「あいつは、ここに住んでいるのかい?」ベラは蔑さげすむような声で聞いた。「ここに? マグルの掃はき溜だめに? 我々のような身分の者で、こんなところに足を踏ふみ入れるのは、私たちが最初だろうよ――」
しかし、ナルシッサは聞いていなかった。錆さびた鉄柵の間をくぐり抜け、もう通りの向こうへと急いでいた。
「シシー、お待ちったら!」
ベラはマントをなびかせてあとを追い、ナルシッサが家や並なみの間の路地を駆かけ抜けてどれも同じような通りの二つ目に走り込むのを目もく撃げきした。街灯がいとうが何本か壊こわれている。二人の女は、灯あかりと闇やみのモザイクの中を走った。獲物えものを追う追っ手のように、ベラは角を曲がろうとしているナルシッサに追いついた。こんどは首尾しゅびよく腕をつかまえて後ろを振り向かせ、二人は向き合った。
「シシー、やってはいけないよ。あいつは信用できない――」
「闇の帝てい王おうは信用していらっしゃるわ。違う?」
「闇の帝王は……きっと……間違っていらっしゃる」ベラが喘あえいだ。
フードの下でベラの眼めが一いっ瞬しゅんギラリと光り、二人きりかどうか、あたりを見回した。
「いずれにせよ、この計画は誰だれにも漏もらすなと言われているじゃないか。こんなことをすれば、闇の帝王への裏切うらぎりに――」
「放はなしてよ、ベラ」
ナルシッサが凄すごんだ。そしてマントの下から杖つえを取り出し、脅おどすようにベラの顔に突きつけた。ベラが笑った。
「シシー、自分の姉に? あんたにはできやしない――」
「できないことなんか、もう何にもないわ!」
ナルシッサが押し殺したような声で言った。声にヒステリックな響ひびきがあった。そして杖をナイフのように振り下ろした。閃光せんこうが走り、ベラは火傷やけどをしたかの�x">
第2章 スピナーズ・エンド Spinner's End(2)
「あいつは、ここに住んでいるのかい?」ベラは蔑さげすむような声で聞いた。「ここに? マグルの掃はき溜だめに? 我々のような身分の者で、こんなところに足を踏ふみ入れるのは、私たちが最初だろうよ――」
しかし、ナルシッサは聞いていなかった。錆さびた鉄柵の間をくぐり抜け、もう通りの向こうへと急いでいた。
「シシー、お待ちったら!」
ベラはマントをなびかせてあとを追い、ナルシッサが家や並なみの間の路地を駆かけ抜けてどれも同じような通りの二つ目に走り込むのを目もく撃げきした。街灯がいとうが何本か壊こわれている。二人の女は、灯あかりと闇やみのモザイクの中を走った。獲物えものを追う追っ手のように、ベラは角を曲がろうとしているナルシッサに追いついた。こんどは首尾しゅびよく腕をつかまえて後ろを振り向かせ、二人は向き合った。
「シシー、やってはいけないよ。あいつは信用できない――」
「闇の帝てい王おうは信用していらっしゃるわ。違う?」
「闇の帝王は……きっと……間違っていらっしゃる」ベラが喘あえいだ。
フードの下でベラの眼めが一いっ瞬しゅんギラリと光り、二人きりかどうか、あたりを見回した。
「いずれにせよ、この計画は誰だれにも漏もらすなと言われているじゃないか。こんなことをすれば、闇の帝王への裏切うらぎりに――」
「放はなしてよ、ベラ」
ナルシッサが凄すごんだ。そしてマントの下から杖つえを取り出し、脅おどすようにベラの顔に突きつけた。ベラが笑った。
「シシー、自分の姉に? あんたにはできやしない――」
「できないことなんか、もう何にもないわ!」
ナルシッサが押し殺したような声で言った。声にヒステリックな響ひびきがあった。そして杖をナイフのように振り下ろした。閃光せんこうが走り、ベラは火傷やけどをしたかのように妹の腕を放した。
「ナルシッサ!」
しかしナルシッサはもう突進とっしんしていた。追つい跡せき者しゃは手をさすりながら、こんどは少し距離きょりを置いて、再びあとを追った。レンガ建ての家の間の人気ひとけのない迷路めいろを、二人はさらに奥へと入り込んだ。ナルシッサは、スピナーズ・エンドという名の袋ふくろ小こう路じに入り、先を急いだ。あのそびえ立つような製せい糸し工こう場じょうの煙突が、巨大な人指し指が警告けいこくしているかのように、通りの上に浮うかんで見える。板が打ちつけられた窓や、壊れた窓を通り過ぎるナルシッサの足音が、石いし畳だたみにこだました。ナルシッサはいちばん奥の家にたどり着いた。一階の部屋のカーテンを通してちらちらと仄暗ほのぐらい灯りが見える。