関《げんかん》へ向う。
「じゃ、クビにしたらどうです?」
「刑事《けいじ》をクビにするの?」
「刑事? あのマリって子のことじゃないんですか」
「とんでもない! あの可哀《かわい》そうな子。刑事が無神経な質問ばっかりして」
 ——表で待っていたハイヤーに、加津子と市川は乗り込《こ》んだ。
「しかし、社長」
「なに?」
「刑事は、理由もなく、ぶしつけな質問をしたりしませんよ。——あの娘《むすめ》のことを疑ってるんでしょう」
「まだ言ってるの」
「泥棒に乱暴されたと言いますが、診察《しんさつ》も拒《こば》んだんでしょう」
「当然よ。私だっていやだわ」
 加津子は首を振《ふ》って、「もうその話はやめて!」
「はい」
 市川はノートを広げた。「ですが、一つだけ……」
「まだ何かあるの?」
「例の会合です。四日しかありませんよ。どうします?」
「手の打ちようがないわ。やるわよ」
「そうですね。四日じゃ、連絡の取れない相手もいる。何とかして連絡をつけても、また集まるのは難しいでしょう」
「用心してやれば大丈夫よ」
「分りました。ともかく、額が大きいですからね」
 市川は、ノートを見ながら、「今日の夕食ですが、メニューを見ておいて下さい。必要ならかえさせます」
 と、言った。
 
「——大した女だ」
 ハイヤーが猛《もう》スピードで走り去るのを、畑健一郎は見送って言った。
「凄《すご》い車だね」
 と、健吾は感心している。
 二人も車に乗っているのだが、大分|桁《けた》が違《ちが》うのである……。
「さて、俺《おれ》は本部へ行くぞ」
 と、健一郎は言った。「降りろ」
「え?」
 健吾はキョトンとしている。
「車から降りるんだ」
「どうして? 押《お》さないと、エンジンかかんないのかい?」
「いいか。——あの娘を見張るんだ。マリとか言ったな」
「あのメイド? どうして?」
「ちっとも分っとらんな」
 と、健一郎はため息をついた。「いいか、あの娘の証言を聞いたろう。でたらめだ」
「例のパジャマのこと?」
「それだけじゃない。殴《なぐ》られて気を失ったとか、相手の顔を全く憶《おぼ》えていないとか……。あいつは共犯者だ」
 健吾は仰天《ぎようてん》した。
「まさか!」
「確かだよ。俺の勘《かん》は」
 と、健一郎は言った。「もとからそうだったのか、それとも、あそこで寝《ね》て、気が合ったのか知らんがな」
「そんな娘《こ》に見えないけど」
「見て分りゃ、こんな楽なことはない」
「まあ……ね」
「〈夜の紳士《しんし》〉の狙《ねら》いは別にある。何か情報をつかんでいるんだ。そうでなきゃ、こんな所まで来て、忍《しの》び込《こ》むはずがない」
「どこかに金ののべ棒でも隠《かく》してあるのかな?」
「ともかく、現金がどこかにあるか、でなきゃ、ここで現金を使うことがあるのに違《ちが》いない。——あまり表沙汰《おもてざた》にできないことでな」
「その金を狙って?」
「あのマリって娘、それを見張るために、ここへ入りこんだのかもしれん。身許《みもと》を洗え」
「分ったよ」
「いや、それは俺が手配しておく。——お前はあの娘が〈夜の紳士〉に連絡するのを、監視《かんし》するんだ」
「しなかったら?」
「必ずする。俺の勘《かん》を信じろ」
 健一郎は、息子の肩《かた》を叩《たた》いた。
「で——逮捕《たいほ》するの?」
「当り前だ。〈夜の紳士〉を見付けて、サインでもしてもらうのか?」
「別に——」
「しかし、ただ逮捕するんじゃ、面白くも何ともないな」
 と、健一郎は言った。「できることなら……。狙い通り、この屋敷《やしき》へ忍《しの》び込《こ》ませて、そこを逮捕する! それが一番だ。——いいな、あの娘から目をはなすなよ」
「うん……」
 車から降りると健吾は、「でも——ずっと僕《ぼく》一人で見張るの?」
「二、三日飯なんか食わなくても、死にやせん」
 健一郎がドアを閉め、車は走り去った。
 呆然《ぼうぜん》と見送った健吾は、
「——冗談《じようだん》じゃないよ」
 と呟《つぶや》いた。
 こんな道の真中に放り出されて、どうすりゃいいんだ?
 見張るといったって……。
 TVや映画の刑事物《けいじもの》だと、ちょうど向い側に空家があったりするものだが、ここは全然そんなものがない。
「参ったな」
 と、健吾は頭をかいた。
 何か音がした。——細川|邸《てい》の門のわき、小さな通用口が開いて、誰《だれ》か出て来る。
 健吾は、あわてて駆《か》け出した。見られちゃまずい!
 といっても……。隠《かく》れる所も……。
 通用口から出て来たのは、マリと、犬だった。
 買物なのか、ショッピングカートを引いて、歩いて行く。黒い犬がトコトコと、その後をついて行った。
 マリは何やら考えに沈んでいる。——道端のポリバケツのふたが少し持ち上っているのにも、全く気付かなかった。
 マリと黒い犬が通り過ぎると……。健吾はポリバケツから顔を出した。
 何か、隠れる所を見付けなきゃ!
 ゴミの匂《にお》いにへきえきしながら、バケツから出ようとした健吾は、みごとにバケツごと引っくり返ってしまった。
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