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霧の夜にご用心22

时间: 2018-09-28    进入日语论坛
核心提示:消えた看護婦 「ねえ、病院へ行ってみましょうよ」 と、妙子はくり返した。「あの玉川正代っていう人、看護婦さんなんでしょ?
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 消えた看護婦
 
 「ねえ、病院へ行ってみましょうよ」
 と、妙子はくり返した。「あの玉川正代っていう人、看護婦さんなんでしょ?」
 「自分ではそう言ってるが……」
 「いかにもそんな印象だったわね」
 「うん。だけど何も言わずに飛び出して行っちまうなんて……」
 「病院へ行けば、住所や電話も分るんじゃない?」
 「そうか。それもそうだ。——よし、じゃタクシーを停めよう」
 「あそこへ来たわ」
 都《つ》合《ごう》良く目についた空車を停め、私と妙子は、あのメグが殺された病院へと向ったのである。
 病院というのは、やたらに食事の早いところで、夕食も五時頃《ごろ》には出されることが多い。これは、たぶん、片《かた》付《づ》けの手間などのことを考えて、そうなっているのだろう。
 私たちが病院へ着いたのは、まだ七時半ぐらいだったが、それでも静かで、入口のあたりは薄《うす》暗《ぐら》くて、もう何となく夜中にでもなっているような、そんな雰《ふん》囲《い》気《き》であった。
 「——やあ、あなたは……」
 と、私のほうへやって来たのは、メグが殺されたとき、警察へ通報した若《わか》い医師だ。
 TVドラマの医師は、洗《あら》いたてのパリパリ音をたてそうな白衣を着ているが、本物の医師でそんなのはまずいない。
 この若い医師も、例外ではなく、洗《せん》濯《たく》ですり切れかけた白衣の袖《そで》をまくり上げ、ボサボサの髪《かみ》は、およそスマートさとは縁《えん》遠《どお》い。
 「何かご用でも?」
 「実は、こちらの看護婦さんのことでうかがいたいんですが……」
 「看護婦がどうかしましたか」
 私は、玉川正代という看護婦が、あの事件のことで話があると言って来たことを説明し、ここまで来た事情を話した。
 「——玉川さんがね。分りました。しかし、何か見たというのなら、警察へ話をすればいいのに」
 「そこがちょっと不思議なんですがね」
 と私は肯《うなず》いて、「玉川さんという人は、確かにいるんですね?」
 「ええ、いますよ。かなりのベテランでしてね。今日はええと……ちょっと待って下さい」
 と、その医師は受付にいた看護婦のほうへと歩いて行った。
 「——何だか、陰《いん》気《き》ね、夜の病院って」
 と、妙子は言った。
 「そりゃ、あんまり楽しい場所じゃないからね」
 と私は微笑んだ。「それにあんな事件があったから、余計にそう思えるんだろう」
 「そうかもしれないわ」
 医師が戻って来た。
 「——お待たせしました。今日は休みを取っているそうですよ」
 「自宅は分りますか?」
 「ええ。寮《りよう》に入ってるんだと思いましたが……」
 「違《ちが》いますよ、先生」
 と、若い看護婦が声をかけて来る。
 「違ったかい?」
 「アパート借りてるんです。もう半年ぐらい前からですよ」
 「そうか。しかし、どうせ一人でいるのに、もったいないじゃないか」
 「何も知らないんだから」
 と看護婦はクスクス笑って、「玉川さん、男の人と住んでいるんですよ」
 「玉川さんが? 本当かい?」
 「ええ。みんな知ってます。先生ぐらいだわ、きっと、知らないのは」
 「そりゃ初耳だ。——どこのアパートか分る?」
 「ええ。住所変《へん》更《こう》の届も出てますもの」
 私は、その看護婦のメモしてくれた住所を見た。
 「大分、ここから遠いですね」
 「わざとそうしたんでしょ。だって、近かったら、みんなが冷やかしに行くもの」
 「なるほど。電話してみましょう」
 「かけましょうか」
 気のいい看護婦で、手もとの電話で、さっさとダイヤルを回してくれた。しばらく耳を傾《かたむ》けていたが、
 「出ませんわ」
 と肩《かた》をすくめる。
 「行ってみる?」
 と、妙子が私の顔を見た。
 「そうだなあ……。場所、分りますか?」
 「さあ。——遠いから、私も行ったことないし、それに割《わり》と親しい友だちのいない人なんですよ」
 行くとなれば住所を頼《たよ》りに行く他はないわけだが、大体の見当でも、二時間近くかかるとみておかなくてはならなかった。
 明日まで待つか。しかし、一刻《こく》を争うようなことにならないとも限らない。すでに何人もの人命が失われているのだから、用心しすぎるということはないのだ。
 そのとき、看護婦が、
 「あ、ちょっと待って。——ねえ谷《たに》村《むら》さん」
 と、通りかかった同《どう》僚《りよう》を呼んだ。「玉川さんと一番親しい人なんです」
 「なあに?」
 玉川正代と同年《ねん》輩《ぱい》のその看護婦は、私たちのほうを、ちょっとけげんな目つきでながめて、言った。
 「ねえ、谷村さん、玉川さんのアパートに遊びに行ったことある?」
 「ないわ。だって彼女、呼びたがらないんだもの」
 「あなたでもやっぱり?」
 「そうよ。彼氏のこと、見られたくないんじゃない?」
 「じゃ、行き方は分らないわね」
 「玉川さんに会うの? だったら、さっき上の階へ上って行ったけど」
 私と妙子は顔を見合わせた。
 「それは確かですか?」
 「もちろん。さっきエレベーターに乗るところを見たの。私服でいるから、あれ、と思ったんだけど、考えてみると、今日は彼女、休みなのね」
 「どこへ行けば会えますかね」
 「さあ……。何階で降《お》りたのかも分らないから。——放送してもらったらどうなんですか?」
 「今、やってあげますね」
 と、若い看護婦が奥《おく》へ入って行った。
 少し間を置いて、
 「玉川さん。玉川正代さん。受付においで下さい」
 というアナウンスが廊《ろう》下《か》に響《ひび》いた。
 「すぐ来ると思いますよ」
 「どうもありがとう」
 私たちは、若い医師に礼を言って、受付から少し入った所で、玉川正代が現れるのを待った。
 しかし、たっぷり五分近く待っても、玉川正代は現れない。——受付の看護婦が気にして、
 「変ですねえ」
 と出て来た。
 「捜すといっても、私たちじゃ勝手にあちこち覗《のぞ》き回るわけにもいかないし……」
 と妙子が、落ち着かない様子で言った。「何でもなければいいんですけど」
 単なる取り越《こ》し苦労に過ぎないのなら、それでも構わないのだが、何しろメグが殺されたばかりである。ついつい、不《ふ》吉《きつ》な予感が先に立つのだった。
 「上だとすると、たぶん、おしゃべり室だと思いますよ」
 と若い看護婦は言った。
 「おしゃべり室?」
 「ああ、そういうあだ名なんです。看護婦の仮《か》眠《みん》室なんですけど、色々おしゃべりするのに使われることが、一番多いもんですから……」
 と看護婦は言って笑った。「行ってみますか?」
 「そうですね」
 私たちは、その看護婦について、エレベーターのほうへ歩き出した。
 四階に上ると、静かな廊下を奥《おく》へと辿《たど》って行く。なるほど、一つの部《へ》屋《や》の中から、にぎやかなおしゃべりの声がしていた。
 「——ねえ、ちょっと」
 と、若い看護婦が声をかけた。「ここに玉川さん来なかった?」
 「来たわよ」
 と一人が答える。
 「奥にいるんじゃない?」
 「いないわよ。今、出てったもの」
 「あらほんと? 気が付かなかった」
 「出てったって、いつ?」
 「たった今。二、三分前かな」
 「アナウンスで呼んだのに……」
 「聞こえるわけないじゃないの」
 確かに、このにぎやかな女声合唱(?)にあっては、アナウンスの声など、とてもかなうまい。
 「——何だかえらくあわてて出てったわよ」
 と、一人が言った。「声をかけたんだけど、全然気が付かなくってさ」
 「そう。——ありがとう」
 受付の看護婦は私たちのほうへ向いて、「ごめんなさい。入れ違っちゃったみたいですね」
 「じゃ、下へ戻ってみましょう」
 と妙子が私の腕《うで》を取る。
 しかし、結局むだ足だった。どうやら、玉川正代は病院から出てしまったらしい。
 「でも何だか変ねえ」
 と妙子は言った。「何か話があると言っておいて、そのくせ姿《すがた》を消したり、わざわざ病院へ寄ってみたり……」
 「何か理由があるんだ、きっと」
 と私は至って当り前のことを言った。「——仕方ない。今日は引き上げよう。明日でも、また玉川っていう看護婦に連絡を取ってみればいいさ」
 「でも、何だか気になるわ」
 実のところ、私も妙子と同様、何となく割り切れない不安を覚えていた。しかし、だからといって、どうなるものでもあるまい。
 今から玉川正代のアパートを捜しに行っても、見つかるかどうか……。
 「やあ、平田さんじゃありませんか」
 と声がして、川上刑《けい》事《じ》が廊下を歩いて来た。
 「刑事さん……。何をしてるんです?」
 「手がかりを求めて、さすらっている、というところですよ」
 と川上刑事はちょっと笑った。「あなた方は?」
 「実は、ここの看護婦から電話がありましてね——」
 私が玉川正代のことを説明すると、川上刑事は興味を持ったようだった。
 「すると、アパートへ帰ったんですかね。——待って下さい」
 川上刑事は二、三本電話をかけた。
 「——アパートの近くの派出所から、一人警官をやって見張らせておきます。帰り着き次第、何か連絡があるはずです」
 なるほど、さすがに警察で、わざわざ足を運ぶまでのこともないわけだ。
 「しかし、どうして警察へ話そうとしなかったのかなあ」
 と、川上刑事は首をひねった。
 「自信がなかったのかもしれませんね」
 「そうですね。不確かな証言をして、大《おお》騒《さわ》ぎにでもなったらどうしようと心配なのかもしれません。どうも信用されていないところがありますねえ」
 川上刑事は苦笑した。
 
 「——家へ帰らなくていいのかい?」
 食事をしながら、私は妙子に言った。
 そうそう毎日高級レストランというわけにもいかないので、駅の近くのトンカツ屋に入っていた。
 「そうね。着《き》替《が》えもいるし、一《いつ》旦《たん》帰ろうかしら」
 「それがいいよ」
 「あら、私がいると邪《じや》魔《ま》なの?」
 と、妙子が私をにらんだ。
 「いや——そうじゃないけど」
 「居座ってやろうっと」
 妙子は楽しげに、「押しかけ女《によう》房《ぼう》、っていうのも、ちょっと昔風で楽しいじゃない?」
 「そうかね」
 「じゃ、今から帰って、荷物を持ってアパートへ行くわ」
 「今夜?」
 私は目を丸《まる》くした。
 「そうよ。一晩《ばん》だって放っとかないから」
 妙子はて《ヽ》こ《ヽ》でもその意志を変えそうになかった……。
 ——やれやれ。
 妙子と別れて、アパートへ戻る途《と》中《ちゆう》、私は考えていた。
 妙子はこのまま私のアパートに住みつく気らしい。
 どうも、そのまま結婚というコースを辿りそうな気配である。しかし、それでいいのだろうか?
 私はためらいながらも、結局は妙子を受け容《い》れてしまいそうな気がしていた。
 しかし——いずれにしても、今度の一連の殺人事件のけりをつけてしまわなければ、どうにもならない。あの、謎《なぞ》の女の正体を暴《あば》いてやらなければ。
 もちろん、それは警察の仕事だが、任せておくわけにはいかない。これは私がやらねばならない仕事なのだから……。
 アパートへ戻り、寛《くつろ》ぐ間もなく、電話が鳴った。出てみると、
 「あの——」
 と女の声。「先ほどはすみません」
 「玉川さんですね」
 「はい」
 「一体どうなさったんですか?」
 「申し訳ありません。急にちょっと……」
 と言葉を濁《にご》し、「今から、そちらのアパートへうかがってもよろしいですか?」
 「ここへですか? そりゃ……まあ、構いませんが」
 私はアパートへの道順を教えた。
 「その辺なら分ります」
 と、玉川正代は言った。「たぶんここから三十分くらいで行くと思います」
 「分りました」
 電話は切れた。——来ると言ったり、姿を消したり、どうもすっきりしない。一体何を知っているというのだろう?
 どうにも宙《ちゆう》ぶらりんな気持だった。不安、というのではないのだが、相手に振り回されている苛《いら》立《だ》ちに近いものだった。
 ともかく三十分はあるわけだ。
 着替えでもしようか、と立ち上がったとき、また電話が鳴った。
 「平田です」
 向うはしばらく沈《ちん》黙《もく》していた。——一《いつ》瞬《しゆん》、私は緊《きん》張《ちよう》した。「あ《ヽ》の《ヽ》女《ヽ》」か、と思ったのである。
 「もしもし。平田ですが」
 とくり返すと、
 「平田さん……小浜一美です」
 と、消え入りそうな、か細い声がして、私は息を呑《の》んだ。
 「小浜君! どこにいるんだ! 大丈夫なのか?」
 私は受話器を握《にぎ》りしめていた。
 「今……駅の近くまで来たんですけど……」
 声は弱々しく、途切れがちだった。
 「どうした? けがでもしてるの?」
 「いいえ……。ただ……もう力がなくなってしまって」
 「どこだ? 行ってあげる」
 「公衆電話の……ボックス」
 と言ったきり、電話は切れた。
 「小浜君!」
 返事のあるはずがないのを承知で、私は呼びかけていた。受話器を置いて、急いで玄《げん》関《かん》へ行き、靴《くつ》をはいた。
 しかし、玉川正代がやって来るのだ。——私はちょっと迷ったが、鍵《かぎ》をかけずに出て行くことにした。
 帰らない内に玉川正代がやって来ても、鍵が開いていれば、入って待っているだろうし、こんな所へ泥《どろ》棒《ぼう》も入るまい。
 私は急いでアパートを出て、駅へと向った。
 
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