「ねえ、明子」
と、母の啓《けい》子《こ》が言った。「お前、どうするの?」
「何を?」
明子は朝のコーヒーを飲んでいた。
今日はもう出《ヽ》勤《ヽ》ではない。大学生の身分に戻《もど》ったのである。
「尾形さんのことよ」
「ああ、あれ。——もう少し考えるわ」
「そう? もう大分考えてるよ」
「考えてる、ってことにした方が、あっちが言うこと聞いてくれるから、儲《もう》かるのよ」
明子は立ち上った。「行って来ます!」
——啓子は一人になると、ため息をついて、
「いやになっちゃうねえ」
と、首を振《ふ》って、呟《つぶや》いた。「お父さんに結《けつ》婚《こん》を申し込《こ》まれたときの私とそっくり!」