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霧の夜にご用心26

时间: 2018-09-28    进入日语论坛
核心提示:霧の中の対決 「ちょっとできすぎだな」 アパートを出た私は、苦笑して呟いた。 ちょうど、この事件の始まった夜も、こんなひ
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 霧の中の対決
 
 「ちょっとできすぎだな」
 アパートを出た私は、苦笑して呟いた。
 ちょうど、この事件の始まった夜も、こんなひどい霧だった。
 偶然が、ちゃんと舞《ぶ》台《たい》を整えて、待っていてくれるのだ。
 アパートの下で、顔見知りの近所の人に会った。
 「今《こん》晩《ばん》は」
 と声をかけると、向うはキョトンとしている。
 無理もない。こっちは黒のコートに、帽《ぼう》子《し》を目《ま》深《ぶか》にかぶっているのだ。まさか、いつも冴《さ》えない背《せ》広《びろ》姿で歩いている同じ男とは思うまい。
 女は赤いコートで来る、と言った。
 しかし、この霧では、よほど近くへ来ないと、コートの色も分るまい。
 だが、逆に、向うがこっちの顔を知っているとしても、この霧では、誰か確かめるのに時間がかかる。そうむやみに人を刺《さ》すわけにいかないだろうから、この霧は、こっちにとっても好《こう》都《つ》合《ごう》である。
 女か。——いや、女ならばともかく、本当の犯人が川上刑事だったとしたら、どうなる?
 刑事を相手に争うのか。——勝ち目があるだろうか?
 たとえ川上を倒《たお》したとしても、私が殺人罪で捕《つか》まるのがオチかもしれない。川上が切り裂きジャックだったなんて、警察が信用するはずがあるまい。
 こっちは警官殺しで死刑……。
 どっちにしても死ぬか、と思うと、却《かえ》って気が楽になった。
 それなら、いっそ相手と刺し違えて死ぬのがよほど楽だ。——どうせ、生きていても、大してやることはない。
 妙子も去って行った。
 私はタクシーを止めた。
 公園へ向うように言うと、
 「ひどい霧ですね」
 と運転手が言った。
 「全くだね」
 「スピードが出せないんで、ちょっと時間がかかりますよ」
 「ああ、構わないよ」
 十時には、まだ大分間があった。
 タクシーは、本当に低速で、慎《しん》重《ちよう》に走っていた。
 「気味が悪いですね」
 と運転手が言った。
 「そうかい? それもたまにはいいじゃないか」
 「何かこう、霧の中から、ワッと出て来そうですね」
 「化《ば》け物でも?——切り裂きジャック、なんてのがいたね」
 「そうですよ! あんなのがタクシーに乗って来たら、一巻《かん》の終りですからな」
 私は黙《だま》って微《び》笑《しよう》した。——ナイフを出して、実は僕がそうなんだよ、と言ってやりたかったが、やめておいた。
 こんなところで騒《さわ》ぎになったら、十時までに公園には着けない。
 「——もう少しですよ」
 と運転手が言った。「すみませんね、遅くて」
 「いや、いいんだ。まだ間に合う」
 「やあ、こいつは……」
 運転手が舌打ちした。「車がつながっちゃってますね」
 「何かあったのかね」
 「追《つい》突《とつ》でしょう。この霧じゃ当り前ですよ」
 「動かないかな」
 「——ちょっと大変ですよ、こいつは。もう近いし、歩いたほうが早いと思いますがね」
 「分った。そうしよう。——つりはいいよ」
 「ああ、どうもすみませんね」
 と、運転手は礼を言った。
 私は歩き出した。
 霧は、確かにひどくなっている。——それほどの距《きよ》離《り》ではないのだが、かなり遠く感じた。
 気が付くと、公園の入口に来ていた。噴《ふん》水《すい》が、うっすらと見えている。
 街《がい》灯《とう》の光が、白く霧の中ににじんでいた。
 ここを一歩入れば、どこから刺されるか分らないのだ。私は、コートのポケットの中でナイフを握りしめた。
 ここは正面の入口である。裏へ回ろうかと考えたが、却って向うは裏で待っているかもしれない、という気がして、正面から入ることにした。
 どこをどう歩くか。それとも、一か所に潜《ひそ》んで、向うが動くのを待つか。
 もしかすると、相手も車が渋《じゆう》滞《たい》して、遅《おく》れて来るのかもしれない。——先に見つけたほうが勝ちである。
 噴水のわきを回って、階《かい》段《だん》を上がる。——できるだけ奥のほうがいい。
 「すみません」
 女の声にギョッとして振り向いた。高校生らしい、制服の女の子だ。
 「何だい?」
 「あの——公園を横切って帰るんですけど、一《いつ》緒《しよ》に歩いてくれません? 怖《こわ》くって一人では……」
 一緒にいたほうがよほど怖いよ、と言いかけて、やめた。——却って、この娘と一緒ならカムフラージュになるかもしれない。
 「いいよ。どっちへ行くの?」
 「すみません。この道をずっと——」
 「よし。じゃ行こう」
 「良かった!」
 女の子はホッとした様子で、私の腕《うで》に手をかけて歩き出した。
 霧《きり》に誘《さそ》われたのか、恋《こい》人《びと》たちのシルエットが、いくつも現れては消える。ご苦労なことだ……。
 「ねえ」
 と女の子が言った。
 「何だい?」
 「一枚《まい》でいいけど、どう?」
 私はびっくりして、その少女を見た。とてもそんなことをする子に見えないのだ。
 「そんな目で見ないで。——お金がいるんだもの」
 と少女は顔をしかめた。
 「危《あぶな》いね。相手が変質者だったら、どうするんだ?」
 「不運と諦《あきら》めるわ。おじさん、そうなの?」
 「そうだ、って答える奴《やつ》はいないよ」
 「それもそうね。——私はあんまりやんないのよ。でもお金がいるんだもの」
 私は、ふと考えついた。
 「じゃ、アルバイトをしてくれないか」
 「どんな?」
 「この公園の中は詳《くわ》しい?」
 「うちの庭みたいなもんよ」
 「じゃ、中を一回りして来てくれないか」
 「どうするの? 新しいゲーム?」
 「まあ、そんなところだ」
 と私は、ちょっと笑って言った。「赤いコートの女を見付けたら、教えてほしい。どこにいるのか、何をしているか、誰かと一緒かどうか」
 「面白そうね」
 「さあ、一枚渡《わた》しておくよ」
 と私は一万円札《さつ》を財《さい》布《ふ》から抜いて渡した。
 「先にもらっていいの?」
 「ああ。終ったら、もう一枚だ」
 「へえ、気前いいのね」
 少女は楽しげに言った。「——OK。じゃ行ってくるわ。ここにいる?」
 「ああ」
 私は肯《うなず》いた。
 少女の姿はすぐに霧に溶《と》けて見えなくなった。私は道を外れて、茂《しげ》みの奥《おく》に身を潜めた。
 どれくらい待てばいいのだろう?
 私は、帽子を取ると、その茂みの上にそっとのせた。道のほうからよく見れば、ここに隠れているように見えるだろう。
 子供だましの手だが、こんなときだ。何にひっかかってくれるか分らない。
 私は、茂みの中を、横へと動いた。
 ——何かにつまずいて、
 「いてっ!」
 と声がしたので、びっくりした。
 若いカップルが起き上がった。
 「何だよ、けとばさないでくれよ」
 「やあ、失礼」
 と私は言った。
 「さっきの奴と違うのか。——何だか今日は気分出ねえな」
 「おい、待ってくれ」
 と私は言った。「さっきの奴って……。他にも誰かいたのかい?」
 「変なおじさんね」
 と、女のほうがクスクス笑った。
 「赤いコートを着ているのよ、いい年齢《とし》したおじさんがさ」
 男が赤いコート?——私は緊《きん》張《ちよう》した。
 「そいつは、どこへ行った?」
 「知らないよ」
 「あら、向うへ行ったみたいよ。あの石段を上がってったもの」
 「ありがとう。——いつ頃《ごろ》だね、それは?」
 「十分前ぐらいじゃない?」
 と女のほうは協力的である。「確かこの人がブラジャー外そうとしてたから」
 「おい——」
 女がクスクス笑った。
 「どうもありがとう」
 と私は言って、先へ進んだ。
 女が言った石段というのは、ちょっとしたベンチの並《なら》ぶ休《きゆう》憩《けい》所《じよ》らしき場所で、今はそこも霧に閉《と》ざされている。
 相手はあの上にいるのだろうか?
 だが、向うにとっても、あれでは場所が悪いのではないか。こっちが、あんな所へのこのこ入って行くとでも思っているのだろうか?
 相手はまずあそこにいない、と私は判断した。——逆にあそこで待ち伏《ぶ》せしてやってもいい。
 捜《さが》し回って、疲《つか》れたら、ああいう場所で一息入れることは考えられる。
 「——おじさん」
 あの少女の声に、ハッと身をかがめる。
 「どこ?——おじさん」
 少女は私を捜している。
 私は、声をかけようとして、また身を沈《しず》めた。少女の向うに、何か赤いものがチラリと動いたような気がしたのである。
 あれはもしかすると……。
 「おじさん……」
 と少女はキョロキョロ辺りを見回している。
 赤いもの——赤いコートだ!
 それが少女のほうへと近づいていた。放ってはおけなかった。
 「危い!」
 私は飛び出した。同時に赤いコートは、霧の中へと消えた。
 「ああ、びっくりした!」
 と少女は目を丸《まる》くしている。「どうしたの?」
 「危いぞ。君はもう、帰れ」
 「あ、そう。もう一枚の約《やく》束《そく》よ」
 「そうか」
 私は財布を出すと、そのまま少女へ渡して、
 「もういらないんだ。持って行っていいよ」
 と言った。
 「ええ? だって——入ってるよ、まだ」
 「いいんだ。どうせ使うことはない」
 私はナイフを握った。少女が身をすくめて、
 「殺さないで!」
 「違うよ。大丈夫だ。奴がいるんだ」
 「奴って?」
 「切り裂きジャックさ」
 「まさか!——だって——」
 「君はどこかへいってろ。けがするぞ」
 「あのね、赤いコートの女が、噴水の所に立ってたわ」
 「女か。——こっちが捜しているのは男なんだ」
 「え? どういうことなの?」
 「いいから行けよ」
 と私は言った。
 「キャーッ!」
 と、悲鳴が耳を打った。
 茂《しげ》みの中だ。——さっきの女が、転がるように飛び出して来た。
 「助けて!」
 ブラウスの前がはだけて、血だらけだ。しかし、傷《きず》は負っていないようだった。
 「彼がやられたの!」
 あの帽子のせいか? 私がいると思い込んで突っ込んで行って、アベックたちのほうまで行ってしまったのかもしれない。
 私はナイフを手に、茂みの中へと飛び込んで行った。
 赤いコートが、霧の中へと翻《ひるがえ》って消えた。私はその方向へと走った。
 もう、恐《きよう》怖《ふ》も何もない。これ以上、あ《ヽ》い《ヽ》つ《ヽ》が、血を流すのを止めなければならない。
 靴《くつ》の音が、公園の中に響《ひび》いた。霧の中に薄《うす》れる〈赤〉を追って、私は走った。
 ——フッとその赤が消えた。
 足を止め、あたりをうかがう。
 息が荒《あら》くなっていた。——向うも同様だろう。
 目と耳に、神経を集中する。
 しかし、思いがけないことが起こった。——背《はい》後《ご》に足音が近づいた。
 いつの間に後ろへ回ったのか。私は振り向こうとした。駆《か》け寄って来る足音。——間に合わない!
 私は身を地面に投げ出すようにした。赤いコートが広がって、私の上にかぶさって来る。私はそれを払《はら》いのけた。
 ナイフを持った手が、真上に向いた。誰かの体がかぶさって来た。
 ナイフの刃《は》はその体へと呑《の》み込《こ》まれていた。
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