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めざめた花嫁05

时间: 2018-09-29    进入日语论坛
核心提示:4 犬と少女の物語「裏切り者、おはよう」 と、神田聡子が言った。「まだ言ってる! しつこいのね、あんたも!」 と、亜由美
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 4 犬と少女の物語
 
 
「裏切り者、おはよう」
 と、神田聡子が言った。
「まだ言ってる! しつこいのね、あんたも!」
 と、亜由美は顔をしかめた。「ちゃんと説明したでしょうが」
「でも、裏切ったことは間違いない」
「分ったわよ。お昼、何でも好きなもん、おごるから」
「やった! じゃ、勘弁してやる」
 と、聡子はニヤニヤして、「でも、学食でしょ?」
「当り前でしょ。私たちは学生よ」
 と、亜由美はもったいぶって言った。
 正直なところ、学食なら、どんなに高くても千円以下ですむのである。
「——デパートに、ウェディングドレスの幽霊が出たって、TVで見た?」
「知ってるわよ」
 と、亜由美は苦笑して、「ゆうべのTVは、そればっかりだったじゃない」
「本当に幽霊だったのかなあ」
 ——二人は、午前中の講義に出るべく、大学のキャンパスの中を歩いていた。
 暖かい、穏やかな日で、亜由美は、講義も始まっていないのに(?)もう眠くなっていた……。
「分んないわよ。だけど、幽霊なら、あのデパートに出る理由がありそうなもんじゃないの」
 と、亜由美は言った。
「へえ」
 と、聡子は意外そうに、「亜由美、幽霊って信じてるの?」
「別に。——絶対にないとも言えない、くらいのことは考えてるわ」
 と、肩をすくめて、亜由美は言った。
「そうなの? 名探偵は、すべて合理的なものの考え方をするのかと思ったわ」
「そんなことないわよ。大体、人間なんて合理的な生きものじゃないでしょ」
 亜由美は珍しく(!)哲学的な意見を述べたのだった。
「——ああ、よく眠れそう」
 と、講義室へ入って、聡子が大|欠伸《あくび》。
 大学へ来ると欠伸が出る、というのは、やはり「条件反射」というべきものかもしれない。
 人間も、この辺は「合理的」にできているのである。
「——塚川君」
 と、呼ぶ声がして、早くも少しトロンとしていた亜由美は、
「何よ、気安く呼ぶなって」
 と、振り向いた。
「君に電話が入っているそうだ」
 と、教授が、冷ややかな目で、亜由美を見下ろしていた……。
 ——全くもう!
 こんな時に、電話して来るなんて、どこの誰だ!
 八つ当り気味にブツクサ言いつつ、亜由美は事務室へと駆けて行った。
「あ、塚川さん」
 と、よく顔を知っている事務の女の子が、
「その電話」
 と、指さす。
「すみません」
「珍しく警察からじゃないみたい」
「——どうも」
 と、亜由美は、やや複雑な思いで、言った。
 もっと、恋人からとか、不倫の相手からとか(!)、色っぽい電話はないものだろうか……。
「——お待たせしました」
 と、息を弾ませて、出ると、
「あ、先生ですか」
「え?」
 一瞬、かけ間違いかと思って、ムッとした。せっかく人が走って来たのに!
 しかし、待てよ。この声は……。
「津田恵子の母でございます」
「あ、どうも」
 怒鳴《どな》りつけなくて良かった。
「あの——実は、大変お恥ずかしいことなんですが」
 と、津田郁江は言った。
「いいえ、この間はごちそうさまでした」
 と、亜由美も、トンチンカンなことを言っている。
「恵子が家出したらしいんです」
「ええ?」
 これには、さすがの亜由美も目が覚めてしまった。
「い、いつですか?」
「学校から連絡がありまして……。まだ来ていない、と。いつも通りに出ましたので、びっくりして、何かあったのかと」
「それで?」
「机の上に、手紙が……。あの——ゆうべ、私と主人が、少し言い合いをしたのです。それを聞いていたようで……」
「じゃ、置手紙が?」
「そうなんです。——どこへ行ったのか、心当りを捜しているんですけど。もしかしたら先生の所に」
「分りました。まあ、大丈夫と思いますよ。恵子ちゃん、しっかりしてるから。もちろん、うちへみえたら、ちゃんとお預かりしますから」
「よろしく。あの——その時はご連絡を」
「もちろんですわ」
「お勉強の最中、失礼いたしました」
「あ、いいえ、どうも……」
 一瞬皮肉を言われたのかと思った。それはひがみというものだろう。
 亜由美は電話を切って、戻りかけたが——。ふと、ある直感が、亜由美の中にひらめいた。
「——すみません、この電話、借りていいかしら」
「ええ、いいわよ」
「ちょっと家へかけるだけだから」
 と、亜由美は言った。
 学生は、事務室の電話でかけてはいけないことになっているのだ。
「——もしもし、お母さん?」
「あら、亜由美。元気?」
「今朝会ったでしょ」
「そうだっけ?」
「どうでもいいけど、ね、誰か私のことを訪ねて来なかった?」
「来たわよ」
「やっぱり! じゃ、私が帰るまで待っててって言っといて」
「もう帰ったわよ」
「ええ? どうして止めとかなかったの?」
「あなた、そんなに保険に入りたいの?」
「何よ、それ?」
「生命保険の勧誘の人でしょ」
「違うの! あのね、私の教えてる小学六年生の子が家出したの」
「まあ」
 と、清美がびっくりしたように、「あなたがそそのかしたの?」
「まさか! もし、私のこと訪ねて来たら、大事にしておいてね」
「分ったわ。でも——来ないんじゃない?」
「どうして?」
「そういう時は、頼りになりそうな人の所へ行くものよ」
 何考えてんだろ、あの母親は!
 亜由美は、事務室を出て、歩きながら、
「やっぱり、あの亭主は浮気してたんだ」
 と、呟《つぶや》いた。
 それが分って、また津田郁江が怒った。
 恵子が家を出るくらいだから、少々のことじゃなかったんだろう。——本当に、家庭内が荒れていると、子供ってのは、やり切れないものだ。
 その点、亜由美の所は、父親の「恋人」はアニメの少女たち——ハイジとか、セーラとかだから、母親も怒ったりしないのである。
「あれ?」
 ——亜由美は、ハッと我に返った。
 何だか知らないが、講義室に戻ったつもりが、いつの間にやら、外へ出て、校門の方へと歩いていたのだ。
 これはきっと、何かの「お告げ」なんだわと亜由美は思った。家へ帰るべきだという……。
 亜由美は、運命には逆らわないことにした。——もちろん、聡子から、また、「裏切り者!」と言われるかもしれないとしても…‥。
 
「ワン」
「あら、ドン・ファン。——お腹|空《す》いたの? ちょっと待っててね」
 と、清美は、亜由美の電話に出た後、片付けをしながら言った。
「手伝いましょうか」
「いいのよ。あんたはその辺で引っくり返ってなさい」
 と、清美は言ったが……。
 しかし、ドン・ファンがいくら「人間的」な犬でも、人間の言葉をしゃべったのは、聞いたことがない。清美は、びっくりして(大分遅かったが)、振り向いた。
 そこには、見るからに利発そうな少女が立っていた。
 これがドン・ファンかしら。もしかしてダックスフントは、呪《のろ》いをかけられた仮の姿で、本当は……。
 でも、足の長さが違いすぎるし。
「あの、すみません」
 と、少女は頭を下げて、「津田恵子です。亜由美先生のお宅ですよね」
「亜由美先生……。ああ! あなたが、亜由美の教えている、可哀そうな[#「可哀そうな」に傍点]——いえ、可愛い生徒さんね」
 と清美は言った。
「突然すみません」
「いいのよ。よく分ったわね」
「近くまで来たら、この犬が……」
 と、ドン・ファンを指して、「足下にじゃれついて来て。先生から聞いてたんです、この犬のこと。それで一緒に来たんです」
「まあ。そうなの。ともかく可愛い女の子に目がないの、この犬。さ、座って。何かお菓子でも食べる?」
「お構いなく」
 と、ちょっと大人びた口をきくのも、こういう子だとおかしく見えない。
「家出して来たんですって?」
「え?」
 と恵子は目を丸くして、「じゃ、お母さん、もうここへも知らせたのかあ」
「いいわねえ。今の内よ、家出なんてできるのは」
「そうですか」
「そう。子供が大きくなったら、もう家出なんかできませんよ」
 恵子には大分先の話だろうが……。
 ——亜由美が帰って来たのは、それから三十分ほどしてのことだった。
「ただいま!」
 と、玄関を上って、少女の靴があるのに気付いた。
「やっぱり!」
 居間へ入った亜由美は、ソファで、母親とドン・ファン、それに恵子の三人が揃《そろ》って昼寝しているのを見て、唖然《あぜん》としたのだった……。
「——でも.お宅では、心配してるわよ」
 と、亜由美は、目を覚ました恵子に、言ってやった。
「ええ。もちろん、ここにいることは知らせるつもり。だけど、帰りたくないの。——いいでしょ、先生?」
 と、哀願されると、亜由美も弱い。
「でも……」
「どうせ、うちは当分大変だし」
「大変って? またお父さんが謝ってるの?」
「それが——」
 と、恵子が、ちょっと眉《まゆ》を寄せて、「ただ、女の人がいた、とか、そんなんじゃないみたい」
「へえ」
「聞いちゃったんだ」
「何を?」
「お母さんが言ってるのを。——『何のためにあんなことしたの!』って。ね? おかしいでしょ、訊《き》き方が」
「うん……」
「たぶん——お父さんか、お母さんか、どっちかが、あの女の人を殺したんじゃないかなあ」
 と、恵子は言った。
 亜由美はドキッとして、少女を見つめたのだった……。
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