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紙細工の花嫁07

时间: 2018-09-29    进入日语论坛
核心提示:6 情ない男〈塚川亜由美 様 その節は本当にありがとうございました。私たちは無事にハネムーンの行程の半分を過ぎ、今、ロー
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 6 情ない男
 
 
〈塚川亜由美 様
 その節は本当にありがとうございました。私たちは無事にハネムーンの行程の半分を過ぎ、今、ローマに来ています。冬のヨーロッパはとても寒いのですけど、彼と二人でいると、少しも寒く感じません。
 亜由美さんも早くいい人[#「いい人」に傍点]を見付けてお二人でヨーロッパへ。
 では日本へ帰りましたら、改めてお礼に伺いたいと思います。
 神田さん、犬のドン・ファンにもよろしくお伝え下さい(帰ったら、ドン・ファンにステーキをおごる、と彼が言っています)。
 では、お元気で。
 ローマ、サンタンジェロ城を望むホテルにて。
[#地付き]梶原恭子〉
 
「許せない!」
 と、亜由美は、バンとテーブルを叩《たた》いた。「何よ、この態度は! 『彼と二人でいると、少しも寒く感じません』だなんて」
「本当」
 と、聡子も肯《うなず》いて、「はじらい、ってものが欠けてる」
「『亜由美さんも早くいい人[#「いい人」に傍点]を見付けて』なんて、余計なお世話だっての!」
「いい人、ってところについてる傍点が、いやみね」
「ねえ! ローマが何よ、パリが何よ。ハネムーンが何よ!」
 亜由美と聡子は、しばし顔を見合わせて、それから同時に深いため息をついた。
「こっちだって、早くいい人[#「いい人」に傍点]を見付けたいわよ」
「ねえ……」
「ハネムーンにも行ってみたい」
「本当……」
 ——ぐっと沈んだムードになったところで、
「クゥーン」
 と、一声、ドン・ファンが鳴いて、しめくくる……。
「——ま、何もなくて良かったじゃないの」
 気を取り直して、聡子が言った。
「まあね。人の幸せをねたむところまでは落ちぶれてないもんね、私たち」
「そうそう。何てったって若いんだから」
「そうよ! 私たちの未来は明るい!」
 と、亜由美はぶち上げた。
「ワン!」
 ドン・ファンも賛成してくれているようである。
 ——ところで、いつもの、亜由美の部屋で三人が寝そべっている、という場面とは違って、ここは——大して違わないが——塚川家のダイニングで、母の清美が出かけてしまったので、亜由美たちは出前のソバを取って食べていた。
 そこへちょうど、ハネムーン先からの、小田恭子の——いや、梶原恭子の絵ハガキが届いた、というわけである。
 十二月の最初の日曜日。——大学も、もう冬休みに入ったも同然で、二人はいつもながら(?)のんびりしていた。
 梶原真一が爆弾で命を狙《ねら》われた事件は、殿永が担当して捜査が進められていたが、今のところあまり進展を見ているとは言えなかった。
 式場で、怪しいと見られて、自ら手首を切って自殺を図った結木健児が一応の容疑者だったが、あの手製の時限爆弾と、結木とのつながりが一向に見出せず、また、ウェディングケーキの上の人形のすりかえにしても、すりかえた後、本来の花嫁花婿の人形をいつまでも持っていたのも妙だった。
 結局、当人の話の通り——もちろん、手首を切っても、一命を取り止めたのである——小田恭子に恋していて、その花嫁姿を見たくて式場へ行った、という可能性の方が大きい、ということになっていた。
「——ねえ、亜由美」
 と、聡子が言った。「その後、殿永さんからは?」
「別に連絡ないわよ。やっぱり男なんて冷たいわよ」
 こうなると八つ当りである。「——さ、早くソバ食べよ。のびちゃうよ」
「食べる人間の方がのびてる」
「ドン・ファンの方がもっとのびてる。——ま、ありゃもともとだけど、ハハ」
「ワン!」
 と、ドン・ファンが怒ってる。
「——何か玄関の方で音がしなかった?」
 と、聡子が言った。
「そう? お母さん、まだ帰って来ないと思うけど」
 一応、亜由美が立って、玄関へ出てみると、白い封筒が落ちている。どうやら、ドアの隙間《すきま》から投げ込んだものらしい。
「——どうせ、保険とか証券会社の宣伝よ」
 と、亜由美はダイニングへ戻って来て、封を切った。
 逆さにして、亜由美も聡子も目を丸くした。
 中から落ちて来たのは——紙細工の花嫁の人形だったからだ……。
 
 会議室のドアを開けて、田崎は、ちょっと左右を見てから中に入った。
 会議室の中には、松井見帆が一人で、椅子にかけている。
「——やあ」
 田崎はニヤッと笑って、「呼び出してくれて嬉《うれ》しいよ」
「お話があるだけです」
 と、見帆は無表情に言った。
 田崎は、見帆の隣の椅子にかけると、
「忘年会の旅行、行かないんだって?」
 と、訊《き》いた。
「興味がないんです。一人で行きたい所もありますし」
「二人[#「二人」に傍点]ならもっと楽しいよ」
 田崎が見帆の足をなでようと手を伸ばす。見帆がその手を払いのけた。
「やめて下さい」
「冷たいな、おい。——いつも慰めてやってるじゃないか」
「こっちからお願いしたことはありませんけど」
 と、見帆は冷ややかに言った。
「強がりはよせよ」
 と、田崎は笑って、「女の一人寝は侘《わび》しいもんだろ?」
「いやな男と寝るのはもっと侘しいですよ」
 見帆は言い返した。「そんなことより、結木君のことです」
「結木?」
 田崎は顔をしかめた。「あんな奴のこと、聞きたくもないや」
「ずいぶん勝手ですね」
 と、見帆は厳しい目で田崎を見つめて、「安く上るからって、あんなにこき使っておいて」
「だって、あいつは警察に捕まってるんだぜ」
「殺人未遂の疑いは晴れたはずです。手首の傷が治ったら、復帰させてあげて下さい」
「冗談じゃないよ」
 と、田崎は顔をしかめた。「あんな奴のこと、どうだっていいじゃないか。なあ、そんなことより……」
 田崎は急にニヤついて、「温泉に一泊でどうだい? タダで行ける業者の招待クーポンが手に入ったんだ」
「結木君を、ちゃんと仕事に戻して下さい」
「——どうしてあいつのことを、そんなに気にするんだ? それとも、まさか……」
「何ですか?」
「君、あいつとも寝てたのか?」
 見帆は口を歪《ゆが》めて、笑った。
「そんなことしか考えられないんですか」
「じゃ、結木をまた働けるようにしてやったら、温泉に付合うかい?」
「いいえ」
「そりゃないよ」
 と、田崎は苦笑して、「頼みごとにゃ、見返りが必要だ」
「見返りはあります」
「何だね」
「黙っていてあげますわ、私と課長さんとの仲を」
「黙って? そりゃ、どういう意味だね」
「私がお宅へ伺って、奥様にお詫《わ》びします。ご主人とこんなことになって、申し訳ありません、と」
 田崎は、一瞬顔をこわばらせた。——田崎の所は妻に頭が上らない。大変な財産家の娘なのである。
「そんなことができるもんか」
 と、田崎はひきつるような笑顔を作って、「自分が笑いものになるぞ」
「一向に構いません。別に私には夫も恋人もありませんから」
 と、見帆は気にする様子もない。「たとえ辞《や》めることになっても、どこででも働けますわ」
「おい!」
 田崎が立ち上った拍子に、椅子が倒れた。「いい気になるなよ!」
「いい気になっていらっしゃるのは、そちらじゃありませんか」
 見帆はたじろぐ気配もなく、じっと田崎を見据えた。「結木君のことはお願いします」
 田崎は、顔を紅潮させて、見帆をにらみつけていたが、やがて荒々しく息をついて、会議室を出て行った。
「キャッ!」
 ドアが開いて、飛びすさったのは、五月洋子だった。
「そんな所で何してるんだ!」
 と、田崎は怒鳴りつけて、行ってしまった。
 ——五月洋子は、会議室の中を覗《のぞ》いた。
「松井さん……」
「洋子さん。聞いてたの?」
「すみません。聞くつもりなかったんですけど、人の声がするな、と思って、つい……」
「いいのよ」
 見帆は、田崎が倒した椅子《いす》を起こした。「私もね、馬鹿だったの。いつも奥さんに頭の上らない田崎課長にちょっと同情して……。でも、同情するほどの価値もない男だったわね」
「松井さん……」
「私に失望したんじゃない?」
「とんでもないです。ただ——」
「なあに?」
「真珠のネックレス、持って来るのずっと忘れてて、すみません」
 見帆は笑って、
「いいのよ」
 と、洋子の肩を抱いた。「さ、仕事に戻りましょ」
「はい!」
 ——二人は会議室を出た。
「梶原さんたち、明日戻って来るんでしたね」
 と、洋子が言った。
「そうね。ちょうど土曜日だし、月曜日から出て来るでしょ」
「松井さんも……」
 と、洋子は言いかけて、ためらった。
「え?」
「早くいい人を見付けて下さいね」
「まあ、ありがとう」
 と、見帆は笑った。「急ぐばかりが能じゃないわ。そうでしょ?」
「そうですね」
 と、洋子は楽しげに言った。
 
「——畜生め!」
 と、田崎は吐き捨てるように言った。「女が何だ!」
 大体こういうセリフを吐く人間に限って、女にだらしがない、と相場が決っているのである。
「俺《おれ》を馬鹿にしやがって! 承知しねえぞ!」
 周りには誰もいない。——酔って帰宅する途中である。
 アルコールが入っているのに、一向に寒さが体から逃げて行かない。そんな時は、いくら飲んでも、酔いはしないのである。
 足がふらつく。——早く帰りたいわけでもないのだ。といって、表にいても、何も面白いことはない。
「畜生!」
 と、田崎はまた、くり返した。
 そして、道の角を曲った時、突然誰かに突き当られて、
「ワッ!」
 と声を上げた。
 ドスンと尻《しり》もちをついて、目を白黒させたが、
「何だ! 人に突き当っといて——」
 グチが出たが、その時には、突き当った人間はとっくにいなくなっていた。
「全く……。礼儀を知らねえ奴ばっかりだ」
 と、ブツクサ言いながらやっと立ち上ると、また歩き出した。
 一段と風が強くなって、田崎は身震いした。
「どうしてこんなに寒いんだ!」
 と、天候にまで腹を立てている。
 そしてコートのポケットに手を突っ込んだのだが……。
「ん?」
 何か入ってる。こんな所に何か入れたかな?
 取り出して、田崎は目をパチクリさせた。
 ——それは紙を折って作った花嫁の人形だった……。
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